第392話 荒ぶる小学生と公平と言う名の盾

「はーい! それじゃあ、花祭学園のお兄さんとお姉さんが、これからお楽しみ会を開いてくれまーす! みんな、拍手ー!!」


 内田先生の呼びかけに、「わぁぁぁっ」と盛り上がるキッズ。

 聞いてよ、この大声援を!

 もうこれ、勝どきを上げても良いんじゃないの?

 全然苦労なんかしてないけど、ハッピーエンドじゃん?


 ほら、もう興味なくしてる! ヘイ、ゴッド!!

 スクロールのスピードを速めないで!!


 とりあえず、シャカリキボーイ&ガールばかりで苦心したと土井先輩から聞いていたが、なんだなんだ、案外みんな素直じゃないか。

 その問題児たちはひょっとすると昨年度で卒業したのかな?


「みんなに自己紹介してくれるみたいだから、しっかり聞こうね!」

「「「はーい!!」」」


 内田先生とアイコンタクト。

 承知いたしました。マイターンですね。



「えー。こんにちは。俺たちは花祭学園から来ました! 今日は短い時間だけど、みんなと楽しい会にできたら良いなと思います!」


「ねーねー! なんで兄ちゃん男なのにそんな白いのー?」

「おう。まあ、アレだな。個性かな?」

「体ヒョロヒョロー! 個性って言葉を逃げ道にしちゃダメなんだよー!!」


 誰かー。助けてー。


 小学生を甘く見ていた。

 なにこの剥き出しのナイフ。そしてフライングフォーク。

 トリコかな?


「み、みんなー! お兄さんにそんな事言ったらダメですよー! あたしは、一年生の冴木花梨って言います! よろしくお願いしますー!!」


 花梨がすかさずフォローに入ってくれる。


「お姉ちゃん、おっぱいデカーい!!」

「男子、バカじゃないのー! おっぱいデカい人ってバカなんだから!」

「うるせー。ブース!!」

「お姉ちゃん、おっぱいデカーい!!!!!」


「うぅ……。バカじゃないですよぉ……。あの、先輩、あたしには荷が重すぎました。……ってぇ、どこ見てるんですかぁー!!」

「お、おう。これはうっかり」


 だってキッズが、特に一人、頑なに胸について言及する子供が!!


「ほら、静かにする! 色々と準備して来たんだから、早く始めたいでしょう? 私は二年生の氷野よ! よろしくね!」


「おっぱいなーい!!」

「ホントだー! あたしより小さーい!!」

「知らねーのかよ、ああいうの、貧乳って言うんだぜ!」

「あっくん物知り! 貧乳ってなに!? おっぱい貧しいの!? 飢饉きがなの!?」


「……桐島公平。何人までなら殺していいのかしら?」

「一人もダメだよ!? ひ、氷野さんは、クイズの準備に集中してもらおうかな?」


 やんちゃなグループはあそこだな、と俺は当たりを付ける。

 あっくん一党はちょっと厄介、と。


「みゃ、あの、会長の神野ですー……。コウちゃーん!!」

「おー、よしよし。分かった。お前も氷野さんと一緒にクイズの準備してろ!」


 察するに、あっくん一党にやられたな?

 くだんのスカート捲り。

 こんなに怯える毬萌も珍しい。


「はいはーい! みんな、静かにー! まだお兄ちゃんが喋ってないでしょー?」

 内田先生ですら持て余すキッズの群れ。

 これは思った以上に厄介である。


「ゔぁ、ゔぉくは、鬼がゔぁら、ゔぇえぇぇぇんだァァァァァっ!! 失敬。鬼瓦武三と言います。みんな、仲良くしてくれるかな?」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

「せんせー! カナちゃんが倒れましたー!」

「あ、あいつは殺し屋だぞ! みんな気を付けろ! オレの後ろに下がれ!」

「マジかよ! あっくんの洞察力すげー!」


「ゔぁあぁぁあぁぁっ! 僕は、僕はぁぁあぁぁぁぁっ!! ゔぇあぁぁあぁっ!!」


 鬼神、いわれなき暗殺者認定。

 哀しげに鳴くその声は、教室の窓を震わせた。


「分かった! 鬼瓦くんもクイズの準備してくれ!!」



 結局全員クイズの準備してんじゃねぇか!!



 クイズね。クイズ。じゃあ、小手調べだ。

 問題です。ならば、誰がこの会を回すのでしょうか。

 はい、ゴッドさん速かった。


 そうだよ、俺だよ!! 早々に孤立したよ!!


「よ、よーし。そんじゃ、クイズ大会をしよう! 正解した人には、むちゃくちゃ美味いクッキーを進呈するから、張り切って行こうぜ!」

「「「わぁぁぁぁぁっ!!」」」


 あら、ヤダ。みんな無邪気に喜んじゃって。

 なんだ、なんだ。キーアイテムはやはりお菓子か。

 そうと分かれば、早速クイズだ! むちゃくちゃ簡単なヤツからやっていこう!!


「公平先輩、パネル出しまーす」

「おう。サンキュー、花梨。おっし!」


 気合を入れ直した俺は、最初のクイズを読み上げる。


「えー。武三くんは、レストランに行きました。すると、食べられないパンが出てきました。それは一体なんでしょう!!」


「従業員の怠慢!」

「店側に問題があるからもうその店には近寄らない!」

「外食産業の闇ー!!」


 違うんだよ! いや、間違っていないけど!!

 見るからに低学年の子まで口を揃えて、どういうことなの!?

 フライパンとか、鉄板とか、そういうヤツを求めてるんだよ!?

 いっそ、腐ったパンとかでも良いんだよ!!


「審判ー!!」


 よし来た! 正解を出そう! そういうので良いんだよ!!


「バカだな、ヨシキ! 審判は買収したら食えるだろー!!」

「あっくんすげー!!」


 マジであっくんすげぇよ。ヨシキは何も悪くないよ。

 あっくんは実家が中東にあるのかな? 審判買収するのが日常なのかな?


 とりあえず、答えを口にした児童たちにクッキーを配る。

 ヨシキくんが「僕、間違えたのに良いの?」と真っ直ぐに俺を見つめる。

 良いんだよ。

 むしろ、君こそこの場でクッキーを一番美味しく食べる権利がある。


「えー。続きまして、幼稚園、小学生、大人の中で、一番大きいのはどれかな?」


 気を取り直して出題である。

 小学生に大人気、いわゆるひっかけ問題。

 この場合、幼稚園児ではなく、敢えて幼稚園と言及しており、他は人間、幼稚園は施設の名称という事で、正解は幼稚園となる。


「大人ー!」

「バカだな、違うよー!」

「だって、大人ってデカいじゃん!!」

「でも太った小学生の方がデカいかもじゃん!!」


 良いじゃないか。良い感じに議論が白熱しているじゃないか。

 そうそう、エキサイトしておくれ。

 間違っていても、ちゃんとクッキーはあげるからね。


「可能性と言う面から考えると、小学生じゃんかー」

「確かにー。大人になったら、それ以上はないもんねー! 矮小わいしょうー!!」

「違いますー。小学生の時点で人間の格付けは済んでますー」

「そんな事言ったら、生まれた瞬間から可能性なんて狭い人もいるじゃん!!」



 違うんだ、そういうアレじゃないんだよ。



 これ、俺が鼻くそほじりながら考えたクイズだから!!

 そんな、人間の可能性に主題を置いた、壮大なクイズじゃないから!!

 ヤメよう? みんな、そんな悲しい事を一桁の年齢で討論するの。


 とりあえず俺は、クッキーをばら撒くことにした。


「よ、よーし! みんな正解だから、クッキーをお食べー!!」


「よっしゃ、クッキー!!」

「これマジうまいよね!」

「多分、天使みたいな人が作ったんだよ!」

「だよな! 絶対綺麗な指した美人だよ!!」



 鬼瓦くん、無言で涙を流す。



「お、おい、鬼瓦くん! タケちゃん! 子供の言う事だ、気にすんな!!」

「ゔぁあぁぁあっ!! 先輩、僕ぁ、僕ぁ!! もう洋菓子店継ぐのヤメます!!」

「落ち着け! 鬼瓦くんのお菓子でみんな喜んでんだぞ! しっかりしろ!!」


 その後、適当にクイズを3問ほど出して、「あ、これ、間がもたねぇな」と察した俺は、紙芝居に切り替えることにした。

 花梨の家で借りて来たプロジェクターを使って、壁に直接絵を投影すると言う、実に豪華な催しとなっている。

 目の肥えたキッズも、これならば文句はあるまい。


「そんじゃあ、紙芝居をするぞー」


 白い壁に鶴の恩返しの表紙が投影されると、歓声が上がった。

 それもそうだ。

 何を隠そう、この鶴の恩返し、うちの文芸部が作ってくれた逸品である。

 なんかお爺さんの顔だけやたらとアンニュイだけども、クオリティは保証する。


「えー。昔々、あるところに——」


「また兄ちゃんが読むのー!? オレ、姉ちゃんの声が聴きたーい!!」

「あっくん、すげぇ!! 高校生に文句言ってるー!!」


 奇遇だな、あっくん。

 俺もちょうど同じような事を考えていたところさ。



 お楽しみ会が始まってから、俺しか働いてねぇじゃんよ!!



 毬萌は仕方ないにしても、花梨、鬼瓦くん、氷野さん!!

 俺たちがさっき外でした円陣はなんだったんだ!!

 かつてない一体感だったじゃないか!!


 頼むから、全員で部屋の隅っこに避難してねぇで、助けてくれ!!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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目次 またの名をお品書き

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