第六部

第321話 天才とアホの子はふぐ刺し一重

 にっくき体育祭も終わり、ついに十月も下旬。

 秋もここぞとばかり一気に深まり始める。

 最近は朝夕も冷える事が多くなり、体調管理に留意したいところ。


 なにせ、二学期はとにかく学校行事が多い。

 つまり、生徒会が出張でばっていく機会もそれだけ増えるという事であり、ひるがえっては風邪などひき散らかして学校を休めば、周りに迷惑がかかる。


 生徒会のメンバーは全員が自己管理をきっちりしている上に、どうやら体が丈夫に出来ているらしい。

 俺はたまに学校を休むけど、他の三人は未だほとんど欠席なし。

 何と言う素晴らしさか。

 これぞ、生徒諸君の規範となるべき生徒会のあるべき姿。


 てめぇはちょいちょい風邪ひいて休むじゃねぇかって?

 だからそう言ってるじゃないか。

 アレだよ、俺は体の弱い生徒の規範になってるの。

 「具合が悪い時に学校を休むのは悪い事じゃないよ」ってね。

 屁理屈を言うなって? 世の中だいたい屁理屈で出来てるんだよ、ヘイ、ゴッド。


 それにしても、体育祭は色々と思い出深いものになった。

 いつものように醜態も晒したが、それ以上に色んな人との絆を確認できたし、なにより土井先輩の計らいで、MVPなどと言う過分な称号まで頂戴した。

 これまでの人生で、運動に関する賞なんて貰ったことがあっただろうか。


 ああ、小学生の頃に縄跳び大会で貰ったことがあるな。

 あの頃はまだ、体育が少しだけ憂鬱なレベルだったから。

 ブイブイ言わせてた頃だから。


 そうとも、縄跳びでどれだけの回数を飛び続けられるか競う大会で、俺は最初のジャンプをしくじった。

 と言うか、ジャンプできなかった。


 縄が顔に当たったんだよ。


 その結果、教師たちがものすごく気を遣ってくれて『伸びしろ一等賞』とか言う、口に出すのも切ない賞を新設してくれた。

 それ以来の栄冠である。

 それを栄冠に加えても良いのかは、非常に議論を呼ぶだろう。


 ブイブイ言わせてたんじゃないかって? うん。言わせてたよ。ブタのようにね。

 ああ、ごめん、ヘイ、ゴッド。ブヒブヒだったかもしれない。



 そして震えるスマホ。

 もうね、さすがに身構えたりはしない。

 プロ野球の始球式みたいなものだもん。

 果たして、今日の俺の投球はホームベースまで届くのか。


「コウちゃーん! 助けてぇえぇぇぇーっ!!」


 将来はアンパンマンの世界に就職するのはどうだろうか。

 そのキュートな容姿と見事な救いの求めっぷりは、さぞや人気を博すだろう。



「なんだ、どうした。しょくぱんまんの回復方法について秘密を暴いたのか?」

「聞いてよぉー、コウちゃーん!」

「………………」


 おや。なんだ、電波が悪いのかな?


「とにかく、助けてぇー! コウちゃーん!!」

「おう。いや、ちょっと待て。何がどうしたの!?」

「………………」



 なんで黙るんだよ!?



「ああ、もう分かった。とにかく、すぐ行く」


 なんでここに来て新パターンで俺を召喚するのか。

 事前に準備するものすら分からない。

 一応、工具箱と裁縫さいほうセットに救急バッグを背負って俺は出動。

 目指すはもちろん毬萌の家。



 呼び鈴を押すと、「コウちゃん! ちょっと待っててー!」と、毬萌の元気な声。

 これもいつもとパターンが違う。

 なに、俺は誰を助けに来たの?



「みゃーっ! トリックオアトリート! コウちゃん、お菓子ちょうだい!!」



 そこには、ネコミミを付けた毬萌が立っていた。


「あー。ちょっと待って。今、色々と頭ん中を整理するから」

「イタズラしちゃうぞー! みゃーっ!!」



 おう。なかなか可愛いけど、ちょっと黙ってて。



 俺の頭脳が、この状況をインプットし、侃々諤々かんかんがくがくの論争を繰り広げた結果、一つの答えの可能性をアウトプット。

 いや、これはさすがに違うだろうと思いつつ、むしろ違ってくれと思いつつ、毬萌に俺は確認することにした。


「なあ、お前、もしかしてだけどよ。……ネコミミ見せたくて呼んだ?」

「…………にへへっ」



「アホか!!」



 前述の通り、毬萌のネコミミバージョンは、そりゃあもう可愛い。

 それは良い。それは良いとも。

 ただ、お前、助けてって言うから、俺ぁ必至こいて自転車いで来たってのに。

 それなら、別に助けを求めないでも、普通に呼べよ!!


「だってぇー。早くコウちゃんに見せたかったんだもんっ!!」



 心を読むな!! 工具箱と裁縫セットと救急バッグ抱えてる俺に謝れ!!



「まあまあ、コウちゃん。寒いから上がってよぉー。お部屋に行こっ!」

「ぐっ……。確かに、ちょいと今日は冷えるからな。お邪魔します」

「あのね、今日は栗ご飯なの! 食べてく?」

「マジで!? 食べる食べる!」


 ちなみに、我が家の夕飯は父さんが持って帰った、たこわさである。

 たこわさは美味いが、主菜ではない。

 たこわさとみそ汁とご飯って。

 俺ぁ育ち盛りだぞ。


 栗ご飯の出現に気をよくした俺は、毬萌の部屋へ。


「なんじゃこりゃあ……」


 そこには、様々な衣装が散らばっていた。

 一例を挙げると、ナース服。チアガールのユニフォーム。

 どっかで見たことあるアイドルの衣装。その他、多数。


「んっとね! そろそろハロウィンだからね! 買ったのっ!!」

「……まあ、そりゃあお前の自由だから、文句は言わんが。ただ……」

「んー? なぁーにー?」

「……スカートの丈、短くね?」

「そうなんだよー! これが今年の流行りなのかなぁ?」

「……ちなみに、どこで買ったんだ」

「えっと、このホームページだよっ!!」


 そこには、ショッキングピンクの背景で、やたらと露出の高い衣装ばかりが並んでおり、俺の思春期男子の直感が閃いた。



 これ、いかがわしいサイトだ!!



「このアホ! よく見ろ、ここに大人のハロウィンって書いてあんだろ!!」

「うんっ! わたし、もう大人だもんっ!!」



「そうじゃねぇんだよ!!」



 ああ、ちくしょう。

 なんて言って説明すれば良いんだ。


「あのな、これは、いわゆる大人のお店でな。ちょっといやらしいアレをナニする、そう言う人が着る衣装なんだよ」

 精一杯の説明であった。


「ふんふん。つまり、大人の人がイタズラしたくなっちゃうってことだ!」

「そう! さすがは毬萌! 理解が早い!!」

 すると、毬萌はモジモジしながら、少し控えめに言うのである。



「じゃ、じゃあさ、その、コウちゃんも、わたしにイタズラしたくなった……?」



「ばっ! おまっ! ばっ!! あ、アホかぁぁぁぁっ!!」



 俺はサイトに書いてある電話番号にすぐさま電話をかけた。

「すんません、返品お願いします。うちの子が間違えまして。はい、はい。明日にはソッコーで送り返します。はい、お願いします」


 いかがわしいサイトなのに、対応が誠意に満ちていたのが救いであった。



「えーっ!? 返しちゃうのーっ!? せっかく他の皆にも見せようと思ったのにぃ」

「や・め・ろ!! ……どうしてもってんなら、俺が見てやるから!!」

 だから、他のヤツにこんなあられもない姿を見せるんじゃない。


 そして、ノックされる毬萌の部屋。


「あらあら、ごめんなさいね。栗ご飯が炊けたんだけど、コウちゃんはまだお夕飯の前にすることがあるみたいね。……ごゆっくり」

 俺の代わりに誤解を連れて帰るおばさん。


「ちょっ!? 違いますよ! おばさん!! ちょっと!? おばさぁぁぁぁん!!」

「コウちゃん、見てーっ! 看護婦さん、毬萌バージョンだよっ!」



「お前も着てんじゃねぇよ!! ああ、無防備に座んな!! んあああああいっ!!」



 これは、アホの子のアレがナニしてアレな、とにかくイントロダクション。




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