第315話 毬萌と天海先輩とバトンリレー

 いよいよ体育祭も終わりが近づく。

 最終競技である学年選抜リレー。

 まずは男子の結果が出揃い、白組が加点に成功。

 これで、優勝の行方は女子のリレーにゆだねられることとなった。


 うちの本命グループは、なんと全員が関係者。

 これは応援にも熱が入ると言うものである。

 もはや説明は不要のような気もするが、やはり触れておくべきか。


 第一走者、天海先輩。

 彼女が運動をしているシーンの記憶がないものの、身体能力は驚異的。

 三年の中でも間違いなくトップクラスの万能戦士。

 恐らく彼女の理念と同じく、真っ直ぐにバトンを渡してくれることだろう。

 味方になるとこんなに頼もしい人もいない。


 第二走者、毬萌。

 今さらどうこう言うのも馬鹿馬鹿しいとすら思える、うちの幼馴染。

 駆けっこのスピードは幼稚園児時代から群を抜いており、チートである。

 本日も徒競走でぶっちぎりの一位を取っており、その素養に疑問符はつかない。

 ただ一つ不安要素を述べなら、天海先輩とのバトンリレーか。

 苦手を克服しつつあるとは言え、一年半以上続いた確執が影響しないか、俺は我が子を見守る想いでゴッドに無事を祈るつもりだ。


 アンカー、花梨。

 運動は得意じゃないと謙遜するも、その実トップクラスを誇るうちのエース。

 彼女は競技を全て午前中に終えているため、体力回復もバッチリ。

 何事にも準備に余念のない花梨であるからして、不安要素もなし。

 花梨が俺の座っている場所を駆け抜ける時こそ、白組優勝の瞬間だろう。

 ちなみに花梨の胸部をいやらしい目で見る輩は、鬼瓦くんのキラキラダイヤモンドダストをお見舞いする予定なので、安心して欲しい。



「おう。花梨、準備運動か?」

「はい! ちょっと体を動かしておかないとです! 時間が空いちゃいましたから!」

 そう言って、彼女は軽めに何回か50メートルをダッシュする。

 言うまでもないが、その軽いダッシュは俺の2000倍速い。


 分かりにくい例えをするな? 手厳しいなぁ、ヘイ、ゴッド。

 俺だってちょっとは参加したいんだよ。

 もう戦闘についていけなくなったゼット戦士だって、たまに小さめのコマでリアクション取ったりするでしょう?


「コウちゃん、コウちゃん! わたしも準備体操するよーっ!!」

「おう。おう!! ばっ! おまっ! ばっ!! 飛び跳ねるのはヤメなさい!!」


 花梨ほどじゃないにしても、お前にもそこそこ立派な胸部があるだろうに。

 それをお前、毬萌の全力ジャンプを繰り返したらアレじゃないか。

 アレがナニして大変だから。

 おい、そこの野郎ども! 立ち止まって振り返るんじゃねぇ!!


 鬼瓦くーん! ダイヤモンドダストの出番だよー!!


「おお! 神野くんに冴木くん! 入念な準備とは感心、感心! これは私も負けていられないな! 頑張ろう、二人とも!」

 天海先輩まで登場してしまった。


 前生徒会長。現生徒会長。次期生徒会長の有力候補。

 むちゃくちゃ豪華な共演である。

 おい、そこの野郎ども! 集まってくるんじゃねぇ!!


「神野くん、バトンをしっかり届けるからな! 先輩として、先陣は任せてくれ!」

「みゃ……。は、はい。わたしも、頑張りますっ!」



 ヤダ、泣いちゃいそう。



 何でって、お前。

 毬萌が天海先輩とぎこちないながらも会話を!!

 こんな歴史的な瞬間があるか!? いいや、ないね!!

 俺が死ぬ時にはこのシーンも走馬灯に入れといて。ヘイ、ゴッド。


「おいおい、花梨! もうそのくらいで良いんじゃねぇか?」

 歴史的な瞬間に際しても、後輩のコンディションチェックは怠らない。

 彼女は頑張り屋であり、それは美徳でもあるが、頑張りすぎは本番に差し障る。


「えへへ。公平先輩にカッコいいところをお見せしたくて!」

「そいつぁ嬉しいが、本番前にバテちまったら元も子もねぇぞ。ほれ、麦茶」

「わぁ! ありがとうございます!」


 マネージャーよろしく、天海先輩と毬萌にも麦茶を配っていると、銀の鬼シルバーオーガがやって来た。

「お三方、そろそろお時間です。頑張って下さい。僕も応援しています」

 銀色の粉を撒きながら、鬼瓦くんも激励。



 そのシルバーラメ、いつになったら全部とれるの?



 そして乙女たちは、それぞれが走り出すポイントへ移動。

 俺も椅子に座って観戦の準備。


「……あんた、なんで急にスポーツドリンク飲みまくってんるのよ?」

「いや、応援って声出すじゃない? 気合入れ過ぎて倒れないようにってね!」

「……そうね。あんた、ついに大声出したら倒れるようになったのね。……ほら、これも食べときなさい。喉がスース―するわよ」


 コロリと一粒、固形物。

 ミンティアである。ぶどう味である。

 ああ、本当だ。喉がスースーする。


「あ、せ、先輩方! は、始まる、みたい、ですよ!」

「おう。マジか。いやぁ、なんかドキドキしてきたな」

「僕も心なしか体のぬめりが渇いてきました。緊張しますね」

 つっこまないからな!?



『さあ! 長かった体育祭もこの競技でついに終幕! 華やかな乙女がトラックを駆け抜けます! 女子の学年選抜リレー!! あと1分ほどでスタートです!!』


 固唾を飲んで見守る俺たち。

 凄いなぁ、俺だったら緊張で倒れ伏すのは間違いないのに。

 下手したら、スタートの前にドクターストップだよ。


 そして、いよいよ運命の時が来た。

 浅村先生が、スターターピストルを掲げる。



 バァン!



 本日最後の号砲が鳴り響いた。


『一斉にスタートしました! 天海先輩の出足が好調! 他の選手よりも体2つ分抜け出しております! 続くのが赤組、黒川先輩! さらに山下先輩、最後尾が白組、愛内先輩!』


「おお! さすが天海先輩! すげぇスタートダッシュ!!」

「問題はバトンがちゃんと渡るのかよ。……大丈夫かしら、毬萌」


 その点に関して、俺はもう心配をしていなかった。

 毬萌は完成された天才だと思われがちであるが、そんなことはない。

 彼女だって、日々進歩して進化して、何より努力をしている。

 そんな毬萌に乗り越えられない壁など、あるだろうか?



 愚問である。



『先頭を独走する天海先輩、今、神野先輩にバトンを渡します! 新旧生徒会長の共演! 綺麗なバトンリレーの完成です!!』


「おっしゃあ!! 毬萌、頑張れー!! 行けー!! 行けー!!」

「あああ! 毬萌ぉぉっ! 立派になって!! サイコーよ! 毬萌、ああ、サイコー!!」

「頑張って下さい! 毬萌先輩! ゔぁあぁあぁあぁっ!!」

「せ、先輩! が、頑張って! 後ろ、ついて来てない、ですよ!!」


 天海先輩と毬萌のバトンリレー。

 それが見事に決まった瞬間。

 それは、毬萌が一つ、壁を完全に乗り越えた瞬間でもあった。


 油断すると泣いてしまいそうになるのは、別にそう言うんじゃないから。

 動物番組で、頑張る柴犬を見てたらホロリと来る、アレだから。

 本当に、変な勘違いとか、そう言うのはヤメて欲しい。



 ——あああああっ!! 頑張ったなぁぁぁ、毬萌よぉぉぉぉっ!!



 そして、感動する暇もなく、リレーはクライマックスに差し掛かる。




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