第17話 生徒会と家族ごっこ

 昨日は仕事を頑張った。

 明日も仕事を頑張るつもり。

 だけども今日の仕事が減ることはない。

 そんな悲しき組織が生徒会。

 そして俺は生徒会の副会長。


 だったら、少しくらい休憩したって怒られない。

 ソファの前のテーブルには鬼瓦くんが作って来てくれたクッキーがあるし、戸棚には特売品の紅茶があるし、電気ポットも調子良くお湯を沸かしている。

 副会長として包括的に考えた。

 今、休憩せずして何とする。



「桐島先輩、お茶でしたら、僕が」

「いやいや、休憩しようって言いだしたのは俺なんだから、良いよ」

「わたしコップ並べるねっ!」

「おう。頼むぜ、毬萌」

「じゃあ、あたしはクッキーを入れるお皿出しますね!」

「おう。すまんな、花梨」

「では、僕は……。ゔぁあぁぁっ! 僕はぁぁっ!!」


 いかん! 鬼瓦くんが自分だけ仕事がない事に疎外感を覚えている!

 これは俺としたことが、配慮が足りなかったか。


「お、おっし! 鬼瓦くんは、そこの観葉植物の位置をちょいと窓際に動かしてくれるか? なんか、アレだ! 日当たりが悪ぃみたいだからよ。あ、あと水やりも!」

「ゔぁい! かしこまりました!!」


 その観葉植物、確か水は滅多にやらなくて済むらしいし、日なたに置く必要もないはずであるが、これはもう致し方ない。

 観葉植物には少しばかり犠牲になってもらおう。

 大丈夫、具合悪そうになってきたら、また鬼瓦くんに移動を頼むから。


「……さて。そんじゃ、鬼瓦くんお手製のクッキーで休憩すっか!」

「あーむっ。んーっ! おいひー! 武三くん、すごいっ!!」

「はむっ。……美味しいです。あなたの女子力の高さ、時々イラっとします!」

「ええ……。冴木さん、それは言い掛かりだよ……」


 とは言え、鬼瓦クッキーが美味いのは事実。

 実家は人気の洋菓子店なだけあって、既に料理の腕前はプロ級。

 しかも、力仕事も出来て、細やかな気配りもできる。

 万能戦士なのに、自分に自信がないところが勿体ない。実に勿体ない。


「ねーねー、みんなが家族だったら、どうなるかなぁ?」

 何か話題はないかと探していたところ、毬萌が丁度良い塩梅のしょうもない話を広げてくれた。

 渡りに船とはまさにこの事。


「そうですねー。桐島先輩は、なんだかお兄ちゃん! って感じです!」

「おう? そうか? 俺一人っ子だけど」

「そうですよ! 自信を持ってください! ちなみにあたしも一人っ子です!」

「コウちゃんがお兄ちゃんかぁー! いいかも! あと、わたしも一人っ子ーっ!」

「賛成です。僭越ですが、僕も一人っ子です」


 いきなり兄の位を満場一致で授与されてしまった。

 そして明らかになる、生徒会全員一人っ子問題。

 少子化って深刻だよなと、少し考える。

 よし、将来結婚したら、子供は三人、いや、四人作ろう!!


「毬萌は絶対に俺の妹だと思う。つーか、こいつが俺の姉になることだけは許さん」

「えーっ!? なぁんでぇー!? わたし、コウちゃんよりしっかりしてるもんっ!」

「どの口が言うんだ! こんにゃろ、クッキーでも食ってろ!」

「わぁーい! あーむっ。んー。これ、ジャムが入ってるーっ!!」


「僕は、桐島先輩の妹が毬萌先輩で良いように思えるのですが……」

「あー。あたしもそんな気がしてます。ごめんなさい、毬萌先輩!」

「えーっ!? まあ、みんながそう言うなら良いよっ! お兄ちゃん、ココア淹れてーっ! あと、クッキーのおかわりちょうだーい!!」


 俺はこんな妹、絶対欲しくないけども。

 だって、絶対に面倒くさいタイプじゃん!

 幼馴染ですらこの面倒くささなのに、身内になるとか!

 絶対嫌だ! 嫌だ、嫌だ!!


「あたしも桐島先輩の妹がいいです! いいですか? お兄さん!」

 妹、花梨。こっちは意外とアリかもしれんなと思う。

 気が利くし、ワガママ言わないし、アホな事しないし。


「よーしっ! じゃあ、花梨ちゃん! お兄ちゃんにお小遣いを貰おうっ!!」

「分かりました、毬萌姉さん! お兄さん、あたし、お小遣いが欲しいです!」


 前言撤回。

 ダメだ。毬萌の妹に花梨が収まると、どうやら姉の影響が強すぎる。

 花梨までアホの子になりかねん。

 そうなったら、地獄じゃないか。


「あの、僕も弟、という事でよろしいでしょうか?」


「いや、そいつぁよろしくねぇな」

「コウちゃんの弟が武三くんだと、腹違いの兄弟の可能性が高くなっちゃうねっ!」

「ヤメろ! 複雑な家庭環境にするな!!」

「あたしも嫌です! 鬼瓦くんが弟なんて、暑苦しいです!」

「じゃ、じゃあ、僕が冴木さんの兄でも……」


「もっと嫌です!」



「ゔぁあぁあぁぁあぁっ!!」

 鬼瓦くんが咆えた。

 大丈夫。今回はちゃんと、完璧なフォローを用意してあるから。



「落ち着け、鬼瓦くん。君には完璧な役割が残っている」

「ゔぁ……。ほ、本当ですか? 僕に務まるでしょうか?」

「もちろんだ。むしろ、この中では君以外に適任者なんて存在しねぇ!」

「こ、光栄です! それで、僕は何になれば?」



「お母さん」



「えっ」

 言葉に詰まる鬼瓦くん。

 今だ、チャンスだ、妹たち。


「確かにーっ! 武三くん、お母さんならピッタリ! お母さん、お腹空いたーっ!!」

「そうですね、その配役なら納得です! ママ! 明日体育あるからね!」

「どうだ、鬼瓦くん、いやさ、母さん! 俺たちに何か言っても良いんだぞ!?」

 すると鬼瓦くんは、やさしい表情で諭すように俺たちキッズに語りかける。



「そろそろ、仕事をしましょう」



 鬼瓦母さんの言う事には筋が通っており、それを折るのは容易ではないとすぐに分かった。

 道を外れた子供たちを正しく導くのも母親の役目であり、その点からもこの配役に間違いはなかったと確信しながら、俺たちは自分の席へと戻った。



 鬼神おかん。

 ……悪くない響きだな。

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