第283話 思い出深い合宿 爽やか青春風味

 土曜日の午後。

 臨時閉店を良い事に、学食へと我が物顔でつどう者たちがいた。

 何を隠そう、俺たちである。


 今日のアルバム選定作業は合宿の時のものであり、相当な量になるのは間違いなく、なればこその空間的スペースを必要とした末の決断であった。

 早い話が生徒会特権の乱用。

 なんと不届きなやからでしょう。



「姉さまの学校に来るの久しぶりなのです!」

「聴いてた通りやねぇー、でっかいわー! あの、ウチも入ってええんですか?」

 心菜ちゃんと美空ちゃんもお招きした。

 むしろ、自分の参加していないイベントのアルバム作りに参加させてしまって、美空ちゃんにはこちらが申し訳ない。


「大丈夫だよ。ちゃんと入校証もあるし。退屈したら言ってくれるかい?」

「いいえー! ウチ、皆さんの写真見るだけでもむっちゃ楽しみです!」

 ああ、ええ子やで、この子は。


「皆さん、よろしければこちらを。プリンです」

 鬼瓦くん、クソでかいクーラーボックスを持っていると思っていたら。

 そんな仕込みを済ませていたとは。

 鬼神ばっちり。


「わぁーい! 食べよ、食べよーっ!」

 いの一番に毬萌が食いついた。

 お前、年長者の威厳とかないの?


「食べるですー! ありがとうです、鬼神兄さま!」

「うわっ、むっちゃ美味しい! 鬼兄さん、ほんますごいわー!」

 遠慮なく食べる中二コンビを見て、にんまりする毬萌。

 なるほど、年少者が恐縮しないために敢えて自分からって話だったか。

 これは失礼した。


「くぅぅぅっ! 食べたいです! でもでも、カロリーがぁぁっ!!」

「ひぃっ!? ちょ、ちょっと、桐島公平! 冴木花梨が! ちょっとぉぉっ!!」

 カロリーとスイーツの狭間で揺れる花梨。

 そんな花梨を見て、地獄ダイエットを思い出して震える氷野さん。


「た、武三、さん。胸板に、プリン、ついてる、よ?」

 胸板に!? どういう事なの!?


「ああ。ありがとう。いやぁ、真奈さんは気が利くなぁ」

「ふ、ふふっ。嬉しい、な」

 まあ、お熱いようであり、楽しそうでもあるので結構。


 俺は優秀な指揮官よろしく、パソコンを立ち上げ、写真を並べる。

 皆が見やすいように工夫も凝らす。



 ……おい、そんな俺のプリン食ったの誰だ。




「とりあえず、この写真は外せんだろ?」

 最初に全員で集合した、エントランスでの一枚。

 知らない間に花梨が撮っていたらしい。


「はわー! 姉さま、どうして寝てるのです?」

「ゔぁあぁぁっ」

「心菜ちゃん、それはね。お姉さん、前の晩にお仕事してたから、ちょっと疲れてたんだよ」

「そうだったのです? 姉さま、偉いのです!」

「キャンプの前の晩まで働いてはったんですか!? 尊敬やわー」


「……また一つ借りが出来たわね。……プリン食べてごめんなさい」

 犯人は氷野さんだったのかよ!

 貸しは2つでカウントしておくからね!?


「バーベキューの写真も結構ありますねー! あ、これなんて良いじゃないですか! 真奈ちゃんと鬼瓦くん! ……と、見切れてる公平先輩!」

「これは、僕が素手でお肉を切るのを手伝って貰ったところだね」

 うん。トリコかな?


「わ、わた、私は、この写真、載せて、もらえる、と……」

 いつになく積極的な勅使河原さん。

 俺が半身を異空間に飲み込まれたみたいになっているが、致し方ない。


「あら、これはどう? 私と心菜、それに毬萌と冴木花梨も居るし」

「おおーっ! これは良い写真だねぇー! 採用しようよ、コウちゃんっ!」

「おう。異存ないぞ」

「姉さまと一緒、嬉しいのです! 毬萌姉さまと花梨姉さまも一緒なのです!!」

 うん。可愛い。

 この写真、すごく良いなぁ。


「あの、公平兄さん。ちょっとええですか?」

「おう。どうした美空ちゃん」

「兄さんがおらへんのですけど、何でですか?」

「……Oh」



 それはね、独りでザリガニと格闘していたからだよ。

 ああ、間違えた。オマール海老だ。どっちでもいいやい!



「ちょっと! 誰よ、お風呂上りの写真なんて撮ったの!!」

「あーっ、それ、わたしだよっ!」

「毬萌なら仕方ないわね!」

「マルさん先輩と真奈ちゃんが一緒の写真は珍しいので、これも採用しましょうよ!」

「おう。了解。鬼瓦くん、頼む」

「はい。かしこまりました」


「公平兄さん」

「……Oh」

 もう言いたいことは分かるから、先に結論だけ言うね。



 氷野さんと花梨のおかげで顔面に牛乳浴びて、独りで風呂場に戻ってたんだよ。



「キャンプファイヤーの写真も良いねぇーっ!」

「は、はい! みんな、すっごく、楽しそう、です!」

「鬼瓦くんが持ってきたマシュマロ美味しかったですよねー!」

 ちなみに、俺と鬼瓦くんは設営側だったので写真がない。


「2日目は、おう。これはマストだろ。な、氷野さん? 心菜ちゃん?」

「はわわー! 姉さまと一緒にターザンしたヤツなのです! むふーっ」

「え、ええ、そうね! これは楽しかったわね!!」

 思えば、この頃から氷野さんが乗り物関連でよく死ぬようになったな。


「釣り堀の方も、鬼瓦くんと勅使河原さんのツーショットがあるな。おっ、花梨がニジマス釣りあげたヤツも忘れねぇようにしないとな!」

「……なーんか、釣り堀って聞くと、すごく不愉快な思い出が蘇るんですけどー」

「ゔぁあぁっ! ご、ごめんよ、冴木さん」

「花梨、ちゃん! 許して、あげ、て! 私、何でも、する、から!!」

 うっかり花梨のスカートを釣り上げた奇跡は忘れられない。

 そして、勅使河原さんが会社でしでかした夫のミスを婦人会で謝る妻みたい。


「もぉー。良いですよ、忘れちゃいました! あとは、みんなで撮った集合写真ですかね! これ、よく撮れてますねー!!」

「ねーっ! みんな笑顔だよーっ! コウちゃんだけ変な顔ーっ! にははっ」

「うるせぇ。ほっとけ。とりあえず、全員参加の方はこんなところか?」


「……公平兄さんって、もしかしていじめられてはります?」

「美空ちゃん、待って。お兄さん、いじめられてはないよ? 影が薄いだけ」

 ここに来て気付く、俺の深刻な写真不足。

 2日目はカメラマンやっていたし、初日はタイミングが悪すぎた。

 しかし、タイムマシンがない以上、どうしようもない。



「あ、あのあの、公平兄さま! これ、兄さまなのです!」

 心菜ちゃんが照れながら差し出した写真には、熟睡する俺の間抜け面が。



「心菜ったら、どうしてこんな写真撮ったの?」

「だって、兄さま、カッコいいのです!」

「ゔぁあぁぁっ」

「ちょ、氷野さん!? お、俺ぁ何もしてねぇよ!?」

 無言で指の関節鳴らさないでくれないか。怖いから。



「心菜ちゃんのおかげで、どうにかなりましたね!」

「だねーっ! ……武三くん、あとでこの写真、印刷してくれるかなっ?」

「あ、ズルいですよ、毬萌先輩! 鬼瓦くん、あたしの分もお願いします!」

「了解しました」



 なにゆえ俺の寝顔がそんなに売れるのか。

 そう聞いたところ、二人は声を合わせた。


「コウちゃんのまともな写真って貴重なんだもんっ!」

「そうですよ! もぉー。いっつも変な顔で写るんですから!」



 普段やってる俺のキメ顔、この寝顔以下なのかい?



 合宿の写真選びは続く。

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