第284話 罪深い合宿 混沌の闇鍋風味

「そんじゃ、引き続き選んでいくか。おう、この先は俺たち生徒会だけなんだよな。ここは、むしろメンバー以外の意見を聞きてぇな!」

「だねーっ! とりあえず、時系列準に写真並べといたよ!」

「おお、毬萌ナイス。……完璧な並べ方だな」

 さては、プリンを食って脳の活性化に成功し、天才スイッチが入ったか。


 俺たちは、合宿の写真選定、後半戦へと移行する。



「……ねえ。この桐島公平が内股で石を川に投げ込んでるのは、何してるの? ……何か悩みでもあったの?」

 のっけから俺の良くない写真が登場した。

 誰だよ、こんな恥ずかしい瞬間をフレームに収めたのは。


「これは桐島先輩が水きりに挑戦しているお姿です」



 鬼瓦くんかよ!



「……水切りって、オーバースローでするものじゃないでしょ?」

僭越せんえつながら、この日の桐島先輩のベストスローがこちらです」

「……そう。ごめんなさい。可哀想だから、これ載せてあげたら?」

 俺の雄姿恥ずかしい姿が早速1枚アルバムに!

 さっきまでは話題にすら上がらなかったのに!!


「あは! これおもろいですね! 公平兄さんが天に昇ってるみたいで!」

「はわわー。公平兄さま、お空が飛べたのですー」

「えへへ。二人とも、これはですねぇー。公平先輩が人命救助をしている瞬間なんですよー! カッコ良くて、つい撮っちゃいました!」



 今度は花梨か!



 いや、気持ちは嬉しいよ?

 これ、アレだよな。ボルダリングで命綱が切れた坊やを助けたヤツだろ?

 ……なんで、せめて助ける瞬間とか、登っているタイミングとかじゃないのさ。

 これ、鬼瓦くんによって俺が宙づりになって降下してるところじゃん。

 何が悪いって、肝心の助けた坊やが隠れてんの!

 確かに見方によっては俺が昇天してるみたいになってる!!


「こ、これも、ステキな、思い出、です、よ!」

「そうだね、真奈さん。……インプット完了です」

 インプットされちゃったよ。


 それから、清流をバックに4人で撮った写真は当然のように選ばれた。

 惜しむらくは、俺の顔がウーパールーパーみたいになっている事である。

 せっかくのまともな写真なのに、それをわざわざ丁寧に回避している俺。

 写真うつりが悪すぎる。俺は前世で何ぞ大罪でも犯したのか。


「……ねえ。大雨の中で桐島公平を抱きかかえた鬼瓦武三が号泣してるんだけど!? ちょっと、私が変な事言ってるみたいじゃない! 何よ、これ!」



 本当に、何だろうね、それ。



「これはね、マルちゃん! コウちゃんが、わたしと花梨ちゃんの手作りカレーを食べて、感動で倒れちゃった写真だよっ! 嬉しくて撮ったんだぁー!」

「……あっ」

「……真奈さん。事実に気付いても、時には見過ごす必要があると思うんだ」

「……そう、だね。……武三さん、悲しい、ね」



 鬼瓦夫妻さ、事情を知ってなお、悲しみに暮れるのヤメてくれない!?

 いっそ茶化してくれた方が助かるんだけど!?



「あのカレー対決は名勝負でしたね! 毬萌先輩!」

「そだねーっ! 花梨ちゃんのカレー、食べたかったなぁー!」

「それなら、あたしだって毬萌先輩のカレー食べたかったですよー!」

 どの口がそれを言うのか。


「……くっ。僕は無力だ!」

「……俺ぁ嬉しかったぜ? 鬼瓦くんの献身」

「……桐島先輩!」

「……おう!」

 俺と鬼瓦くんは、熱い握手を交わした。

 

 俺は誓う。

 鬼瓦くんのように得難えがたき男との友誼ゆうぎは、生涯大事にしようと。

 あと、うちの女子をこの先ずっと炊事場に近づけないようにしようと。


「あら? なんであんたたち、同じ部屋の写真がいっぱいあるのよ。わざわざどっちかのコテージに移動したの?」

「あ、いや、それはなんつーか」

 氷野さんに知られると怒られそうな案件であるゆえ、ここは隠匿いんとくしたい。

 なにせ、最近忘れがちだが、彼女は鉄壁の風紀委員長。

 その胸部と倫理観の固さには定評のある学園屈指の女子である。


「えっとね、この日はみんなで寝たんだよっ!」

 なんで毬萌すぐ本当のこと言ってしまうん?

 しかも、事情をすっ飛ばして。せめて事情を付言して。

 のっぴきならない事情があったじゃないか。


「桐島公平? 納得のいく説明をお願いできるかしら?」

「ち、違う、誤解だ!」

 そんな俺を助けるべく、天使が降臨。


「心菜、また公平兄さまと同じお部屋で寝たいのですー!!」



 天使。最高に可愛い顔で、爆弾を投下する。



「ぎりじばごゔべい!? あんた、あんたぁぁぁぁっ!!」

「待て、落ち着け氷野さん! なんか鬼瓦くんみたいな喋り方になってる!!」

「はわわー? 姉さま、公平兄さまと一緒、ダメなのです? 姉さまも、いつも兄さまのこと褒めてるから、心菜、良いのかと思ったのですー……」

 ああ、心菜ちゃんがしょんぼりしている!!


 緊急事態が、俺と氷野さんを結び付けた。


「何言ってるの! 今度、お泊り会でもしましょう! もちろん、兄さまも一緒よ!」

「お、おう! 楽しみだなぁ、マジで!!」

「あ、ほんなら、ウチも入れて下さい!」



「「ゔぁぁあぁっ」」

 俺と氷野さんでとっさについた嘘が、うっかり延焼火災に!



「いいですねー! お泊り会! 場所でしたら、うちを提供しますよ!」

「みゃーっ! それすっごく楽しそうだねっ! やろーっ! 武三くん、記録、記録!」

「かしこまりました」

 かしこまらなくて良いんだよ!!


 なんだか、胃の痛くなるイベントの開催が決定したらしかった。



「それで、最後はこの集合写真だよっ! これは絶対に載せなきゃだもん!」

 確かに、トリを飾るには相応しい1枚かと思われた。

 俺がひょっとこみたいな顔をしている以外、文句のつけようもない写真。

 生徒会室にも飾られていて、それを見掛ける度にちょいと俺を陰鬱いんうつにしてくれる、そんなステキな思い出の詰まった写真。


「そんで、どうだ鬼瓦くん。塩梅あんばいは? 良い感じに2ページで埋まりそうか?」

「そうですね。欲を言えば、もう1枚欲しいところです」

 鬼瓦くんの述べた所見を、毬萌は聞き逃さない。


「それじゃあ、ここで1枚撮ろうよ! 合宿の写真を選んだ記念写真!」

 日本語がおかしいが、言っていることは至極真っ当。

 天才の閃きに賛同しない理由がこの場には存在しなかった。


「では、タイマーを仕掛けます」

 カメラは鬼瓦くんのスマホ。

 電子機器の扱いにも長ける彼のスマホのカメラは、やたらとレンズの数が多い。

 これならば、良い写真が撮れるだろう。



「にははっ! コウちゃん、顔が写ってなーい!」

「あはは! あ、ごめんなさい! ふふっ!」

「お前らが顎を引けとか言うから!」

「限度ってものがありますよー! お辞儀してるじゃないですかー! あははは!」



 俺は異論を唱えない。

 何故ならば、「これも記念」と言う常套句じょうとうくで全てが塗りつぶされるから。


 ともあれ、これでまた一つ、素晴らしいアルバムへの階段を上ったのは疑いようのない事実であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る