第279話 花梨と居眠り

 ゴッド各位にご報告。

 今回の話は、ダイの大冒険ネタが満載な内容になっております。

 読み進めて「何言ってんのこいつら」と思われた場合は、ブラウザバックをお勧めしております。

 次話からは通常の話に戻りますので、ゴッド各位には申し訳ございません。




「ふわぁ……。あ、すみません!」


 生徒会室にて、花梨と俺は事務仕事に精を出していた。

 毬萌は先ほど職員室に呼び出されて行った。

 鬼瓦くんは魔術同好会の女子に「裏庭のマンドラゴラ抜くの手伝って!」と言われて、「僕で良ければ!」と二つ返事で引き受けて出張中。

 生きて帰ってくれると良いのだが。

 あと、裏庭には今度俺が除草剤を撒いておこう。



「どうした、花梨。寝不足か? あくびするなんて、珍しいな」

「も、もぉー! なんでこんな時だけバッチリ見てるんですかぁー! 乙女のあくびを見て喜ぶなんて、公平先輩、趣味が悪いです!」

「まあまあ、そう怒るなよ。可愛らしかったぞ?」

「女の子の恥ずかしいところを見て喜ぶなんて、先輩の変態!!」

「はっはっは。んで、いつも優等生な花梨さんが、なんで寝不足に? ああ、いや、別に言いたくなけりゃ言わんでいいぞ?」

 ちょうど書類が一枚片付いたので、俺は茶を淹れるべく立ち上がる。


「うう、みんなには内緒ですよ? 実は、パパの持ってる漫画を読んでたら止まらなくなっちゃって、ついつい夜更かししちゃいました……」

「ははあ、花梨でもそんな事があるのか。ほれ、お茶」

「ありがとうございます。ってぇ、なんでハーブティーなんですか!? 余計にリラックスして眠くなっちゃうじゃないですかぁー!!」

「おう。これは俺としたことが」

 紅茶だと思ってよく見ずにティーバッグぶち込んだところ、数の少ない来客用のハーブティーをズバピタで射止めると言うプチ奇跡。


「んで、どんな漫画? ちょっと気になるな。俺、知ってるかな?」

「古い漫画ですよ? 確か、ダイの大冒険とか言うヤツです」

「マジか! 俺、大ファンなんだよ! おい、マジか! ついに同世代とダイ大について語りあえる日が来たか! 知ってるか、今度再アニメ化されるんだぞ!」

「あはは! せんぱーい、興奮し過ぎですよ! 子供みたいです!」

「おっと、こいつぁ失礼。……で、どこまで読んだ?」


 事務仕事? そんなもん知るか。

 ちょっと代わりにやっといて、ヘイ、ゴッド。


「えっと、お父さんが、ダイをかばって死んじゃうところまで読みました」

「かぁーっ! あそこは泣けるよなぁ! 俺、何回読み返してもグッときちまうんだよ!」

「あたしもウルっとしちゃいました! でも、そのあとが可哀想で……」

「そう! なっ! バーン様がまた強ぇのなんの! あの絶望感ったら、もうどうやっても勝てねぇじゃんって思うよな!」


 それから、ネタバレを避けつつ、花梨とダイの大冒険談議に花を咲かせた。

 だって仕方がないじゃないか。

 毬萌も漫画は読むが、この手のバトル漫画は守備範囲外。

 「だって、見てると痛いんだもんっ」とか言ってやがった。

 さらに、連載終了から相当経っているため、同世代で語れる相手がそもそも少ない。

 なに? そもそも友達も少ないだろって?



 それ今言う必要ある? メドローア喰らわすよ? ヘイ、ゴッド。



 ならば鬼瓦くんが居るだろうとお思いか。

 確かに、鬼瓦くんとも漫画やアニメの話で盛り上がる。

 ただ、彼も読む題材に偏りがあるのだ。

 鬼瓦くんは主にきらら系が主戦場。

 ひだまりスケッチのヒロさんと紗英さんの卒業エピソードについて語っていたら、「胸が苦しいのでいとまを頂きます」と言って早退したことがあるほどである。

 この前はがっこうぐらしが終わったショックで早退した。


「ちなみに、花梨の推しキャラは? 俺ぁベタだけどポップなんだよなぁ」

「あー! 先輩、それっぽいです! なんだか分かります! あたしはですね、ヒュンケルが好きです! クールに仕事をする所とか、ちょっと先輩に似てますよね!」



 はい、ヒュンケルファンの皆さん、一旦手に持った石は足元に置きましょう。

 「てめぇにはユンケルだろ、エノキ!」と言う罵倒は甘んじて受け入れます。



「おう。そうだ、お父さんは? お父さんが持ってたんだったら、やっぱ相当読み込んでるだろ?」

「えー。パパですか? あの人、趣味悪いんですよ」

「そうなのか? 逆に気になる!」

「キルバーンって言ってました」



 パパ上……。

 なんでバランとかじゃないんですか……。



「ふぁあぁ……。せん、ぱい。ちょっとだけ、寝ても良いです、かぁ?」

「おう。構わんぞ。クッション持って来てや」

 コトンと肩に重みを感じる。

 それに続いて、やんごとない良い匂いが鼻孔をくすぐる。

 最後になんだかやけに柔らかい感触が俺の左半身にご降臨。


「……Oh」

 確認してみると、花梨さんが俺にもたれ掛かって寝息を立て始めていた。

 もう、なんて言うか、やたらと良い匂いがするし、無意味に柔らかいしで、俺の思考はあっちこっちへ迷走中。


 うちの女子どものスキには対処し慣れているはずの俺である。

 が、ダイの大冒険の話でテンションを上げて、代わりに警戒レベルは下げていた事が裏目に出ている。



 花梨のこの無防備さ! スキだらけである!!



 それだけ俺を信頼してくれていると言う裏返しであると思えば、当然喜ばしい事であるし、男冥利に尽きると言っても良い。

 しかし、場所がまずい。

 生徒会室は、全校生徒に開かれた場所であるからして、誰が入って来てもとがめられないし、普通に考えて毬萌か鬼瓦くんがそろそろ戻ってくる頃合いでもある。


「すぅ……すぅ……」


 とは言え、この可愛い後輩を叩き起こす事ができようか。

 俺を信頼して、俺にもたれ掛かっている、この可愛い後輩を!!

 是非もない。

 デリカシーを履修中の身であるからして、それが愚策である事くらいは分かる。


 ならば、ふんすふんすと鼻息荒くしたら良いのか。

 バカ。バカ野郎。そんな訳あるかい。

 スキだらけの女子に対してそんな不埒なマネが出来るか。



 そして俺は決意した。

 無心で、ただ、花梨が起きるのを待とう。

 生まれてくるよこしまな心は、クロコダインでも思い浮かべて対処しよう。


 鬼瓦くんが戻ったら事情を説明すれば良い。

 毬萌だって、頬っぺたを膨らませるかもしれんが、分かってくれるだろう。



 そして、数十分後。

 未だ夢の中の花梨と、クロコダインについて三周目の考察に入った俺。

 そんな俺たちの元へ、ついに来訪者が。

 扉がゆっくりと開いた、その先には——。


「失礼するわよ! 毬萌……っていないのね」



 あ、キルバーンだ。



「あんた、何してんのよ?」

「ち、違うんだ、氷野さん。これは誤解だ!」



 このあと無茶苦茶怒られた。

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