第256話 心菜ちゃん通信 with美空ちゃん ~ジュースのおつかいなんか知るか!~
もしかしてと思いスマホを持ってきたが、正解であった。
老舗旅館なのに、自動販売機がスマホマネー決済に対応している!!
何と言う現代文明の強風だろうか。
よもや、こんな歴史のある旅館にも科学の英知が集結しつつあるとは。
やたらとほっそいのに値段はいっちょ前なコーラとかが並んでる高圧的な自動販売機しかないと思っていたのに。
俺は偏見に満ちていた自分の感性に喝をいれた。
古いだけではない。
より良い新しきは柔軟に取り入れる。
そんな、京都の懐の深さを噛み締める。
ならば俺も、スマホマネー決済でジュースを買おうではないか。
とりあえず毬萌のココアだが、あいつ、アイスが良いのかホットが良いのか。
ちゃんと聞いてくれば良かった。
季節的にはまだ冷たい方が嬉しいけども、寝る前と言う事情を考慮するとホットにしておく方が良いかもしれない。
そんなのどっちでも良い?
バッカ、ゴッド、てめぇ! もし明日、毬萌の体調が悪かったらどうする!
そんな事になったらば、俺ぁ京都をこれっぽっちも楽しめないだろうが!!
一日中バスの中で看病も
ここは、慎重に考えるべきである。
そんな俺の、スマホが震えた。
氷野さん辺りの催促であろうか。
俺は着信画面を確認しああああああああああああああああああああいっ!!
俺は感動に打ち震えながら、近くのベンチに着席。
そして、厳かにスマホの通話ボタンをポチリ。
はあ? ココア? 熱かろうが冷たかろうが、そんなもん、どっちでも良いよ!
ちょっとゴッド買っといて! お釣りあげるから!!
「も、もしもし!」
テレビ電話であるからして、俺は最高に凛々しい表情を調達してきた。
そして、相手にステキフェイスで見られる角度だって研究済み。
首
知ってる、知ってる。
「はわわー。公平兄さま、こんばんは、なのですー!」
「きょんばんは! ……ああ、ごめんね。こんばんは、心菜ちゃん」
心菜ちゃんからの天使通信である。
皆の者、控えるが良い。頭も高いと俺が
「兄さま、今、おじかんだいじょうぶでしたか、なのです!」
うん。可愛い。
もうね、今すぐ宇凪市に帰りたい。
「全然平気だよ。もう、何の用事もなくて困ってたところ!」
ジュースを待っている仲間がいる?
そんなの、水道の水でも飲ませとけ。
「はわー。良かったのです! あのあの、兄さまにお知らせがあるのです!」
うん。可愛い。
俺の家が爆発したって知らせでも、多分笑顔で受け入れられちゃう。
「ちょっと待ってなのです! んしょ、んしょ、はわわー」
心菜ちゃんが画面中で小さくなる。
絶望感に
「公平兄さん! ども、こんばんはー! ウチ、映ってます?」
美空ちゃんが登場した。
画面の中には、心菜ちゃんと美空ちゃん。
しかも部屋着である。
「ああ、神様」
ダブル役満じゃないか。
振り込んだのは当然俺。もうね、そりゃあ飛んじゃう。
「はわー? 公平兄さまー?」
「あれー? おかしいな? 兄さん固まってもうた。一回切ろっか?」
俺は自分の右足で思い切りベンチを蹴った。
痛みにより、
お願い、切らんとってぇぇぇぇ!
今電話切られたら、俺、ショックで死んじゃうからぁぁぁぁぁ!!
「ああ、ごめんね。なんだか、ちょっと電波がアレだったね。うん、もう平気」
お前が電波でアレだったって?
ははっ、言うなぁゴッド、こいつぅー。
「あ、公平兄さま、動いたのですー!」
「ほんまや! 良かったなー!」
このまま時が止まればいいのに。
「そう言えば、こんな時間に二人が一緒なんて珍しいね?」
天使を相手に、この俺の平静さはどうか。
何と言う無頼漢。惚れ惚れすると良い。
「姉さまがいないって言ったら、美空ちゃんがお泊りに来てくれたのです!」
「せやかて、心菜ちゃん寂しそうやってん! さっき一緒にお風呂入ったとこです」
今からそっちに戻ったら、俺もそのお泊りに参加できるかな?
もしそれが叶うなら、俺、タクシー拾って帰るよ?
多分何十万もかかると思うけども。
「一生かかってもお支払いします!」って食い下がって帰るよ?
その情熱に負けて、「その言葉が聞きたかった!」って運転手さんも言うと思う。
ブラックジャック先生だってきっと同じことを言うね。
「いいなぁ。俺も混ざりたいよ。はははっ」
どうだ、この下心をおくびにも出さぬ俺の完璧な自制心。
俺くらいになると、この程度の芸当朝飯ま
「公平兄さんやったら大歓迎です! 今度、お泊り会やりましょー!」
「はわー! 心菜もキャンプの時みたいに、兄さまと寝たいのです!!」
ああああああああああああああああああああああああああああああああいっ!!
先に断っておくと、俺じゃないと今、死んでたから。
天使の矢って、刺さると痛くないんだよ?
もうね、この世から意識が消え去りそうになるんだ。
実際、数秒間くらい俺の意識、現世から消えたから。
それなら死んでるじゃないかって? 本当だ、死んでるね、俺。
「美空ちゃん、兄さまに教えてあげなくちゃです!」
「あ、せやった! 公平兄さん、明日、自由行動ってほんまですか?」
どうにか思考を
E缶がひとつ減ったけれども仕方がない。
有事の時のE缶である。今使わずしていつ使うと言うのか。
「うん。そうだね。良く知ってるなぁ」
「姉さまに教えてもらっていたのです! むふー!」
うん。得意げな心菜ちゃん、可愛い。
「実はですねー、ウチ、京都にちょっと詳しいんですわ!」
美空ちゃんの話はつまり、大阪出身の彼女であるからして、近場の京都の穴場スポットに精通しているらしく、それを俺なんぞに無償で教えてくれると言う。
そのありがたい話を俺は静聴し、脳に血文字で記憶する。
有益な情報はもちろん、何よりも俺を
「ありがとう! 後でみんなに教えてやるよ! 二人のおかげで大きな顔ができるなぁ。本当にありがとう、心菜ちゃん、美空ちゃん」
そして生まれて来てくれてありがとう。
「お役に立てて良かったですー!」
「ほんまやね! 心菜ちゃん、今日ずっとソワソワしてたもんなー!」
「み、美空ちゃん、言っちゃダメなのです! じゃあ、兄さま、おやすみなのです!!」
アワアワしながら心菜ちゃんが電話を切った。
同時に、俺の心のブレーカーも落ちた。
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