第255話 恋バナとババ抜き

「ヒュー! それで、公平ちゃん! どっちが本命なんだい? ヒュー!」

「何の話だよ?」

「ヒュー! 修学旅行の夜に男子でする話って言ったら決まってんだろー? まさか、アメリカの雇用情勢の話すると思ってんのかい? ヒュー!」

「なに? アレか? いやらしい話? 俺ぁその手の引き出し少ねぇぞ?」

「ヒュー! 恋バナしようってのに、その先に行こうなんて、公平ちゃんはさすがだぜー! 三段跳びの選手目指すのかい? ヒュー!」



 うわぁ。面倒くせぇなぁ。



 部屋に戻るなり、枕を抱きしめて瞳を輝かせる高橋。

 だから俺、こいつと同じ部屋は嫌だって言ったんだよ。

 しかし、そんな時に助けてくれる男も同室。

 茂木、今日も頼りにしているぜ!

 京でも頼りにしているぜ!!

 俺のセーフティネット、展開!


「まあ、気にはなるよな。実際のところ、どうなんだ、桐島」

 茂木、まさかの裏切りである。


「ヒュー! 学園の天才美少女、生徒会長! さらに、一年の中でも可愛いランキング上位の常連、書記ちゃん! ヒュー! 両手に花はズルいぜー?」

「桐島はこういう話に興味ないだろうから知らないと思うけど、結構噂になってるんだぞ? 副会長が生徒会の女子を独占してるって」


 嘘だろう?

 そんな噂が立っているのかい?

 一応確認しときたいんだけど、まだそれ煙のレベルかな?

 だったら俺は速やかにバケツに水汲んで火消しに走るんだけど。

 俺が独占したいのは桃鉄の出雲駅だけだと声を大にして言いたい。


「ヒュー! やっぱりハイスペックでおまけに美少女の幼馴染かい?」

 くそ、「ハイスペックが結構な頻度でアホになる」って言いたいけど言えない。


「確か、家も近いし、幼稚園からずっと一緒なんだろう? そういう仲ってどうなんだ? 男女として意識するものなのか?」

 そして茂木の純粋な興味からの質問がまた厄介である。

 全然悪気がないのが分かるから邪見にしづらい。


「ヒュー! スタイル抜群の可愛い後輩ってのも、やっぱり燃えるよなー?」

 くそ、「割と前からお試しで交際の真似事してる」とは絶対言えない。


「よく学園の中で一緒にいるところを見かけるよな? お茶してたり、お昼食べてたり。そういう目撃情報はオレの耳にも入って来るぞ」

 マジかよ。

 ちくしょう、暇なヤツらめ。

 人のそんなところを覗き見していないで、方程式の一つでも覚えたら良いのに。


「おう、まあ、な。色々な見方があるよな」

 不死鳥フェニックス超幻想お茶にごし

 この技を喰らった者は、すべからく「で?」と言う感想を持つ。

 人に嘘をつきたくない俺であるからして、簡単に「ノー」と突っぱねるのは、心情的に憚られる。

 とは言え、バカ正直に「いや、どっちの女子も甲乙つけがたくてなぁ、ふひひ」などとのたまった日には、学園に帰るまでに噂が蔓延する。


「ヒュー! なんだよ、焦らすぜ公平ちゃん! オレ、もうクラスの男子のグルーブライン開いてんのによー! ヒュー!!」



 そのグルーブラインで、お前の口の塞ぎ方を聞いてくれない?



 フロントでガムテープでも借りてこようかと思案していると、扉がノックされた。

 助かった。

 誰が来たのかは知らんが、この話題からエスケープする好機!

 現れたのは、浴衣姿の女子。

 そして彼女は言う。聞きなれた声で、聞きなれた名前を。


「コウちゃーん! 来たよーっ!」



 本人が来ちゃうのかよ!!



「ヒュー! こいつは温まって来たぜー? ハイオク満タン入れとくぜぇー!」

「ああ、神野さん。今な、ちょうど桐島と神野さんの話してたんだよ」

 そりゃあそういう話の流れになるでしょうね!

 もう本当にヤメて!


 言ってやれ、毬萌! うっせぇ黙れって言ってやれ!!

 高橋をべっこりへこませるセリフを吐いてやれ!!

 冷たい目で「なんか臭くない?」とか言ってやれ!!

 ……いや、そりゃあ言い過ぎだな。おう。



「みゃっ!? に、にははーっ。コウちゃん、困っちゃうね……?」



 普通に照れてんじゃねぇよ!!



 ダメだー。今の時間、こいつアホの子だー。

 こうなると収拾がつかなくなる。

 誰でもいいから、助けてくれないかしら。


「何をくだらない事喋っているのよ! 男子ってホントにバカね!!」

「ひ、氷野さん!!」

「ヒュー! ここでクールビューティーの登場かい! ヒュー! お堅いのは胸だけにして欲しいぜ! ヒュー!!」

 あ、高橋、それはダメだ。



「ヒュー! おばんざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ」



 氷野さん、普通にビンタするから、気を付けろって言うの遅かったね。

 そう言えば、夕食に出てきたおばんざいも絶品だった。

 ちなみに、おばんざいってのは、京都の日常的なお惣菜を指すそうな。

 小松菜と魚のすり身の和え物、味が染みてて美味かったよ。


「さて、うるさいのが静かになった事だし、少しお話しましょうか」

「サンキュー、氷野さん。助かったぜ」

 小声で最大級の謝辞を伝える。


「ふんっ。別に、あんたを助けた訳じゃないわよ。たまたま敵がいただけだし」

 何と言う絶妙なツンデレ加減!

 ドラゴンボールの劇場版で後半になって駆け付けるピッコロさんみたい!!


「コウちゃん、トランプ持ってきたーっ! みんなでやろーっ!」

「おう。良いな! 茂木もやろうぜ!」

「そうだな。修学旅行と言ったら、カードゲームだな」

「ヒュー! 最下位のヤツはジュース奢りって言うのはどうだい? ヒュー!」

 どうでもいいけど、高橋、回復力がすごいな。

 ついさっきじゃん。部屋の端まですっ飛んで行ったの。


「言っとくけど、消灯時間までだから。……それまでなら、まあ、付き合ってあげてもいいわよ? 男子と遊ぶなんて、不本意極まりないけど!」

 ああ、氷野さん。随分と丸くなってからに。

 彼女が普通に男子とカードゲームに興じる日が来るなんて。


 とは言え、勝負となれば負ける気はないぜ?

 普通に圧勝してしまっても構わんのだろう?



「やたーっ! 上がりだよっ! コウちゃんの負けーっ!!」

「すまんな、桐島。オレ、三ツ矢サイダーを頼む」

「私は何か適当に炭酸じゃないジュースね」

「わたしはね、ココアが良いなーっ」


 普通に俺が負けた。

 ババ抜きで三回やって、三回とも俺が最下位だった。

 なんだよ、ちくしょう。買ってくるよ。買ってくりゃ良いんだろ。


「ヒュー! オレは、レモネード頼むぜー! レモンたっぷりでな! ヒュー!」



 財布とスマホを持って自販機コーナーへ。

 レモネード以外は多分手に入るだろう。

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