第250話 新幹線と特濃なメンツ

 一度学園のグラウンドに集まった、俺たち二年生。

 そこで、学園長のありがたいお話を聞く。


「やあやあ、みんな、しっかり寝られたかな? どの候補地も、天気は晴れのようだ! これも日頃の諸君の行いの成果だと思うと、僕も嬉しいねぇ!」

 俺たちは、北海道、東京、京都、沖縄と、行先別に整列している。


 数にかなりバラつきがあるため、引率の教員の数も臨機応変に。

 一番人気の沖縄には6名、次いで北海道の5名。

 そして東京の4名。ならば、京都は。


「京都の引率は、僕と教頭先生と、浅村先生で行くからねぇ!」

「えっ!? 学園長も来るんですか!? 教頭先生もですか!?」



 いっけね、声に出しちった。



 失礼な独り言を良しとしない教頭が、俺を睨んで咳払い。

 俺は「すみません」と頭を下げる。

 確かに今のは俺が悪い。


 でも、だって、しかし!

 引率のメンツが濃すぎるのではないでしょうか。

 こんな濃厚ソースかけたら、京都の繊細な味に影響が出たりしませんか。


「いやなに、桐島くんの戸惑いも分かるさ! でもね、聞いてくれるかい? 僕だって、たまには行事に参加したいんだよ!!」

「えっ!? 人手不足とかじゃないんですか!?」



 いっけね、学習能力がないのかな、俺は。



 教頭に睨まれながら、隣の浅村先生は苦笑い。

「良いじゃないか! 僕は京都が好きなんだ! 街並みも良いし、食べ物だって美味い! それになにより、君たちがあまり希望しないものだから、居心地も最高!」



 俺が京都を選んだ理由とほぼ丸かぶりである!



 京都組は、今数えてみたところ、なんと20人しかいない。

 それなのに、パンフレットによると、旅館は3人部屋と言うステキな案件。

 さらに充実した自由時間。

 強制イベントなんて、八つ橋の工場見学くらいしかない。

 八つ橋大好きな俺にとってはもはやご褒美である。


 なるほど、学園長の言う事は正しかった。

 エンジョイしてやろう。

 この学園長と教頭と言う、混ぜるな危険の二人が引率と言うそこはかとない不安はあるけども、そこは生徒指導の浅村先生が上手い事やってくれるさ。


「よし、みんな、バスに乗ろう! 最寄りの新幹線の停まる駅まで、バスの旅だ! そのあとは新幹線! オヤツは持ったかい? 僕は持ってる!」

 ノリノリの学園長に続いて、バスに乗り込む。


「桐島くん。君、点呼したまえ。慣れているだろう」

 そして、しかめっ面の教頭に何故か面倒を押し付けられる。

 が、気分が良いので全然オーケイ。


「教頭先生。20名、過不足なく全員います。体調不良なんかも聞いてみましたが、オールグリーンでした!」

 速やかな点呼なら俺に任せとけ。

 そう言わんばかりの早業をご披露。


「うむ。結構。では、学園長。出発しましょう」

「おけまる! 運転手さん、安全運転で飛ばしてください! なんてね! はは!!」

「……ちっ」

 教頭と学園長のテンションの温度差がサンバカーニバルやってる時のブラジルと南極くらい違うのが気がかりではあるものの、バスは出発。


 そのまま、駅にすんなり到着し、新幹線に乗り込む。

 一車両を貸し切ってあるため、これまた居心地は最高である。

 ここで、班別行動を共にする仲間たちを紹介しておこう。



「コウちゃん、トッポ食べるっ? パイの実もあるよーっ!」

 当然、毬萌がいる。 

 むしろ、いない理由があるならぜひ知りたい。

 そして、そんなのどの渇きそうなものばかりを勧めてくるな。


「ダメよ、毬萌。エノキダケが酔ったら面倒だわ。ほら、あんたもフリスク食べなさいよ。ミンティアもあるわよ」

 クラスは違うが、希望者で班が組めると言う事で、氷野さん。

 毬萌がいるのに彼女がいない理由があるならばぜひ聞きたい。

 そして、自分が乗り物にめっぽう弱いからって、俺までミント漬けにしないで欲しい。

 まあ、もう断り切れずに口の中フリスクまみれだけども。


「いや、なかなか楽しい旅行になりそうだな、桐島!」

 そこに居るだけで人数の尺合わせがデキる男、茂木。

 誰とでも仲良くできるこの男は、この手のイベントに欠かせない。


「ヒュー! 見てみろよ、教頭の腹! きっとばあちゃんのオートミールが詰まってんぜ! ヒュー!!」

 4人のボックス席に座れなくても、普通に会話に参加してくる高橋。

 頼むから教頭を刺激するな。

 それから毬萌のトッポを受け取るな。

 それ俺んだぞ、てめぇ。


 こんな感じで、5人班の結成と相成った。

 本来は4人で班を作るべしとのお達しで、俺たち同じクラスの毬萌、茂木、高橋、俺で構成されていたのだが、そこは氷野さん。


 「先生、桐島くんが溢れているので、うちの班は5人で良いですか?」と、俺にボッチの汚名を着せて、まんまと5人班へと手合せ錬成。

 その見事な手際には脱帽。


 そして、その後俺は担任の先生から「何か悩み事があったら言うのよ?」と、いじめられっ子のカウンセリング的なものを受けた。

 俺は言う。

 ヤメて下さい。酷い偏見だ。

 みすぼらしいのは見た目だけで、交友関係は充実しています。



 一路、新幹線は京都を目指す。

 着いたら再びバスに乗り換えて、早速八つ橋工場の見学らしい。

 出来立ての八つ橋を食べられるのかしら。


「うゔぉあ……。ちょっと、桐島公平、そこの窓開けてくれる?」

「いや、新幹線の窓が開いたらえらいことだよ!? どうした氷野さん!?」

 なんかすごく顔色悪いけど。

 フリスクとミンティアの物量作戦はどうなった。


「マルちゃん、パイの実たくさん食べたから、お腹いっぱいになったのかなっ?」

 原因はそれじゃねぇか!

 お前、猫に玉ねぎと移動中の氷野さんに食い物はNGって言ったろ!!


「大丈夫かい、氷野さん。何か飲むか?」

 良いぞ、茂木。ナイス判断。


「ヒュー! 氷野っち、オレのキャベツ太郎食べるかい? 良い匂いたぜぇ!」

 や・め・ろ!

 酔った人間にスナック菓子の匂いをかがせるんじゃねぇ!!


「うゔぉ……。桐島公平、先に言っとくわね。ごめんなさい」

「なんで正面に座る俺に謝んの!? えっ、ちょっと、どうして!?」



 リニア新幹線はいつできるのだろうか。


 可能ならば、今すぐ変形してもらえませんか。

 どこでもドアでも構いません。

 もしもボックスでもありがたいです。



 ないなら、最悪ビニール袋を下さい。

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