修学旅行編

第249話 いよいよ修学旅行!

「おっしゃ! こっちの書類さばき切ったぜ! ひゃおっ!」

「桐島先輩、ご機嫌ですね」

「そりゃそうさ! なんつったって、明日から修学旅行たぜ! ふぉー!!」

「先輩は京都を選択されたのでしたね」

「おうともよ! 何故か選択者が一番少ないみてぇだけどな! まったく、どいつもこいつも、修学旅行ってもんを分かってない!」

「と、申しますと?」

「旅行と銘打っちゃいるけども、修学旅行は立派な学業だ! 北海道で美味いもん食ったり、沖縄でピーチ駆けまわったり、それは勉強か!?」


 この時の俺はテンションが上がり過ぎて、少々偏った発言をしておりました。

 別に、北海道や沖縄をどうこう言うつもりはないのです。

 むしろ、北海道も沖縄も大好きです。

 夕張メロンとソーキそば、大好きです。


「なるほど。桐島先輩は修学旅行でも勉学に励むのですね。ご立派です!!」

「おう! もうね、どこの寺巡っちまおうかと思うだけで、ワクワクしちゃう!」

 この発言で「いや、結局寺巡りしたいだけやんけ」と鬼瓦くんにバレるものの、それを口にしない優しい鬼。

 鬼神にっこり。


「あーあ、あたし、公平先輩の後輩で良かったって、出会ったときからずーっと思ってます。けどぉ、寂しいですー! あたしも一緒に行きたいですよぉ!」

 駄々っ子な花梨さん。

 腹立ちまぎれにエンターキーをターンッ!

 そのキーボード古いから、エンターキー埋まって取れなくなっちゃうよ。


「にははーっ。ごめんね、花梨ちゃん。お留守番させちゃって」

 ちなみに、俺たちが留守の3日間は、花梨と鬼瓦くんの二人が生徒会を受け持つ。

 例年であれば、前年度の生徒会役員が応援に来てくれるのであるが、天海先輩と土井先輩が来たら助かるけども、それ以上に色々と面倒な予感を察知。

 「なにかあれば、こちらから連絡します」と、土井先輩にお伝えするに留めて置いた。

 多分これが正解のルートだと俺は思う。


「ううー! 公平先輩、毬萌先輩! あたし、明日から3日だけ、二年生ってことになりませんか!? どんな手を使っても良いです!!」

 花梨の実家を考えると、手段を択ばなければ実現しそうで空恐ろしい。

 花梨パパが花祭学園を買収しかねない。

 ダメだよ、学園長が泣いちゃう。

 おっさん同士の脂汗で脂汗を洗う闘いなんて誰も望んじゃいないよ。


「まあ、たったの3日だから! なっ? 何かあれば、気軽に連絡してくれて構わねぇし。どうにか堪えてくれよ」

「もぉー! なんで公平先輩、さっきまでとテンションが違うんですか! 男の人なら同じテンション貫いて下さい! あたしだけ子供みたいじゃないですかー!!」

 釣り上げられたフグ状態の花梨さん。


「そうだ、分かった! なんか、とっておきの土産買ってきてやるから!」

 もので釣る。

 それは、男が取るべき手段でも下策と揶揄される代物である。

 だが、それで丸く収まるならば、俺の男のランクなんて下がってしまえば良い。


「お土産ですかー? ……それ、先輩が、あたしの事を想って買ってくれます?」

「おう! 想う、想う! もう、土産選んでる間中、ずっと花梨の事しか考えねぇ!」

「……だったら、我慢します。もぉー。早く帰って来て下さいね!?」

 いや、花梨さん。

 おつかいじゃないから、帰ってくる時間は早められないよ。


 そして感じる、寂し気な視線。

 そこには、しょんぼり瓦くんがたたずんでいた。

 すぐに原因に行き当たる。



 いっけね。

 さっきの話だと、土産買う時、鬼瓦くんの事一瞬も考えてねぇや!



「お、鬼瓦くんにも、当然、とびっきりの土産買ってくるぜ!?」

「ほ、本当ですか!?」

 鬼瓦くんの表情がゆるむ。

 せっかくなので、俺は彼と手を取り合った。

 俺はにっこり。

 鬼神うっとり。


「ちょっとぉ、せんぱーい? お話が違うんですけどぉー」

 ああ、面倒くせぇな!

 なんだよ、急に俺の取り合い始めんなよ!

 幸せだよ! こんなに後輩に慕われて!

 幸せで、ものっすげぇ面倒くせぇ!!


「武三くんも、花梨ちゃんも、何か忘れてないかなっ? わたしのお土産だってあるんだよっ! すっごいの買ってくるからね!!」

「ゔぁあぁぁあぁっ! 光栄です、毬萌ぜんばい!!」

「わぁー! 楽しみですー! 期待してますね!!」


 二人ともー。

 俺の取り合いはー?

 ねぇ、もう終わっちゃったのかな、そのイベントー。


 それから、俺と毬萌は、後輩二人に面倒を掛けないように色々と用意をした。

 具体的には、今日中に片付く案件は全て処理。

 そして、毬萌によるトラブルシューティングマニュアルの作成。

 現在彼女は天才モードであるゆえ、その出来は言及するまでもない。

 これだけ揃っていれば、留守にする間、彼らものんびりできるだろう。

 花梨も鬼瓦くんも、先輩がいない間に羽を伸ばして欲しい。


 そして終業。

「お二人とも、お気をつけて行ってらして下さい!」

「寂しいですけど、あたし我慢します! 思い出話、たくさん聞かせて下さいね!」

 校門で、花梨と鬼瓦くんにサヨナラ。


「おう! んじゃ、ちょいと行ってくらぁ!」

「何かあったら連絡してねっ! いってきまーすっ!!」

 俺も、毬萌を家まで送り届けて、帰宅。



 もはや荷造りは済んでいる。

 怖いのは寝坊だけ。しかし、今回は目覚まし時計を6つ用意した。

 それを部屋の四隅と中央、さらに机の上に設置。

 完璧である。美しささえ感じる。

 風呂に入って、ライトセーバーを振り回してから、おやすみなさい。



「あんたぁぁぁっ! 朝だよっ! 遅刻するよ! いつまで寝てんだい!!」

「あああああああああああああああああっ!?」

 そんな馬鹿な、あれだけの目覚ましがあって、俺ぁ寝坊をしたのか!?


 早鐘を打つ心臓を抑えながら、時計を見る。

 午前6時。なんてこった……。



 全然寝坊してねぇよ!

 むしろ、セットしといた時間まで30分あるよ!!



「なんだい、目が覚めただろう? 母さんなりの、愛情たっぷりサプライズ目覚ましさ! あんた好きじゃないか、燃え燃えギューンっての!!」

 母さんばばあ!

 そんなメイドカフェのメニューみたいな目覚まし頼んでねぇだろ!?

 なんだよそのジョジョに出てきそうな擬音! エレキギターなの!? 

 いや、そもそも萌え萌えキュンだって、べべ、別に、す、すす、好きじゃねぇし!?



 そんな訳で、最低の目覚めとなったが、まあ寝坊よりはマシである。

 いざ、学校へ! 待っててね、京都のお寺たち!!

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