第216話 美空ちゃんとアーモンド

「それじゃあねぃ、藤原さぁんと桐島くぅんには、アーモンド砕いてもらおうかねぇい! やり方はぁ、分かるぅかぃ?」

 パパ瓦さん、忘れられては困ります。

 俺が一体、幾度リトルラビットの仕事に関わって来たと思っているのですか。


「完璧です。任せて下さい」

「んんぁあぁ! 頼もしいねぇい! それじゃあ、任せたよぉう!」

「公平兄さんって、何でもできるんですね! さすがやわー!」

「いやいや、単純に何回も経験してるだけだよ。美空ちゃんもやり方覚えたらすぐに上手にできるようになるさ」

 そしてチラリと心菜ちゃんを確認。

 うん。可愛い。

 違った。接客は順調そうである。


「じゃあ、冷凍庫からアーモンドを出してみようか」

「公平兄さん、なんで凍らせとるんですか?」

「冷凍すると、砕きやすさが雲泥の差なんだってさ」

「そうなんや! 物知りで尊敬しますわー!」

「いやいや、これも鬼瓦くん……ここのお店の人の受け売りだよ」

 そして心菜ちゃんを確認。

 最高に可愛い。マジで天使。

 違った。レジ打ちを上手にこなしている。


「このジッパーのついたバッグに入れて、麺棒で叩く! ああああああいっ!!」

「兄さん、全然砕けてへんけど、これでええんですか?」

「うん。今のはお手本だからね。美空ちゃんがやってごらん?」

 はい、そこのゴッド、指を差さないでー。

 分かってる、全力で叩いたけどアーモンドが欠片も砕けなかったのは。

 そこはもう、アレじゃないか。

 サラッと流すところじゃないか。


「あー! ウチに教えるためやったんですか! さすがやわー!!」

 俺だって、初対面の女子中学生の前でちょっとくらい良い恰好したい。

 良いじゃないか。別に人を傷つける嘘をついた訳じゃないんだから。


 なに? バイトの時はどうしてたのかって?

 そりゃあ、普通に業務用のミルサー使ってたけど?

 あれだよ、よく通販番組でやってる、カチッとやるだけで勝手に食材を粉砕してくれるヤツ。

 力加減は完璧だからね。だって機械だもん。


「こんな感じでどないですか、兄さん!」

「おー。良い感じ、良い感じ。筋がいいよ、美空ちゃん」

 これも嘘じゃない。

 俺と比べたら、既に比較にならないほど筋がいいんだ。


「あ、って言うか、ごめんなさい!」

 突然頭をかきながら謝る美空ちゃん。

 何かしら。

 告白していないのに「男としての魅力感じないんで」的な、アレかしら?

 大丈夫。それ、割と言われるから、お兄さん慣れてるよ?


「ウチ、いつの間にか、桐島さんの事、兄さんって呼んでました……。実家には桐島さんと同じくらいの兄がおるんです。ついその感じで……すみません!」

「ああ、いや、美空ちゃんが呼びやすいようにしてくれて良いよ?」

 すると彼女は嬉しそうにはにかむ。

 八重歯が可愛らしい。


「ほんまですか! せやったら、公平兄さんって呼ばせてもらいます! なんか、こっちでも兄さんができたみたいで嬉しいわー!」

「おう。それは良かった。まあ、頼りない兄だけどね」


「公平兄さまは頼りになるのです!」

「うおっ、びっくりした!」

「はわわー! ドッキリ作戦、成功なのですー」

 うん。可愛い。

 もうその可愛さにドッキリしているから、常時成功しているよ。


「どうした、心菜ちゃん?」

「お父様が、心菜も一緒にアーモンド砕きなさいって言ってくれたのですー」

 パパ瓦さん、さすがの優しさである。

 見た目はなまはげの親戚にしか見えないけれど、その隠された中身はたいそう慈悲深い。

 大方、心菜ちゃんと美空ちゃんを一緒に作業させてあげた方が、二人も楽しめるだろうと言う心配りであろう。

 俺も鬼の一族のように、底の見えない懐の深さを身に付けたいものだ。



 それから、三人でアーモンドを叩いて砕きまくった。

 厳密には、職場体験コンビが叩いて砕きまくった。

 俺は、ほら。アレがナニして、ね?


 そして、大量のクラッシュアーモンドが出来上がったところで、職場体験学習終了のお時間となった。

「三人とも、お疲れ様! あっちにお菓子とお茶、それからお赤飯用意してあるから、ゆっくり食べてちょうだい!」

 ママ瓦さんの小粋なサプライズ。

 毬萌たちが放課後ティータイムしている隣のテーブルに、色々とこんもり用意されている。


「はわー。兄さま、心菜たちお仕事しに来たのに、お菓子食べてもいいです?」

「せやな! 心菜ちゃんの言う通りや!」

 俺は、二人に向かって首を振る。


「仕事をしたら、その分の対価を得るものなんだよ。今日頑張った二人には、美味しいお菓子でちょいとお茶飲むくらいの資格は充分あると思うよ?」

 すると、目を輝かせる中学生コンビ。


「はわー! このクッキーに入ってるの、アーモンドなのです!」

「ほんまやね! ウチらが砕いたヤツと同じヤツやん!」

「サクサク、コリコリでとっても美味しいのですー」

「むっちゃ甘いし! こんなん食べた事あらへん! こっちも食べようや、心菜ちゃん!」


 やれやれ。

 思わぬ展開になってしまったが、結果的にはオーライだったな。

 椅子に腰かけて、アイスティーをすする。

 うむ。良く冷えていて美味い。

 そして赤飯は炊き立てであった事を付言しておく。


「いつもながら、人の世話焼かせたらホントに手際よくて、もういっそ結構な勢いでキモいわね」

「氷野さん。……俺の罪は、許されたのだろうか?」

「ふん。心菜が可愛いのは事実なんだから、まあ、見るくらいは許してやるわよ。あの子、何故だかあんたに懐いてるし。……不本意だけど」

「美空ちゃんも良い子だね。類は友を呼ぶってヤツかな」

「分かってるじゃない。……言っとくけど、変な気起こすんじゃないわよ?」

「いや、俺ぁもう間に合ってるよ。マジで」

「まあ、そうね。あんた、既に手一杯だったわ。……ほら、手、出しなさいよ」


 コロリと一粒、固形物。



 久方ぶりのメントスであった。

 コーラ味なのは、俺への労いだろうか?

 ふふふ、氷野さんも可愛いところがあるああぁぁあぁぁぁぁぁぁいっ!!



 ニヤニヤしていたら、尻を思い切り蹴られました。

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