第209話 生徒会と帰って来た日常

 エアコンの効いた生徒会室ってステキ。

 もう、ソファーにごろ寝して、冷風を体いっぱい浴びちゃう。

 ステキを通り越していっそセクシーだね。



「コウちゃーん! お仕事持ってきたーっ!」

 始業式は午前中で終わり、俺たちは現在昼休みの最中。

 生徒会役員は、午前で終わる始業式の日も雑務に励むのである。


「マジかよ。もうそんなに書類の束あんの?」

「もーっ、コウちゃん、お行儀悪いよーっ!」

 確かに、ソファーにごろ寝している俺は、他の誰から見てもしっかり不作法者だろうし、当然自分でも自覚はある。


 けれども、想定外の講壇潜入ミッションをこなしたんだから、少しくらい大目に見てくれたって良いじゃないか。

 なにが悲しいって、死にそうになりながらミッションこなしたのに、花梨は何ひとつミスらなかったことだ。

 もうそれ、俺の存在する意味がないんだもの。

 ただひたすらに後輩の太ももを眺めていただけだよ。

 暑さで汗かきながら、はあはあ言いながら。


「別に良いだろー。休憩時間ってのは、いかにリラックス出来るかが肝要なの」

「ふぅーん。そんな事言って、スカートを覗くつもりなんでしょっ!?」

「人聞きが悪いな。誰がお前のスカートなんぞ覗くかよ」


「じゃあ、あたしのスカートだったら覗きますか? 公平先輩!」

 揃いも揃って人聞きが悪い。

 花梨も、生徒会室に入って来て第一声がそれとか、酷いじゃないか。


「毬萌も花梨もお子様だからな! お子様のスカート覗くくらいなら、鬼瓦くんの胸板でも眺めといた方がよっぽど目の保養になるわい」

 すると。ガタンと扉に誰ががもたれ掛かる音がする。

 「んあ?」と首を無理やりねじって見てみると、鬼瓦くんが内股で立っていた。


「せ、先輩、僕の事を、そ、そんな目で見ていたのですか!?」



 なんで君は瞳を潤ませてショックを受けとるのかね。



「いや、そんな目も何も、今のは言葉の綾っつーか」

「い、いいんです! ぼ、僕は、そんな先輩でも、尊敬していますから!!」

「あーっ! コウちゃんが武三くんにセクハラしてるーっ!」

「ですねー。これはスタッフサービスに電話案件かもしれませんねー」

「なーにを言っとるんだ、お前らは。なあ、鬼瓦くん?」


「ぼ、僕! お花を摘んできます!!」

「……あれ? ちょっと、鬼瓦くん? ねえ、ちょっと、あれ?」



 お、鬼瓦くぅぅぅぅん!!



 何か知らんが、俺は鬼瓦くんのピュアなハートを傷つけたのかもしれん。

 意味は分からんが、帰ってきたら謝ろう。とりあえず。



「ところで、先輩方! 今日はあたし、お土産持ってきたんですよー!!」

「えーっ! お土産っ!? どこの、どこの?」

「えへへー。ハワイのです!」

「は、ハワイ……? あ、あーっ! 鳥取にあるヤツだっ!」

「それは羽合はわい町な。細かすぎて伝わらないネタはヤメなさい」

 ちなみに、現在は合併により湯梨浜ゆりはま町と名を変えている。

 つまり、羽合町のネタが通じるか否かで、相手の年齢を察することができる。


「まあ、俺らからしたら、ハワイって言われてもピンと来ねぇよな」

「う、うん……。だって、ハワイって飛行機に乗って行くんだよねっ?」

「あはは! 毬萌先輩、当たり前じゃないですかー!」

「おう。花梨。こいつ、飛行機乗ったことねぇんだよ」

「えー!? そうなんですかー!?」

「こ、コウちゃんだってないでしょー!! わたしだけじゃないもんっ!」

 実のところ、飛行機に乗った事がないのである。

 だって、ほら、なんかアレだろう? 飛行機って。

 ね? アレだよ。マジで、ちょっとだけアレだからさ。


「もしかして、お二人とも、飛行機が怖い、とかですか?」


「はっ、はははっ! そ、そんな訳ないじゃないか! な、なあ、毬萌!?」

「う、うんーっ! この科学が発展した時代に、飛行機が怖いなんて、ねーっ!?」

「じゃあ、今度みんなでうちの別荘に行きましょう! 飛行機はチャーターしますので! 貸し切りで快適ですよ!」


「ごめんなさい、花梨ちゃん……。わたし、飛行機、怖い」



 お前、ズルいぞ! 勝手に一人で楽になるなよ!!



「毬萌先輩、可愛いです! ねー、公平先輩?」

「お、おう、おおう、おうおう、おう!」

「にははーっ、コウちゃん、アシカみたーいっ!! ぷぷーっ!」

「今度、パパに飛行機を用意してもらえるように頼んでおきますね!」


「ごめん。花梨。ヤメて。花梨さん。飛行機、怖い。高いとこと狭いとこ、どっちも怖い。おれ、ひこうき、のらない」

「でも、公平先輩、観覧車は平気でしたよね?」

「おう。ぶっちゃけ、あれが限界。絶叫マシンも死ぬほど苦手」

「あれ? でも、遊園地に行ったときには、あんなにはゃいでいたのに」



 花梨さん。あれ、はしゃいでたんやない。死にかけてたんだよ。



「えへへ! じゃあ、飛行機乗るときは、あたしが手を握ってあげます!」

「あっ! それなら、わたしも握ってあげるーっ!」

「嫌だ! 毬萌は頼りにならねぇし、花梨は絶対にからかってくるだろ!? それなら、俺ぁ鬼瓦くんに抱きついてる方が良いわい!!」


 生徒会室のドアがガタンと開いて、鬼瓦くんが立ち尽くしていた。

「せ、先輩!? や、やっぱり、僕をそんな目で……!?」


 だから、なんで君は瞳を潤ませているのか。


「し、失礼します! お花を摘んできます!!」



 お、鬼瓦くぅぅぅぅん!!

 お花がなくなっちゃうよ! 誤解だから、帰っておいで!!



 それにしても、この感じ、久しぶりである。

 やはり生徒会室でこうやってバカ話するのは楽しいな。

 二学期も、仲良く団結して頑張っていきたいものだ。



 そう言えば花梨さん、お土産は?

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