第202話 鬼瓦家と出張 with勅使河原さん
「ほへぇー。結構色々と出てんな」
「そだねーっ! これなら花火まで時間潰せるよぉー!」
毬萌が屋台を見て回りたいと言うので、出店エリアを現在ぐるりと周回中。
ちなみに何も買っていないので、完全に冷やかしでもある。
とは言え、どの店も盛況のようなので、俺の援護射撃など必要あるまい。
「桐島先輩! 毬萌先輩も! ゔぁあぁぁぁあっ! ぜんばぁぁぁい!!」
先ほど心菜ちゃんと別れたばかりなのに、もう次の知り合いに会うとは。
世間が狭いのか、花火大会の求心力のなせる業か。
「おー。鬼瓦くん! 君んちもお店出してんのかぁ」
「ええ。毎年花火大会の日だけ、うちは洋菓子店の看板を下ろすのです」
見ると、商品は祭りの夜店で売っている、定番のお菓子類であった。
「うちもねぇい、普段のお客様あっての商売だからぁい、この日は利益度外視で、花火の添え物をぉう、提供してるぅんだよぉ、桐島くぅうぅん」
ねじり鉢巻きに法被姿のパパ瓦さん。
何と言うか、似合い過ぎている。
「ご家族三人で切り盛りっすか。大変じゃないですか?」
「いいえ。桐島くん。うちは四人家族よ!」
ママ瓦さん、胸にさらし巻いて、その上に法被と言うやたらセクシーな姿。
「と、言いますと? ……おう」
「あ、えと、先輩、い、いらっしゃ、い、ませぇぇ!」
勅使河原さんがそこには居た。
そして彼女も胸にさらしを巻いて、直に法被を羽織っている。
何と言うか、大変目の毒である。
「わぁーっ! 真奈ちゃん、すっごく可愛い恰好だねーっ!」
「や、やめて、くださいぃ! は、恥ずかしい、ので!」
「おう。なんつーか、大変だな。勅使河原さんも」
ガチで恥ずかしそうである。
と言うか、花も恥じらう高校生になんつー恰好をさせとるんだね。
勅使河原さんも、嫌なら嫌って言っとかないと、嫁いだあと大変だよ?
「ねーねー、コウちゃんっ! わたし、ちょっぴりお腹空いたかもーっ!」
「そうか。まあ、そうだよな。せっかくだし、寄って行くか」
俺たちの時間の使い方が決定した。
セーブポイントで体力を回復させるのだ。
「先輩方、椅子をどうぞ」
鬼瓦くんが簡易椅子を二脚出してくれる。
「いや、俺らだけ特別扱いしてもらっちゃあ申し訳ねぇよ」
当然の遠慮である。
お忘れかもしれないが、常識と良識を兼ね備える男。それは俺である。
「気にぃしないでぇおくれぃよぅ! 二人はもう、従業員みたいなぁもんだからねぇい! 顔馴染みにサービスするのは、当たり前だぁよぅ!!」
パパ瓦さんにガッチリ肩を掴まれる。
こうなると身動きが取れないので、ご厚意に甘えるほかない。
大鬼神どっしり。
「き、桐島、先輩! その、お茶、いかがです、か!?」
「お茶あんの!? 千円出すからぜひ売ってくれ!!」
「何を言っておられるのですか。もちろん、サービスですよ」
「お、鬼瓦くん! いやぁ、地獄に仏とはまさにこの事だぜ!」
地獄に鬼であるが、ここの鬼は良い鬼であるからして、大変よろしい。
「かぁああぁっ! うめぇぇえぇっ!! こんな美味いお茶、初めてかもしれん!」
「はははっ! 桐島先輩は大げさですね!」
「いや、マジで! 麦茶飲んで涙が出そうになったもん!」
「良かったねぇー、コウちゃん!」
「おう。誰のせいか知らんが、やたらと喉が渇くイベントがあったからな」
「みゃっ……。ま、真奈ちゃん、武三くんと一緒で良かったね!」
こいつ、露骨に話を逸らしやがった。
「は、はいぃ。実は、三日前、から、今日の仕込みの、お手伝い、してます!」
「おお、そりゃ凄い! マジでもう勅使河原さん、鬼瓦家の一員だなぁ」
鬼瓦くんが微笑みながら勅使河原さんの肩を抱く。
「ええ。真奈さんはもう、うちになくてはならない人ですよ!」
もうプロポーズどころか、
そして彼は付け加える。
「こんなに素晴らしい人と親友になれて、最高に幸せです!!」
彼の中には親友以上のランクは存在しないのかな?
「あ、なんつーか、勅使河原さん、気を落とさずに」
「い、いえ! も、もう、慣れまし、た、から!」
……慣れちゃったんだ。
「本当にぃ、真奈ちゃんはよく働いてぇくれているよぉう!」
「そうですね、あなた! 今日はお赤飯にしましょう!」
鬼瓦くんの家、赤飯の確率が高すぎて、もうありがたみないんじゃない?
まあ、ご両親公認だし、そのうち鬼瓦くんも目が覚めるだろう。
今のところは鬼神すやすや。
「ところで先輩方、何か食べられますか? サービスしますよ」
「おう。そうだった。ああ、ちゃんとお金は払うからな。こういうところはルーズになっちゃあいけねぇよ」
「なるほど、さすが桐島先輩です。僕も見習わなければ!」
「そうだねぇい! 桐島くぅんは、実に良い男だぁよぅ!」
「そうね。桐島くんにはうちも随分助けられているわね。武三も、先輩に恵まれて幸せ者だわ! 桐島くん、お赤飯食べる?」
鬼瓦家に総出で褒められると、むず痒いが嬉しくもある。
あと、もうお赤飯あるんですね、ママ瓦さん。
「コウちゃん、美味しそうなのばっかりだよっ! 買おう、買おうっ!」
「おう。そうだな。俺もちょいと腹減ったし、何にすっかなぁ」
色とりどりの夜店でお馴染みスイーツだが、鬼瓦家の店と言うことを忘れてはいけない。
絶対に美味しいヤツである。
確実に俺の口の中が宝石箱になるリアクションを取らされるであろう。
とは言え、甘い匂いには逆らえない。
花火の前にスイーツで体力回復。
これほど理にかなった筋道は他にないかと思われた。
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