第174話 水着と乙女たち
「公平兄さまー! 花梨姉さまー!!」
俺の名を呼ぶ、渚の天使。
返事をしない理由がないね。
「おう。心菜ちゃん、おはよう!」
「おはようございますなのです! これ、姉さまが二人にって!」
それはよく冷えたアクエリアスであった。
「おー。こりゃありがたい。暑かったから助かるよ」
「ですねー! ところで、マルさん先輩はどちらに?」
「姉さまなら、あそこなのです!!」
心菜ちゃんが指さす先には、氷野さんと男が二人。
どうも、口論をしているようである。
「ちょ、ちょい待ち! 姉さま、他に何か言ってなかったかい!?」
どう見てもあれ、ナンパされているね。
どこに行っても悪い虫っているもんだよ。
「先輩、どうするんですか!?」
「そりゃあ助けに行かねぇと! 氷野さんだって女子だぞ!! あんなだけど!!」
「……ふぅん? 私のことも、一応女子扱いしてくれて、ありがとう?」
俺は命を諦めた。
海水浴場に来て、わずか一時間と少しの出来事である。
「姉さまー!」
「お待たせ、心菜! 悪い虫さんはもういなくなったわよ!」
「……どういった次第で?」
花梨が俺の肩をちょんと叩いて、耳打ち。
「マルさん先輩が、思いっきりビンタしてました」
「……Oh」
氷野さん、ナンパ野郎になんて負けないんだ。
「そんじゃ、そろそろ残りのパラソルも立てるか」
「仕方がないから、私も手伝ってやるわよ」
「あたしもやります! 心菜ちゃんは危ないから、少し離れてて下さいね!」
「はいなのですー」
そして手分けしてパラソル、展開。
一度やった作業だから、手順は完璧。
なんと、二人がかりの女子と同じタイムで組み上げた。これは快挙。
「姉さま、姉さま、もう水着になってもいいです?」
「そうね。暑いし、そうしましょうか」
「はーいなのですー」
そして、何の迷いもなくスカートを脱ぎ捨てる心菜ちゃん。
「わぁぁー!! 先輩、見ちゃダメです!」
「ぐあぁぁぁっ」
花梨さん。目隠しするなら優しくして。
と言うか、指が目に! それは目隠しやない、目潰しやで!!
「あ、ごめんなさい、先輩。大丈夫でした? あはは……」
「おう? ……おう!」
そこにはスクール水着姿の心菜ちゃん。いや、七つの海の天使!
「心菜ちゃんたちも、あたしと同じことしてたみたいです」
「お、おう。そ、そうかぁー」
「せんぱーい? 心菜ちゃんを凝視し過ぎじゃないですかー?」
ち、違うよ!? 見てないよ? 全然全然、全然見てないよ?
「あはは! 砂が熱いのですー!!」
「こら、心菜! そんな不用意に飛び跳ねちゃダメよ!」
「……心菜ちゃん、やっぱり大きいですよねー」
「そうだなぁ。立派なものをお持ちだよ」
「……せんぱーい?」
「……Oh」
思わず心のため息が外に漏れていた様子。
「ひ、氷野さんも水着、似合ってるぜ!?」
「どこ見てるのよ!? いやらしい!! あんたは一生あっち向いてて!!」
「ええ……」
氷野さんのボーダー柄のビキニを誉めたら、一生こっち見んなって言われた。
「あたしも脱ぎますねー! ……先輩、こっちは見ても良いですよ?」
「ばっ! からかうんじゃないよ! あたしゃ見ないからね!!」
下に水着があると分かっていても、目の前で服を脱がれると何と言うか、妙に
「おーい! みんなーっ! おっはよーっ!!」
目を塞いでいると、毬萌の声が。
そうだ、柴犬の顔を見て落ち着こう。
「おう。来たか。ありゃ、鬼瓦くんたちも同じ電車だったのか」
後続には、鬼瓦くんと勅使河原さん。
二人でバスケットを片方ずつ持つ姿が何とも
「あーっ! もうみんな水着になってるーっ! わたしも脱ぐーっ!!」
「おいおい、ちょっとは落ち着けよ。毬萌ぉぉおぉおぉぉぉい!!」
「ふぇ? なぁに、コウちゃん?」
「お前ぇぇ!! 下、水着じゃねぇだろうがぁぁぁっ!!」
俺は、毬萌の服の裾を全力で引っ張りながら叫んだ。
俺の記憶によると毬萌の水着はスカートタイプのビキニで、かなりフリルもついていた。
だから、その上に服を着られるのかしら? と疑念を抱いて正解だった。
「みゃあっ!? こ、コウちゃんのエッチ!!」
「なんで!? むしろお前がエッチだよ! 露出魔かよ!!」
「なるほど……。そんな手が。さすが毬萌先輩、やりますね……!」
「花梨さん、なにを頷いてんの!? 変なこと学習しないで!!」
「俺も着替えるから、更衣室行くぞ!!」
「うぅ……。恥ずかしいよぉ……」
「俺だって恥ずかしいわい!」
「ははは! 今朝もお二人は息ピッタリですね!」
「う、うん! そう、だね! 武三さん、私たちも、着替えに、行こ?」
「そうしようか。冴木さん、バスケットをお願いしてもいいかな?」
「あ、はーい。分かりました」
「すみません。更衣室お借りします」
「おい、お兄ちゃん! さっきと連れてる子が違うじゃん! 重婚か?」
「違いますって!」
「はいっ! 正妻ですっ!」
「だ・ま・れ!! 勅使河原さん、こいつの事頼む!」
「あ、はい! わ、分かり、ました! 毬萌先輩、行き、ましょう!」
こうして全員が水着に着替えた訳である。
毬萌は以前一緒に買いに行った、白いスカート付きのフリフリ水着。
腹立たしい事にかなり可愛い。
勅使河原さんは、青が鮮やかなパレオ付きの水着。
清楚な彼女によく似合っていた。
「いやー、桐島先輩の水着、派手で良いですね!」
俺の水着には、確かにハイビスカスが咲いていて派手かもしれない。
が、しかし。
「鬼瓦くんは、なんつーか、おう。個性が生かされてるな」
「そうですか? 僕水着を持っていなくて、父さんのを借りたのですが」
俺の隣には、ブーメランパンツを着た鬼神! ナイスバルク!
でもね、よそ様の家に口挟むべきじゃないけど、言わせて。
親子でブーメランパンツの貸し借りすんなよ!!
既に色々あって疲れが出始めている俺である。
が、海水浴はこれからが本番。
アクエリアスで体力回復だ! 待ってろ、ビーチ!!
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