第157話 洋菓子店とプリティラビッツ

「ゔぁららららららららいっ! ……で、できた! 僕にもできた!!」



 よく分からんが、鬼瓦くんが開眼した様子。

 時刻はもう午後10時過ぎ。

 俺と勅使河原さんは、せっせと菓子の下ごしらえをしていたため、結構な量のタネが出来上がっていた。


「桐島先輩、お疲れ様です! おや、真奈さん? どうしてここに?」

 やはり集中していて気付いていなかったか。

 俺は、勅使河原さんが好意で手伝いに来てくれた事を伝える。


「ありがとう! やっぱり真奈さんは、僕の親友だね!!」

 その好意を厚意として受け取る鬼瓦くん。

 鬼神うっかり。


 さらにしばらくすると、ママ瓦さんが帰宅。

 パパ瓦さんはもはや戦いについて行けそうにないから置いて来たと、天津飯みたいな事を言う。


「それにしても、お嬢さんが増えていますね。こちらは?」

「鬼瓦くんを心配して来てくれた子たちですよ。息子さん、人気者ですから」

 俺は真実を口にする。

 役立たずコンビも、店内の掃除とかは頑張っていたし。


「まあ、武三! あんなに引っ込み思案だったあなたが! 今晩はお赤飯ね!」

 いや、ママ瓦さん、申し訳ないんですけど仕事して下さい。


「もうこんな時間です。お嬢さん方を一人で帰すわけにもいきませんので、皆さん、今日はうちに泊まって下さいな。私も仕込みがあるのでお構いはできませんが」

 確かに、女子3人をそれぞれ送り届ける時間のロスは惜しい。


「あーっ! じゃあ、わたしが晩ごはん作りまーすっ!」

「いいわね! 私も一緒に作るわ!」

 なんでこの子たち、ちょっと目を離すと邪神教じゃしんきょう供物くもつ作りたがるん?


「あの、お母さん。厨房の端を貸してもらえりゃ、俺がカレーでも作りますよ。差し出がましくて恐縮なんすけど」

「桐島先輩は手先が器用だから、お願いしようよ、母さん」

「そうですか。それでは、すみませんが、お願いします」

「かしこまりました。勅使河原さんはお母さんの手伝い頼むな。あの、この子、武三くんに似て引っ込み思案な所もありますが、すごく優秀な子ですんで」

 俺がママ瓦さんに面通めんとおしすると、勅使河原さんは控えめにおじぎする。


 どうやら、その所作で、ママ瓦さんは勅使河原さんの好意に気付いた様子。

 そのさとさ加減がどうして息子さんに遺伝しなかったんですか?


「武三! あなた、こんなステキなお嬢さんに……! お赤飯炊きましょう!」

 この人も、なんですぐ赤飯炊こうとすんの?

 ママ瓦さん、仕事して下さい。


 パパ瓦さん不在の中、鬼瓦親子と勅使河原さんの頑張りで、翌日の開店の目処が立ち、途中俺のカレーで食事休憩を取りながら、夜は更けていく。

 えっ? 役立たずコンビ?

 ああ、あの二人なら、俺のスマホで映画見てるよ。

 何故か『チャイルド・プレイ』見ながら、キャーキャー言ってる。

 邪魔になんねぇなら、もう好きにしたらいいと思うんだ。



 そしてお月様がお次のお空へ向かい、朝を迎える。

 開店時間の10分前。外にはお客がぞろぞろ。


「んじゃ、俺が指示出すから、3人とも、頼むぞ!」

 勘定間違ってないかって? キルユーだぜ、ヘイ、ゴッド。

 役立たずコンビが敏腕コンビにジョブチェンジするんだよ。

 言ったろ。適材適所って。


「まっかせてー! 今日も頑張るよーっ!」

 レジ周りを統べる、天才ラビット、毬萌。


「とにかく混雑や行列を整えれば良いのね? ふふん、楽勝じゃない!」

 人をさばくなら任せとけ。風紀ジャッジメントラビット、氷野さん。


「わ、私も、頑張り、ます!」

 仕事ぶりがママ瓦さんの目に留まった、ゆるふわラビット勅使河原さん。

 彼女は厨房に入る。


 3人とも、リトルラビットの制服が良く似合っている。

 氷野さんは毬萌同様サイズが微妙に合わず、ミニスカートになっている。

 大丈夫、俺ぁ見ないよ? だって因縁つけられた挙句、蹴られるもん。


 勅使河原さんだけは、あつらえたようにピッタリサイズ。

 これはもう、とつげって言う天の思し召しだよ。


 そして、貧弱ラビット、俺。

 人員が揃った結果、厨房にも店内にも居場所がなくなり、現場指揮官となった。

 いや、でもね、聞いて?

 俺、昨日は色々と頑張ったのよ? メレンゲ作ったりさ。

 あと、アーモンド砕いたりもした。うん。


 誰かー。聞いてー。



「それではみなさん、よろしくお願いしますね!」

 ママ瓦さんの号令に、全員が頷く。


「いらっしゃいませ! ゆっくりとお進み下さい! 押さないで下さい!」

 氷野さんの声はよく響くので、お客さんも指示に従う。

 さすがは風紀委員長。

 すらりと伸びた脚も魅力的に見えるよ、氷野さん。

 あっ。睨まれた。


「はい、お会計910円ですっ! ありがとーっ! また来てねっ!」

 小さい子の会計は、しゃがんで対応する辺り、さすがは毬萌。

 スカートが短くてアレなので、その際は俺が壁になる。


「お、鬼瓦さん、や、焼きあがり、ました!」

「勅使河原さん、ありがとう。私の事は、お義母さんと呼んでいいのよ?」

 あっちはあっちで、何やら義理の母娘がガッチリホールド。


「ゔぁらららららららい! ゔぁあぁぁぁぁあぁっ!!」

 そして当の鬼瓦くんは独りで仕事に集中。

 鬼神没頭。



 3日目も同様の体制でしのぎ切り、4日目にはついにパパ瓦さんが復帰。

 こうして俺たちは、4日間のアルバイトを走り切った。



「みなさん、これ、お給料です!」

 中身を見ると、盛り過ぎな額が入っていた。


「いや、鬼瓦さん、こいつはちょっと頂きすぎっすよ!」

「そうです! それに私と勅使河原真奈は、元々バイトじゃないですし!」

 ママ瓦さんに向けた言葉を、パパ瓦さんがキャッチ。そして返球。剛速球。


「ぶるぅああぁっ! 良いってことよぉ! 今回は皆に救われちまったぁからねぇ! 色付けた分、まぁたピンチの時は助けてくれるぅと、嬉しいよぉう!」

 パパ瓦さんに楯突いたところで、何もできないだろうと思い、俺も頷く。


「また手が足りない時は、いつでも声かけて下さい!」



 大変な4日間だったが、充分すぎる程の軍資金をゲット。

 俺の夏休みはこれからだ!

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