第148話 ソフトボール部と助っ人
夏休みも目前に迫ったある日。
授業は午前中で終わるため、俺たち生徒会は溜まった雑事をお片付け。
後顧の憂いなくサマーバケーションへ突入するのだ。
そんな生徒会室に、今日も来訪者が。
「失礼します!」
「はーい! どうぞーって、わわっ、団体さんですねー」
応対した花梨が驚くのも無理はない。
いちにのさん、し……。
そこには、総勢7名の女子が並んでいた。
「えーっと、どういったご用向きで?」
普段から、多くの生徒がやってくる俺たちの居城。
それにしても、一度に7人は多い。
ソファーに座り切れないじゃないか。
「とりあえず、あたしお茶淹れますねー」
「おう。すまんな。狭いけど、とりあえず皆さん中の方へ」
「いえ! お構いなく!」
先頭の女子が、大きな声でもてなしを辞する。
そして彼女はさらに続けた。
「生徒会のみなさん、どうかウチらの部を助けて下さい!!」
「お願いします!!」
先頭の女子に続いて、後ろの6人も頭を下げる。
俺はその様子を見て「何やら見覚えがあるなぁ」と思い、口に出してみる。
「もしかして、君たちソフトボール部の?」
「はい! 副会長、その節はすみませんでした!」
かつて俺は、ソフトボール部の打球を背中に喰らったことがある。
誰も覚えていないだろう。
だって、俺も今まで忘れていたんだから。
しかし、ソフトボール部が助けてくれとは、
事情を纏めると、こうなる。
これから彼女たちは練習試合。
しかし、部員が9人しかいないのに、2人ほど出られなくなってしまった。
ならば中止すれば良いのにと思うも、そうはいかないらしい。
この試合は、言わば親善試合であり、相手校はうちの部員がごっそり減った今年度も律儀に来てくれた。
そんな慈悲に満ちた相手校が、すでに花祭学園のグラウンドで準備をしているのに、それをドタキャンとは余りにも忍びない。
なるほど。
「お願いです! 神野会長! 冴木さん! 試合に出て下さい!」
方々を駆けまわった末に辿り着いたのが生徒会だったらしい。
「わたしはいいよーっ! 力になれるか分かんないけどっ!」
「あたしもです! 体育でやった事しかないんですけど、平気ですか?」
ここで割と無茶な申し出を快諾するのだから、俺はこいつらが好きだ。
「よっしゃ! 生徒会総出で、ソフトボール部の助っ人といくか!」
やるからには勝とうぜ、みんな!
先攻は花祭。幸先よく、一番、二番と、連続四球で出塁する。
が、三番バッターがサードゴロでダブルプレー。
チャンスが潰れる。
ランナー一塁になったところで、四番の片岡さんがヒットを打つと言う、噛み合わない展開。
結局無得点で初回の攻撃が終わる。
「どんまい、どんまい! 切り替えていけー!」
ベンチで応援するのは俺。
鬼瓦くんは、家庭科室ではちみつレモンを製作中。
ちなみに、助っ人の二人は、六番サード毬萌。九番レフト花梨。
キャプテンでエースで四番の片岡さん。
力投で、二者三振ののち、サードゴロで三者凡退。
毬萌、そつなく守備をこなす。さすがチート。
回は進んでいく。
花祭は毎回ランナーを出すも、得点できず。
対して、国府は小技を駆使して、一点ずつ加点。
四回終了時点で、0対3のスコアになっていた。
俺は気になった事があり、片岡さんに聞いてみた。
「なあ。なんで俺らはバントとかエンドランとかしないの?」
片岡さんは答える。
「ウチ、高校から始めたんで、そういう指示とか分かんなくて」
「えっ? じゃあ、誰が指示を?」
「出してません」
うん?
「特に指示はないです!」
「そりゃ点入らねぇよ!」
おかしいと思っていたんだ。
無死満塁で思いっきりインフィールドフライ。
一死三塁でやっぱり内野フライ。
点を取ろうと言う意思がないのではなく、点をどう取ったら良いのかが分からない。
そんな風に見えていたのだが、間違いじゃなかったか。
「なあ、ここはひとつ、俺に指示出させてくれねぇか?」
「えっ」
部員がブルーハワイ食べた後の舌みたいな顔色に一瞬で変化。
そうでしょうよ。
俺の運動神経なんて、もはや全校に知れ渡っているからな。
そこでやってくる助け船。
「ちょっとだけコウちゃんにやらせてみてよっ! コウちゃんすごいんだよっ!」
「おお、毬萌! 言ってやってくれ!」
「やる方は壊滅的だけど、見る方はね、コウちゃん的確なのっ!」
壊滅的とか言わなくても良いよね。
見ると、三番バッターが三塁打を打っており、無死三塁。
打者はここまで2打数2安打の片岡さん。
長打を警戒して、内野の守りが非常に深い。
「よし、じゃあ、ここで一点取ろう。で、取れたら俺も力にならせてくれ」
「ええ……。まあ、良いですけど。言っときますけど、ウチら、試合で点取った事ないっすよ?」
これだけ打てるのに、マジかよ。
むしろ逆にすごいな、それは。
「ちなみに、片岡さんはバント得意?」
「はい。練習はしてます」
「じゃ、一球目、真ん中に来たら転がそう。……毬萌!」
「はーいっ! あれーっ、長沼さん、靴紐ほどけてるよーっ」
そしてタイムがかかり、毬萌はサードランナー長沼さんの元へ。
伝令完了。
「プレイ!」
審判のコールとともに、注文通りのストレートが投げ込まれる。
それを片岡さん、カコンと華麗に転がす。ナイスバント。
長沼さんには事前にスクイズの情報を伝えていたため、無警戒な内野陣がもたついている間に楽々生還。
バッターランナーまで残るラッキー付きである。
「嘘っ! 副会長の言った通り!?」
「えっ、待って、わたしら初得点じゃない?」
「スクイズとか、考えたこともなかったし!」
「自分、副会長がさっきボール投げようとして肩痛めてるの見たっす!」
俺を見直す、ソフトボール部。最後の君、ちょっと話がある。
「副会長! 指示、もらえますか!?」
おいおい、参ったな!
俺にスポットライトが! 眩しくっていけねぇや!
……ふふふ、勝っても良いのだね?
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