第143話 公平とテニス

 花祭高校では、期末試験の一週間前に球技大会が行われる。

 普通に考えると順序が逆なのではと思うのだが、学園長の「先に騒いで、間にテスト挟んで、その後は夏休み。なんかステキやん?」と言う理屈によるものらしい。

 学園にて生活を送っているがゆえ、その長たる者の裁量には逆らえない。



「試合終了! 二年四組の勝ち!」

 球技大会は四種目の総合得点によって争われる。

 この日ばかりは学年も関係なし。

 上級生を喰らう下級生の下克上だって全く問題なし。


「おう! 惜しかったな!」

 種目は、テニス、バレー、バスケット、ソフトボール。

 各クラス、誰をどこに振り分けるかが勝敗のカギである。

 また、『その種目に関連する部の人間は別の種目を選択する』と言うルールがあり、その縛りのおかげで戦略性はグッと増す。


「ヒュー! 公平ちゃん、冗談キツイぜ! ヒュー!」

「桐島、まさか一度もサーブが入らないとはな。恐れ入ったよ」

 二年二組に所属する俺が出場しているのは、テニスである。

 3人でチームを組んで、2戦先勝方式。

 1勝1敗の場合のみ、3人目の試合が行われる。


 結果? えっ、聞きたいの?


「いや、なんつーか、すまん」

「ヒュー! 気にすんなって! 公平ちゃんに回しちまったオレが甘かったんだぜ! ママのチェリーパイみたいにな! ヒュー!」

「そうだぞ、気にするな。桐島は最初から戦略に入れてなかったから!」


 お察しの通りだよ!

 捨ての大将である俺に、1勝1敗で出番が回って来たよ!

 活躍!? ボールに2回も触れたけど!?

 もうあっち行けよ、ヘイ、ゴッド! チェリーパイ食ってて!!


 そもそもさ、未経験者にテニスさせるのが間違いなんだよ。

 確かに、体育で1年の頃にやったよ?

 けどね、だからって試合になる程の腕前になるのは難しいでしょ?


「高橋、惜しかったな。タイブレークまで持ち込んだのに」

 ちなみに俺たちは3回戦敗退。


「ヒュー! 茂木ちゃんこそ、3戦全勝はさすがだぜぇー! ヒュー!」

 戦績は、茂木が3戦全勝。高橋が2勝1敗。

 俺? 1戦全敗だけど!?

 ついでに言うと、1ポイントも取れなかったけど!?


「桐島、オレたちはソフトボール見に行くけど」

「ああ。俺ぁ体育館に行ってみるよ」

 みんなに合わす顔がないからね。


「ヒュー! 今の公平ちゃんなら、千と千尋の神隠しの実写版に出られそうだぜぇー! ってな! ヒュー!」

「うるせぇ! 球技なんか大嫌いだ! バーカ、バーカ!!」



 逃げるようにやって来た体育館では。

「ゔぁぁぁぁああぁっ!!」

 鬼瓦くんがバスケに出場していて、雄叫びをあげながら大活躍していた。

 リバウンドからのダンクシュート。

 スラムダンクかな?


 まあ、彼は放っておいても活躍するだろう。

 俺のお目当ては、女子バスケである。

 うちのクラスがまだ勝ち残っているらしいので、観戦に来たのだ。

 まあ、毬萌が出ているから、良い所までは行くだろうと思っていたが。


「さあ! 来たまえ、神野くん! この私のディフェンスを抜けるかな!?」

「行きますですことよ。ああ、ダメですわ、力が入りませんの」


 なんでよりによって天海先輩のクラスとあたってんの……。


 しかも、試合は終盤の模様。

 つまり、毬萌の天才スイッチは既に点滅状態か。


「神野さん、お願い!」

「お任せですの! 行きますことですのよ」

 間髪入れずに笛が鳴る。


「白、2番! トラベリング!」

 うん。見てて分かったよ。

 パス貰って、それを小脇に抱えてダッシュしてたからね。

 それバスケじゃない。ラグビーかアメフトだよ。


「なははっ! 神野くんはユーモアに溢れていて、今日も愛おしいな!」

「いやですわ、もう、天海先輩」

 本当に嫌なんだな。

 瞳に光がないもの。

 ひぐらしのなく頃にのキャラがアレな時の瞳に似てるもの。


 俺は小走りで自軍のチームのベンチへ急ぐ。

「おう。頑張ってるな」

「あれ、桐島くん? テニスどうなったの?」

 そこは聞かないでくれないか。


「それより、毬萌のヤツ、多分どっか痛めてるぞ。誰か代わってやってくれ」

「えっ!? やっぱりそうなんだ! なんだか変だなって思ってたの!」

 そしてタイムアウト。

 選手交代である。


「神野さん、お疲れー!」

「毬萌ちゃん、無理しなくても良かったのに!」

「ナイスファイト!」

 よろよろと戻ってきた毬萌を受け止めるの俺。


「ちょっとこいつ、保健室に連れてって来るわ」

 近場にいる女子たちに告げる。


「あ、ホント? 助かるー。やっぱ、桐島くんって頼りになるよね!」

「そうだよ! 桐島くん、運動してなかったらすっごく心強いもん!」

「ねー! 私この前、腕相撲で勝っちゃったけど、適材適所だよね!」


 ヤメて! 文字数ピッタリでフォローしないで!

 君ら、微妙にオブラートが破けてんだよ!

 包むならちゃんと包めよ!!



 体育館の外で、毬萌にネクターピーチを買ってやる。

「ほれ、これ飲んで元気出せー」


 糖分を摂取すると、漸く瞳に光が戻ってきた。


「うぇーん! コウちゃーん!! なんで天海先輩がいるのぉー!?」

「もーヤダぁーっ!! わたしおうち帰るぅーっ!!」


「いや、待て待て。この後の閉会式どうすんだ!?」

 もちろん球技大会を取り仕切るのも生徒会の役目である。


「知らないもーん!! コウちゃんがテキトーにテヘペロとか言っといてぇーっ!!」


 んなことしたら、暴動が起きるわ!!



 これは困った事になったぞと悩んでいると、そこに現れたのは!?


 いやらしい引きをするな?

 固いこと言うなよ、たまには良いじゃねぇか、ヘイ、ゴッド。

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