第99話 昼食とスマイル

「あっ、来たーっ! おーいっ、コウちゃーん、みんなーっ!!」



 毬萌のヤツが元気に手を振ってくれるおかげで、すぐに集合できる。

 もしかして、わざとやっているのだろうか。

「みゃあっ」

 そして滑って尻もちをつく俺の幼馴染。

 うん。はしゃいでるだけだな。


「おいおい、大丈夫か? あーあー、尻にゴミつけちまって。じっとしてろー」

 パンパンと砂をはたいてやる。

 すぐにやらかした事に気付く。

 ブーイングが半端ないんだもの。


「な、何してんのよ! 桐島公平!! 毬萌の、お、お、お尻に気安く触ってぇぇ!!」

「ち、違う! 俺ぁ、いつものように、ちょいと世話を焼いただけで!」

「へぇー。先輩って、いつも毬萌先輩のお尻触ってるんですかぁー」

「か、花梨まで!? 違うんだ! そうだけど! 別に、尻がどうこうじゃなくてだな!」

「……コウちゃん、もしかして、今まで喜んでたの?」

「んなわけあるか! お前の尻なんぞに価値なんかねぇよ!!」


 人とはどうして学習をしないのだろうか。


「あんた、毬萌のお尻は国宝級よ! 取り消しなさいよ!!」

「公平せんぱーい? なんだか顔が赤いですけどー? ……エッチ」

「こ、コウちゃんが嬉しいなら、わたしは別に、別にだよっ!?」

 鬼瓦くん、助けてー。鬼瓦くんー。


「ほら、見てごらん、真奈さん。カエルがいるよ」

「ほんと、だ! ふふ、可愛い、ね」

「はは。こんなに飛び跳ねて。真奈さんに会えて喜んでいるのかな」

「や、やだ……! 武三さん、恥ずかしい、です……」


 ——鬼瓦くん!!


 信頼していた後輩からの裏切りを受けた俺を救うのは、ナイスミドル。

「おや、またお会いしましたね。魚の調理希望はあなた方でしたか」

 昨日お世話になった、レンタルブースのおじさんである。


「あ、こいつはどうも! すみません! 今日もご迷惑をかけちまいますが」

「いえいえ、これが私どもの仕事ですから。どれ、魚を受け取りましょう」

「お願いします!」

「おお、これは大漁ですね。調理方法はどうしましょうか?」

「お、お任せします! 美味しいヤツでお願いします!!」

「ははは、かしこまりました。それでは、そちらのテラス席へどうぞ」


「逃げたわね」

「はい。逃げましたね」

「……コウちゃん」

 視線のレーザービームは今すぐご遠慮願いたい。


「お魚、どうするのですかー?」

 心菜ちゃんが調理中のおじさんにコンタクト。

 これはいけない。俺はかしましい女子たちから緊急離脱。

「心菜ちゃん、邪魔しちゃダメだよ」

「いえ、良いんですよ。お嬢さん、興味があるならご覧になって下さい」

「わーい! 見るですー!!」

 うん。可愛い。


「どれ、踏み台を用意しましょうか?」

「大丈夫なのです! 公平兄さま、抱っこして下さいです!」

「えっ」

「……ダメなのですー?」


 ダメじゃないね。


 俺は何の迷いもなく、心菜ちゃんの脇をしっかりと掴んで、高い高い。

「はわわー! お魚、グネグネになってるですー!!」

「ははは。こうして自然に曲がる魚は新鮮な証拠ですよ」

「うぐぐぐ……。心菜ちゃん、そ、そろそろ良いかな?」

「はいです! 公平兄さま、ありがとうなのです!!」

 やれやれ、どうにか彼女が満足するまで待ちあげる事ができた。


「きーりーしーまーこーうーへーいー!!」

「……Oh」


 女型の巨人の急襲を受けて、俺の尻が三発ほど蹴られる。

 そこで俺は、己の過ちに気付く。

 うん。そうだね。なんか柔らかかったものね。

 蹴られても仕方ないかな。

「ははは。楽しいご友人に恵まれていらっしゃる」

「あふぅ……ええ、本当に。あひぃ……」



「どうぞ。ニジマスの塩焼きと、こちらはムニエルでございます」

 おじさんの見事な手際によって、焼き立てアツアツのニジマスがご降臨。

 そして別に注文しておいた、おにぎりと漬物も到着。

「冷めないうちにご賞味ください。それでは」

 そして言葉少なに去って行くおじさん。

 俺も将来はあんな年の取り方をしたい。


「あーむっ! おいひーっ! ほれ、誰が釣ったの?」

「食べながら喋るんじゃないよ。ほれ、こぼれてるぞ」

「あ、それ、多分、わ、私が釣り、ました!」

「へぇ! 勅使河原真奈、やるわね! 初めてなんでしょう?」


「あれ? 公平先輩、あたしの釣った大物はどこですかー?」

「おう。それならムニエルになったぞ。食ってみろよ」

「えへへー。では、いただきます! んんー! 美味しいですよ!!」

「心菜も食べたいのです! 花梨姉さま!」

「もちろん、どうぞどうぞ! お皿に取り分けますねー」


「た、武三さん、塩焼き、に、似合います、ね! ワイルドで、ステキ、です」

「そうかな? それなら、ほら、桐島先輩だって」

「ぐああっ! 骨が頬っぺたに刺さりやがったぁぁっ!!」

「あんた、口の中まで貧相なのね。可哀想なエノキダケ」

「コウちゃん、お水、お水! あ、違う! ご飯丸呑みするんだっ!」

「いや、頬っぺただから、喉じゃない、ちょ、ま、口におにぎり突っ込」


 楽しい時間はあっという間に過ぎてゆく。

 食事を終えた俺たちは、食器を片手におじさんの元へ。

「ああ、片付けも私どもが致しますのに。これはどうも」


「みんな、行くよーっ。ごちそうさまでしたっ!」

 毬萌隊長の合図に、全員でおじぎをする。

 美味しい食事の提供に対して、俺たちは正しい礼儀作法をこれしか知らない。


「これはこれは。いやはや、なんてステキなお客様たちだ。痛み入ります」



 おじさんの言う通りであった。

 俺たちは、他のどの団体客よりも、最高のグループである。

 この点に関しては、一切の文句は受け付けない。

 何故かって?



 全員の笑顔を見てからものを言えよ、ヘイ、ゴッド。

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