第98話 釣り堀シンフォニー
「見て下さい、先輩! 釣れましたよー! えへへ、どうですか!!」
笑顔の花梨をパシャリ。
やれやれ、やっと俺の仕事がこなせる。
「あ、真奈さん、引いてるね。竿を上げてごらん?」
「は、はいぃ! え、えい、ええいっ! ひゃっ」
「おっと、大丈夫? はは、大物が釣れたね」
「た、武三さんの、教え方が、上手かったから、です!」
お熱い二人もパシャリ。
結局、今回の合宿で鬼瓦くんに勅使河原さんを異性として認めさせる事は叶わなかったが、二人の距離は確実に縮まったと思われた。
彼女の笑顔を見るに、今はそれで充分だろう。
「せ、先輩ー! 魚が取れませんー! 助けて下さーい!!」
やれやれ、忙しいな。
「よし来た。ちょっと待ってろ」
俺は
カメラにも細心の注意を怠らない。
非常にやる事は多いが、これこそが普段の俺の立ち位置である。
敏腕副会長を舐めないでもらおう。
「さっき針の外し方は教えたじゃねぇか。やっぱ無理そうか?」
「だって、魚がすごく動いて怖いんですもん!」
「あー。まあ、初めて釣りする女子はそんなもんかもな」
「……その言い方だと、例外がいるみたいに聞こえますけどー?」
「おう。毬萌のヤツぁ、初めて釣りしたのが小学生の頃だったんだが、もっと効率よく釣りたいーっ……とか言ってな。貸し出し用の釣竿を改造しやがった」
サビキ釣りなんて知識はないはずだったのに、見事な仕掛けを数十分で作り上げて、ニコニコ笑顔で釣り散らかしていたことを思い出す。
俺? 隣でほんど釣れずに涙目だったけど?
それがキッカケで釣りを始めたんだよ。
妙な思い出をほじくり返すなよ、ヘイ、ゴッド。
「ほい、取れた」
「先輩、あたし、お魚持ってみます!」
「おう? どうした? 無理しなくて良いんだって。怖いだろ?」
「こ、怖いですけど。思い出作りたいんです!」
「お魚持ったところを、写真撮って下さい!!」
花梨のその意気や良し。
やる気に溢れる可愛い後輩を止める無粋な先輩などいない。
「せ、先輩、この大きい子、なんて言うんですか?」
「そいつはニジマスだな。美味いぞー。あとで、昼飯のオカズに一品加えよう。川魚は釣った時点で弱っちまってるんだ。食ってやらねぇと可哀想だからな」
「分かりました! じゃあ、この子、持ちます!」
花梨は三匹のニジマスのうち、一番大きなヤツを選ぶ。
サイズはだいたい50センチ強はあるだろうか。
「平気か? 結構暴れるぞ?」
「やっ、やってみせます! 先輩が見ててくれるなら、出来る気がするんです!!」
「じゃあ、両手でしっかり掴んで、慌てないようにな?」
「は、はい!」
「えいっ! わわっ、お、落ち着いて、しっかり掴んで! せ、せんぱーい!!」
シャッターチャンスは逃さない。
一瞬を切り取る仕事人。それは俺。
「オッケー! バッチリ撮れたぞ!!」
「やりました! わっ、ぷっ!! あはは、魚臭いですー!」
実はお嬢様の花梨であるからして、生きている魚に触る事は当然初めてだろうし、触ろうと思った事さえないだろう。
このチャレンジ精神は大いに見習いたいところ。
「この写真、花梨パパに見られたら怒られそうだな」と脳裏を嫌な予感がかすめたが、俺も男だ。
もしクレームが来たときは、覚悟を決めて頭を下げよう。
花梨はもう満足したらしく、荷物とバケツを持って引き上げる。
俺は鬼瓦くんと勅使河原さんの写真をもう何枚か撮りたいと彼女に伝えたところ、ついてくるらしい。
「た、武三さん、す、すっごく、竿が、お、重たい、です!」
「よし、じゃあ、一緒に引き上げよう。さあ、しっかり持って」
そこは二人の共同作業の現場であった。
ニジマスが弾く水しぶきさえ、二人の良い雰囲気の演出に想われる。
とりあえず、パシャリ。
「……あの、先輩。男子と女子って、どうなったらカップルなんですか?」
「そんな難しい事を俺に聞いてくれるなよ」
「あの二人、もう付き合ってますよね?」
「まあ、
昨日の焚火のあと、彼に聞いたらそう言ってたもの。
「……鈍感な男子って、それだけで重罪だと思うんですけど、あたし」
「……なんで俺に言うんだね、花梨さん」
「もぉー! 知りません!」
年頃の女の子ってのは、本当に難しい生物だよ。
それに比べたら釣りなんて、どれ程簡単な事か。
「鬼瓦くん、ちょっと来てください!」
二人も引き上げる準備をしている所に、花梨の呼び出しである。
「ゔぁい!!」
鬼神
「あたし、先輩とツーショットの写真が欲しいです! カメラマンして下さい!」
「ゔぁい! かしこまりました!!」
鬼瓦くん、そんな執事みたいになっちまって……。
鬼神かしこまり。
「せーんぱい! 腕組みましょう!」
「いや、俺、結構臭いぞ? 汗もかいたし、魚も触りまくってるし」
「良いんです! あたしだってお魚臭いですし! はい、くっつきましょう!」
「お、おう」
「ゔぁぁああぁっ!!」
鬼瓦くんの鳴き声でパシャリ。
更にその後、4人で記念写真を撮ったところで、12時の鐘が鳴る。
このあと、レストラン前に集合して、最後に全員そろって昼食を取る予定になっている。
俺は毬萌に電話をかけた。
「おう。こっちは良い
さて、名残惜しいがそろそろお時間である。
7人揃っての最終イベント。
最後は盛大に騒いで、もう一つ思い出の花を咲かせるとしよう。
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