第97話 花梨とハイパーお姫様抱っこ
「普通考えられます!? 釣り堀で女子のスカート釣るとか!?」
ご立腹の花梨さん。
しかも、今回の理由は至極真っ当。
むしろ、これをやられてキレない女子がいるだろうか。
多分、三蔵法師でもキレると思う。念力で孫悟空の頭を
そもそも、女子の服の構造に詳しくない俺なのだが、ちょいと釣り針が引っ掛かったくらいでスカートは脱げるものなのだろうか。
「先輩、あたしが嘘ついてるって言うんですか!?」
違うよ、滅相もないよ。瞳から光を消すのをヤメておくれ。
子供が見たら泣いちゃうよ。アレだったら、俺も泣いちゃう。
「見て下さい! ここです!!」
「え、いや、見ろって花梨……。いくらなんでも女子のスカートを凝視し」
「昨日、毬萌先輩のは見てましたよね?」
「見せてごらん! 穴が開くほど見ちゃうよ、俺!!」
花梨が指さした場所には、ジッパーが。
どうも、このジッパーは飾りではなく、着脱するためのパーツになっているようであり、少し大きめの摘まみを引っ張ると、なるほどスカートは脱げるだろう。
ちょっと待ってくれ。
「まさか、この穴に釣り針を通したってのか!?」
「……そうです!」
「そんで、器用にジッパー下げて、スカートをかっさらって行ったと!?」
「……そうですよぉ!!」
「ははあ、鬼瓦くん、器用だとは思っていたが、やるなぁ」
「せんぱーい? 今のあたし、何するか分かりませんよ……?」
「……Oh」
失言であった。
それは認めるから、撒き餌が詰まったスプーンを振りかぶらないでくれ。
それ、俺にぶっかけるつもりなのかな?
「あれ? 花梨。太もも、ちょっと引っ掛けちまってるな」
「……別に、そのくらい何でもないです」
「いやいや、そいつぁいけねぇ。ちょっと血が滲んでんじゃねぇか。ふむ、これだと、歩いた時にスカートが汚れちまうかもな。……よし」
神よ仏よ、鬼神様よ。
俺にちょいと力を分けてくれ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
「えっ、せ、せんぱっ、ひゃあっ!?」
渾身の
そんな芸当はお前にゃ無理だからヤメとけって?
はっ、こいつは昨日予習済みだぜ? ヘイ、ゴッド!
ヨタヨタしながらも、水道のある日陰へと花梨を運搬。
「んぁぁぁっ! はあ、はひぃ、す、すまんな、息を荒げちまって……」
「す、すごかったです……! 先輩、そんなに力ありましたっけ!?」
「いや、ねぇよ? おふぅ……もう一回やれっつっても無理だわ、あふん」
「じゃあ、どうして?」
「だって、せっかくの自由時間に花梨だけ酷ぇ目に遭うのは割が合わんだろう? 俺みたいなモヤシの抱っこでちょっとでも気分が良くなりゃと思ったんだが」
昨日は数十秒でもはしゃいでたからな。
俺至上初の、お姫様抱っこによる運搬作業。
これなら、30ポイント加点くらいはイケたんじゃないか?
「……先輩のバカ」
イケてなかったのかい?
「そうやって、もので釣るなんて最低です……!」
「スカートも釣られたしってか! ははっ! ……あ、ごめんなさい」
今の合いの手はなかったね。
さすがに俺でも分かる。俺反省。いやさ、猛省。
「……あたしの事、子ども扱いしてるでしょう?」
「いや、してねぇよ」
「……じゃあ、チョロい女子だと思ってます?」
「思ってねぇって」
「……はあ。でも、実際、この程度で嬉しくなっちゃうんだから、あたしって、まだまだ子供で、チョロいのかもしれないです!」
「おう?」
「ちょっとだけ、気分が晴れました! 先輩って晴男ですね!!」
向こう岸では、両膝ついて今にも腹を切ろうとしている鬼瓦くんと、悲壮な顔で
鬼神はらきり。
オレは彼らに向かって、両手で「こっちにおいで」とジェスチャー。
地雷原を歩く二人は、ゆっくりと近づいて来た。
「ほれ、鬼瓦くんが言いてぇ事あるってさ」
「さ、冴木さん! 僕は、僕は、もうじわげございばぜん!! 悪気はながっだんでず!! ぼんどうに、ごべんなざいぃぃっ!!」
鬼瓦くんが膝をついて謝罪。
「あ、あの、花梨、ちゃん。武三さん、許してあげ、て、欲しい、な……」
勅使河原さんは、不祥事を起こした夫の妻のように彼に寄り添う。
「……今回、だけですよ?」
3人で顔を見合わせた。
「……次にこんなことしたら、許しませんから!」
花梨の振り上げた拳。
それがどうやら、和解の握手へと形を変えたようであった。
「ゔぁぁあああっ!! ありがどう、ありがどう、冴木さん!!」
「……もう良いですよ。その代わり、合宿では先輩とあたしが良い雰囲気になれるよう、しっかりと尽くして下さいね?」
「も、もちろんだよぉぉぉぉぉっ!!」
「い、いや、そこは頷かなくていいんだ、鬼瓦くん! 落ち着け!!」
「花梨、ちゃん! これ、ハンカチ、濡らしたから、その、傷……!」
「ありがとうございます、真奈ちゃん! 大丈夫ですよ、真奈ちゃんの大切な人をこれ以上いじめたりしませんから!」
「か、花梨、ちゃん! こ、声が大きい、よ!」
「大丈夫だ、勅使河原さん。鬼瓦くん、聞いちゃいねぇから」
「ゔぁぁあぁぁぁぁあぁっ!!」
俺は手早く花梨の太ももの小さなひっかき傷を拭いてやり、まだまだストックのあるキズパワーパッドを取り出してペタリ。
本当に大した傷ではないから、風呂に入る頃には治っているだろう。
「よし、3人とも! ちょいとわき道に逸れたが、そろそろやるか!」
ハテナ顔の後輩たちに、俺は言う。
「魚釣らねぇで釣り堀を後にするなんて無粋な事は、俺がさせねぇ!」
それに、写真も撮らないといけねぇしな。
さあ、仕切り直しだ。
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