第92話 食後の一杯と今日の予定
食後の一杯は茶に限る。
空調の利いたレストランで飲む高そうなお茶なら更に良し。
「コーヒー飲む人、教えて下さい! あたし取ってきます!」
「私、お願いしても良いかしら。悪いわね、冴木花梨」
「いえいえー! 鬼瓦くんもコーヒー飲みますか?」
「ありがとう、冴木さん。お言葉に甘えようかな」
「じゃあ、行ってきます!」
こういう時にすぐ動けるところが、花梨の数ある長所の一つである。
実際にその場にならないと分からないが、大人数になると、案外気を利かせるのにも気を遣う。
いらぬ世話を焼いてやしないか、変に目立っちゃいないか。
そんな事を考えてしまうものなのだ。
「心菜ちゃん、わたしと一緒にココア取りに行こっか?」
「行くですー!!」
なんで今、俺が社会行動学に基づいた見解を述べているところに、普通にその定説を蹴り破って侵入してくるのか、天才よ。
そりゃあ、お前に常識が通用しないのは分かり切っているが。
なんか、俺がすごく恥ずかしい感じになっているじゃないか。
なに? いつもそんなもん?
うっせぇ、お前のツッコミだっていつもそんなもんだ、ヘイ、ゴッド。
ちなみに、俺と勅使河原さんは日本茶派。
仲間が居て、ちょっと嬉しい。
「みんなっ! 今日の午前中の計画について話し合おう!」
毬萌が先頭に立つのは、もはやこの合宿では見慣れた絵面である。
「三人は昼で帰っちまうんだったな」
「はうぅぅ、帰りたくないのですー。姉さまぁー」
「ちょっと、桐島公平! なんで今そんなこと言うのよ!!」
「えっ!? いや、俺ぁ、だからこそ悔いのないように過ごそうねって」
「うっさいわね! 心菜が悲しんでるでしょう!? このエノキダケ!!」
そして、俺が進行役を張れないのも、もはや見慣れた風景。
おかいしなぁ、四人の時だと上手くいくのになぁと思いながら、新しく増えた
よろしくね、エノキダケ。
「はいはーいっ! コウちゃんは置いといて、計画だよ! 時間は有限なのだっ」
「あの、俺もそう言いたかったんだけど」
「それと、わたしは昨日の夜、すごく良い事を思いついてしまったのですっ!」
なんで毬萌俺の言う事聞いてくれないん?
「せっかくの合宿だよっ! だから、みんなの写真を撮ろうと思うのっ!」
俺を無視したのは捨て置けないが、毬萌のアイデアは聞く価値があった。
「そう言えば、昨日は誰も写真撮ろうとしなかったですね」
「そ、その、み、みんな、楽しむのに夢中だった、から、かも、です」
「そうだね。昨日はとても楽しかったものね、真奈さん」
「はい、そこ! 鬼瓦くん、イチャイチャいないでください!!」
「ゔぁあぁぁっ」
鬼瓦くん、失言である。
鬼神うっかり。
「お昼までの時間は、自由時間にしようと思うんだっ! 結構遊べるところがあるから、個人の好みでグループ作って行動しよーっ!」
そう言えば、合宿のしおりにもそう書いてあったっけか。
「あー、釣り堀とパターゴルフとアスレチック。まあ、昼までなら、この辺か?」
「そうだねーっ。わたしは、ゴルフやってみたいなぁーっ!」
「ダメよ、毬萌!!」
異議を唱える氷野さん。
「ゴルフって、しゃがんで芝目を読むでしょう? 絶対に桐島公平がいやらしい目で見て来るわよ!!」
謂われなき迫害である。
「ええー? ゴルフ、ダメかなぁ?」
「ダメよ、ダメダメ!!」
昔そんなネタを披露するお笑い芸人もいたなぁと思い出す。
「じゃあ、釣り堀とアスレチックに分かれますか?」
「うん。それが良いわ。ナイス判断ね、冴木花梨!」
「そっかー。まあ、みんなが良いなら、わたしも賛成だよっ!」
俺へのとばっちりでパターゴルフが失踪してしまった。
「真奈ちゃん、一緒に釣りしませんか? 糸を垂らして、好きな人の愚痴でも言い合いましょうよ!」
「あ、うん、もちろん良い、よ! でも、私、やったことない、けど?」
「大丈夫です! あたしもやった事ありませんから!」
「おいおい、そりゃあいけねぇな」
「姉さま、心菜、アスレチックで遊びたいです! あーああーってヤツ、やりたいのです! ダメです?」
「だ、だだ、ダメなわけないじゃない! 行きましょうか! 毬萌もどうかしら?」
「いいよーっ! 心菜ちゃん、一緒にターザンになろうねっ!」
残されたのは、男二人。
俺と鬼瓦くんである。
本当ならば、一緒に行動したいものの、女子だけを単独行動させるわけにもいかない。
うちのグループはキュートからビューティ、粒ぞろいであるからして、悪い虫が寄って来ないとも限らない。
キャンプ場の客層からしてその可能性は低いかと思われるものの、確率はゼロじゃないのだから、油断大敵。
「じゃあ、鬼瓦くんは釣り堀の方を頼む」
鬼瓦くんは、俺の意図を汲んでくれたらしく、力強く頷く。
「任せて下さい!」
鬼神がっしり。
「そんじゃあ、俺ぁアスレチックを」
「あ、コウちゃんはいいよ」
「ん?」
「こっちは、マルちゃんがいるから平気だよー。マルちゃん強いもんっ!」
「そ、そうか? なら、俺も釣り堀に」
「あーっ、違う違う! コウちゃんは釣り堀でもないのーっ!」
「ほえ?」
「さっき言ったでしょ! 思い出の写真を撮ろうって!」
「おう。聞いたぞ」
「コウちゃん、カメラマンねっ!」
「えっ?」
「だから、コウちゃんはカメラマンとして、行ったり来たりして!」
また無茶苦茶言い出しやがって、毬萌め。
しかし、そんな仲間外れみたいなことがまかり通るか。
「先輩、頑張って下さいね! あ、可愛く撮って下さいよー?」
「適役ね、桐島公平!」
「兄さま、写真撮るの上手そうなのです!」
「す、すみま、せん。お世話に、なり、ます!」
「ゔぁああぁっ!!」
まかり通るんですって。
俺、カメラマンに就任。良いんだけどね? 寂しくなんかないし?
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