第91話 寝起きと朝食
「あ、お、お帰りな、さい。おはようござい、ます」
コテージに戻ると、勅使河原さんが出迎えてくれた。
「おはよう。って言うか、悪い、もしかして起こしちまったか?」
「い、いえ、普段から、このくらいの時間に、起きる、ので」
時計を見ると、午前6時前である。
「ははあ、そりゃすごいなぁ。俺ぁ、いつもならもう1時間は寝てるよ」
「お、お弁当を、作る、ので……。わ、私、要領悪く、て」
「へぇー。勅使河原さんは自分で弁当作ってんのかぁ。偉いなぁ。……そうだ、今度鬼瓦くんに作ってやりゃあ良い。愛妻弁当!」
「も、もう、か、からかわないでくだ、さいぃ!」
ヤダ、可愛い。
こんな子に想われるなんて、鬼瓦くんも果報者だなぁ。
「ゔぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
窓を開けていないのに、果報者の断絶魔が聞こえた気がした。
こいつはいけない。俺もまだ寝ぼけているのかな。
「ゔぇああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁっ!!」
聞き間違いではなかったようだ。
鬼瓦くん、生きて夜を越せて何より。
そして、ちゃんと起きる事はできたのだろうか?
鬼にできることはまだあるかい?
それから20分ほど勅使河原さんと談笑。
その間に鬼瓦くんの咆哮が3度聴こえた。
そして震えるスマホ。
「コウちゃん! 朝ごはん行こーっ!」
毬萌のヤツ、二度寝をしなかったとは感心である。
確かに、もう少ししたらレストランが混雑するだろう。
ならば、早いとこ行って、空いているうちに済ませてしまうのが良い。
俺は、全員の参加のグループラインにメッセージを送る。
「これから30分後にコテージの前で集合ってのはどうだ?」
すぐに毬萌からマリモのスタンプが送られてくる。
どういう心境なのか、さっぱり分からない。意思表示をしろ。
花梨からは敬礼している猫のスタンプが。
なかなかに可愛らしい。
氷野さんからは「了解」と短い返事が来て、鬼瓦くんからはついに連絡はなかった。
「さて、俺らも支度するか。勅使河原さん、洗面所使うだろ? お先にどうぞ」
「あ、えと、い、いいんです、か?」
「おう。俺ぁどうせ顔洗って歯ぁ磨くくらいしかしねぇから。女子は色々と大変なんだろ? 花梨がよく言ってるよ」
ちなみに毬萌は顔洗って歯を磨くだけである。
さて、俺には重大な任務が与えられる。
心菜ちゃんを起こさなければならない。
「おーい。心菜ちゃーん。朝だぞー」
「んんー。もう少し、寝たいのですぅー」
うん。可愛い。
もう少し寝てて良いよ。
いや、良くねぇよ!
心菜ちゃんを置いて行く気か俺は!
危ない。あまりの可愛らしさに思考停止してしまった。
「心菜ちゃん、そろそろ起きねぇと、みんなを待たせちまうぞー」
「んんんー。あと、少しだけ、れすぅー」
うん。可愛い。
もう少しだけ寝てて良いよ。
いや、良くねぇんだって!!
「あ、あの、先輩? な、なにをして、いらっしゃるのです、か?」
「ああ、助かった。すまんが、心菜ちゃんを起こしてくれねぇか?」
「あ、は、はい」
「いや、触るわけにもいかねぇし、困ってたんだよ」
それに可愛いし。本当に困っていたんだよ。
「ふふ、分かりま、した! 心菜ちゃん、朝、だよ!」
「んん……。はわー。おはようございますれす、姉さま、兄さまぁ」
神様、今日と言う日を迎えさせてくれて、ありがとうございます!!
その後、俺たちは全員が集合して、レストランへ向かった。
「鬼瓦くん、どうした、その目元」
なんか、赤髪のシャンクスの傷みたいなのがあるけども。
「ええ。少しばかり、朝、ありまして。先輩、今夜は一緒ですよね!?」
「お、おう。もちろんだとも」
「ゔぁぁぁあぁぁっ! ご飯取ってきます!」
鬼神号泣。何も聞かないでおこう。
鼻歌交じりに、俺も料理を物色。
イタリアンも良いが、やはり和食に惹かれてしまう。
ご飯に漬物、スクランブルエッグにみそ汁。
サケの切り身と、おいおい温泉たまごがあるじゃないか。これは二つ。
席に戻ると、花梨と氷野さんが同じタイミングで着席。
「どうしたんだ、花梨も氷野さんも。ほとんど取ってねぇじゃないか」
「うっ、だって、昨日あんなに食べちゃいましたから……ちょっと」
「そうよ、桐島公平! 女心の分からない男ね!」
そんなものだろうか。
「でも、毬萌は普通に食ってんぞ」
「ほえ? どうかしたのー?」
「な、なんでもないです! 毬萌先輩の食べてるヤツ、美味しそうだなって」
「クリームメロンパンだよっ! すっごくおいしーっ!!」
「うう、美味しそうです……けど、カロリーがぁ! メロンパンだけでも高カロリーなのに、その上クリームなんて! 絶対太ります、確実に!」
「俺ぁむしろ、花梨はもうちょっと肉付けた方が良いと思うけどなぁ」
「聞きました、マルさん先輩! こーゆうとこなんですよ!」
「あなたも厄介な男に目を付けたわね、冴木花梨。同情を禁じ得ないわ」
なんか知らんが、氷野さんに厄介認定されるなんて、これは一大事である。
「公平兄さま、それなんですー?」
心菜ちゃんも戻ってきた。
お盆にはクロワッサンとフレンチトースト。
良く似合っている。
「温泉たまごだよ。プルプルしてて美味い。ひとつ食べるかい?」
「食べるですー!!」
うん。可愛い。
「桐島公平! あんた、うちの妹に何あげてんのよ!」
「マルさん先輩、卵には……その、豊胸効果が期待できるらしいですよ」
「桐島公平! その温泉たまご、どこにあったの!?」
「お、おう。サラダバーの隣に。……サンキュー、花梨。助かった」
「いえいえー! 貸しにしておきます!」
「……Oh」
借金ばかりが増えていく。
その後、氷野さんは温泉たまごとゆで卵だけを六つも平らげた。
こうして始まる合宿二日目。
朝食にてエネルギーは満タン。
今日も派手にいきたいものである。
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