第66話 会議と明日から合宿
「それではーっ! ついに明日に迫った、生徒会合宿についての確認会議を行いたいと思いますっ!」
ついに来た。
待ちに待った、合宿である。
予算は青天井! 俺のテンションも青天井!!
こんな贅沢が許されても良いのか。
良いのだ。俺たちはこれまで頑張って来たし、これからだって頑張って行く。
それもこれも、生徒たちが笑顔で学園生活を送るため。
ならば、俺たちだってちょいと羽目を外して笑顔になる機会が与えられても問題はないはずだ。
生徒会が激務なのも私立ならではならば、福利厚生が公立に比べて充実しているのだって私立ならでは。
伊達にクソ高い授業料を払っちゃいない。
創立記念日の金曜から、日曜までのノンストップ旅行である。
「コウちゃーん。聞いてる?」
「すまん! 楽しみで全然聞いてなかった!!」
「なんで堂々としてるのかなっ!? ちゃんと聞いてくれないと、置いてくよーっ?」
これは俺としたことが。
「あはは! 公平先輩、怒られたー!」
「桐島先輩、気持ちが
そうとも。何事も、確認が肝心である。
それは仕事に限らず、遊びだってそう。
何をしたって良いと言われて、「何をしようかしら」と呆けて、気付けば特に何もしないで日程終了なんて最悪だ。
「心を入れ替えた! 毬萌、続けてくれ!」
「まったくもうだね、コウちゃんは! じゃあ、持ち物の話からもう一度ね」
「押忍!」
「コウちゃん、ちょっと怖い」
「すまん! 気合入れてメモ取ろうと思ってな!」
「あのー、先輩、水を差すようでごめんなさい。あたしが記録取って、あとからしおりに纏め直して配りますから」
「そうか! じゃあ、俺ぁ何をしたら!?」
「桐島先輩は、まず落ち着かれると良いかと思います」
こいつは一本取られたな。
こんな楽しみな気持ちを抱えてんのに落ち着けってよ。
ヒュー、そいつはヘビーだよな、ヘイ、ゴッド!
「服装は私服で良いからねー。ただ、学園長のご厚意を受けるために、身分証明書として生徒手帳は忘れないようにっ!」
「釣り竿持ってって良いか!?」
「あー、うん。別に何を持参してもオッケーだよっ! ただ、釣りの道具はキャンプ場で借りられたはずだから、持って行かなくても平気だと思う」
「トランプとウノ、どっち持ってく!?」
「えと、コウちゃんの好きな方で良いよー?」
「じゃあ両方だな!」
「ごめんね、コウちゃん。ちょっと静かにしてくれるかな?」
あっ、この声のトーン、毬萌のマジなヤツだ。
「押忍。すみません」
毬萌の怒りを買ってキャンプに置いて行かれちゃ敵わんので、俺は黙る事にした。
「二泊三日分の用意で良いけど、行き先がキャンプ場だから、汚れたりした時のために、予備の服もあった方が良いねっ」
「少々疑問が。食材はどうしましょうか?」
「キャンプ場の近くにスーパーがあるから、基本的には現地調達で大丈夫だよ」
「なるほど。では、持ち運びは僕にお任せを! それから、道中、軽く摘まめるお菓子を用意しましょうか? 差し出がましいようで恐縮ですが」
「わーいっ! それはとっても嬉しいよーっ! 武三くん、すっごく期待してるねっ」
鬼瓦くん、どこまでもデキる男。
「ってことだから、持って行くものは服や日用品くらいかな。コンビニも少し離れたところにあったから、何か忘れ物しても最悪そこで買えばいいよっ」
「花梨、メモ取れてるか!? 俺代わろうか!?」
「もぉー、先輩、テンション高すぎですよ! ちゃんと議事録付けてますから、安心して下さい!」
副会長って身内の会議の時、やる事ないよね。
毬萌会長のありがたい説明は続く。
「それからね、初日と二日目のお昼まで、追加の参加者がいますっ! ホントは全日程一緒が良かったんだけど、さすがに予算がね、学園長に悪いから……」
「おいおい、そんな話聞いてないぞ?」
「うんっ、言ってないもん!」
「なんだ、みんな初めて聞くのか」
「ううん、みんなは知ってるよ?」
「なんで!? ちょっと、俺だけ仲間外れとか、酷くないか!?」
「だって、コウちゃん別に呼びたい人いないでしょー?」
なるほど、ぐうの音も出ないね。
さすが幼馴染。俺の事を熟知している。
「まずは、わたしと花梨ちゃんの推薦で、マルちゃんと妹の心菜ちゃんを呼びましたっ! コウちゃん、良いよね?」
反対する理由など何もない。
「当たり前じゃねぇか! 楽しい事は大勢でやるに限る!」
「うんっ! あと、武三くんと花梨ちゃんの推薦で、真奈ちゃんも参加しますっ!」
「おう、鬼瓦くん、大胆だな!?」
「そうでしょうか?」
「いや、これは俺の考えが固いのかもしれんな。すまん、すまん」
「ええ。勅使河原さんは僕に初めて出来た、特別仲の良い友人ですから」
「そうだな! ……ん?」
花梨が俺の肩をちょんちょんと突いて、耳打ち。
「この人、勅使河原さんの事を親友扱いしてるんですよ。もう、
「ああ、なるほど。そういう理由が」
てっきり鬼瓦くんはもうお付き合いしているのかと思っていたのだが。
よもや、彼女を親友と認識していたとは思わなんだ。
そりゃあ、勅使河原さんからしたらもどかしくて仕方がなかろう。
「それにしても、花梨は勅使河原さんと仲良くなったんだな? いつから名前呼びに?」
「ええ。とっても鈍い人を好きになってしまった同盟ですから!」
「……Oh」
「初日は買い出しとか、準備に時間がかかるし、遊ぶのは二日目がメインかなっ! アスレチックと、パターゴルフのコース、あと釣り堀もあるし。お風呂も期待して良いよ! すっごい種類があるんだよーっ!」
「わぁー! 楽しみです!」
本当に、楽しみで仕方ねぇな!
「二日目は、お昼までは自由行動にしよっか! さっきの施設に行きたい人でグループ作るのも良いねっ! それで、全員でご飯食べたら、帰るみんなを見送ってから、ハイキングコースに出て散策するのはどうかな?」
「良いじゃねぇか!」
異議など出ようはずもない。
「三日目はお片付けをして、帰りの電車の時間までを計算して、臨機応変に! ……と、こんな感じかなぁー? 質問ある人ー?」
相変わらず、天才スイッチの入っている毬萌は天下無敵である。
何の手抜かりもないため、俺たちは一様に首を振るだけ。
その後、花梨が作ってくれた旅のしおりを受け取って、俺たちは解散した。
「じゃあ、コウちゃん、また明日ねっ!」
「おう!」
毬萌を家まで送り届けたところである。
帰って早速準備をせねば!
「そだそだ、ちゃんと早く寝るんだよー?」
「ははっ、ばっか、お前、俺ぁ子供じゃねぇんだぞ」
「だってぇー。中学校の時の社会科見学も修学旅行もコウちゃん寝坊したじゃん!」
「何を昔の話を。明日は一番にみんなを待っててやるよ! じゃあな!」
「あっ、うん。絶対、早寝するんだよー?」
この俺を心配するなんて、毬萌も偉くなったもんだ。
確かに、いつもは目を閉じたら知らないうちに夢の中の俺だが、遠足の前の晩だけは話が別で、安眠できなかった時代もある。
しかし、それも幼さゆえの過ち。
もう高2だぞ。
帰宅後、ウキウキしながら荷物を用意して、目覚まし時計をセットしたらば、おやすみなさいとベッドにダイブ。
なかなか寝付けないが、平気、平気と余裕こいていたところ、眠りに落ちたのは深夜遅く。
翌朝。
普通に寝坊した俺と供に、合宿の幕が上がる。
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