第56話 狂乱の新聞部
毬萌は生徒会長である。
カリスマ性も抜群であり、加えて愛らしい容姿。
無敵である。
天下無双の天才美少女生徒会長である。
何を今さらな話でもあるが、彼女は人を惹きつける。
良くも悪くも。
その点を再認識したらば、さて本日の予定である。
新聞部が取材にやって来る。
「どうもー! こんにちは! お仕事中失礼しまーす!」
登場からテンションマックス、新聞部の部長である。
「あっ、はーいっ! えと、生徒会長の神野毬萌ですっ!」
「知ってますとも! 私は新聞部を束ねるジャーナリズムの
名が体を表してない方の人だ。
全然静かじゃない。
「カメラマン入れてもいいですか?」
「いいですよっ! でも、あんまり変な写真は撮らないで欲しいです! にははっ」
「許可貰ったよ! 入って来な、あんたたち!」
藤平さんが手招きすると、男子部員が二人。
「こっちの根暗そうなのが釜田で、そっちのテンション低いのが岡島でっす!」
どっちがどっちだか分からない。
もう少し分かりやすい特徴で区分けしてくれ。
「あの、お茶淹れましたので、よろしかったらどうぞ!」
「ありがとう! あなたが一年生のキューティーガールこと冴木さんね! オリエンテーリングの進行、見事でした! ほら、釜田、写真撮って、写真!」
「わわっ、ちょっと恥ずかしいですよー」
「良いですよー! そういう生の恥じらいが読者にウケるので! はい、もっと恥じらってー!」
花梨がフラッシュを浴びせられている。
「はい、オッケー! 一旦ストップ!」
「あ、あのぉ、こんなに写真撮るんですか? 校内新聞ってそんなに大きくないですよね?」
「いい素材をより良く紙面に写すには、それ相応の写真がいるの! まあ、気にしないで!」
「そういうものなんですかー。あっ、公平先輩、書類チェックしてもらえますか?」
「おう。任せろ。……うん、完璧だ」
「えへへー。じゃあ、続きを片付けちゃいますね!」
俺たちは普段通り仕事をしていてくれとの事前通達を受けているため、雑務に精を出している。
ありのままの生徒会がテーマなんだと。
「じゃあ、会長さん! インタビューいいですか!?」
「はーいっ! ちゃんと答えられるかなー?」
「あー、今の表情いいですね! はい、岡島、撮って撮って!」
「みゃあっ!? ま、眩しいよー」
「ああー、この飾らない笑顔がイイ! これはイイものだ! もっとカメラに目線もらえます!? あー、イイですねー! さすがは快活ビューティープリンセス!!」
さっきから、何だろう、その微妙にダサい二つ名は。
「では、会長にお聞きします! ズバリ、今年度の生徒会、そのモットーは!?」
「そうですねー。生徒のみんなに笑顔が増えるようがんばろーって、いつもみんなで言ってますねっ!」
「なるほど、よーく分かりました! では、会長さん、好きな男性のタイプは!?」
「へっ!? す、好きな、男の子ですかっ!?」
おいおい、質問初めてすぐに
「え、えと、誰にでも優しくて、自分をしっかり持ってる人……かな」
毬萌もマジメに答えなくても良いものを。
「はいはい、なるほどー。あー、照れた顔も良いですね! 釜田、撮って撮って!」
「みゃあっ! ま、またなのーっ!?」
その後も生徒会とは関係のない、主にゴシップ的な質問が続けられる。
この辺で俺は「ちょいとおかしいぞ」と
「毬萌先輩、こちらのじょるいをがぐに、ゔぁるぅぅぅす! 失敬。確認して頂けますでしょうか」
「あ、うん。分かったーっ」
藤平さんとの間に割って入るのはそれなりにストレスだったらしく、鬼瓦くんが
それに怯んだカメラマンの釜田と岡島の手が止まる。
も、それは一瞬。
「出たこれ! 生徒会の眠れるオーガ、鬼瓦武三! ほら、二人とも、なに遠慮してんの!? 撮って撮って!」
パシャパシャとフラッシュが鬼瓦くんを襲う。
「ゔあぁぁぁあぁぁ」
そして鬼瓦くんもカメラの餌食になった。
満を持して、俺の出番か。
「さっきから取材が脱線してるみてぇだけど、藤平さん?」
さあ、俺にもフラッシュを浴びせてみろ。
こちとらピカチュウのファン10年やってんだぞ。
そんな
「あー、生徒会のザ・普通の人、桐島くんね。一応釜田、撮っといて」
パシャ。
俺の撮影か終わる。
そして俺の二つ名!
ザ・普通の人って何だ! もうただの人じゃないか!!
「とにかく、これ以上訳の分からん質問を続けるようなら、帰ってくれ」
「あーあ、噂通り副会長さんは面白くないねー。あなたは別にいいので、どうぞ仕事を続けてくだっさい!」
「あのなぁ、さっきの質問でどんな記事書くんだよ。好きな男の話やら、風呂に入ったらどこから洗うかとか、しまいにゃスリーサイズまで! 絶対必要ねぇだろ!!」
「それはこっちで判断するのでー。お気になさらずー」
ふてぶてしい態度。
このやり口で相当な数こなしているな?
去年の新聞部は特に問題がなかったはずなのに、当代になってからは問題だらけである。
春一番が吹くのと同時に教頭を誹謗中傷するたて読みを記事に仕込んだ前科もある。
よし、お引き取り願おう。
「取材はここまでだ。……おい、こら、お前何やってんだ!!」
俺の視界の端に映ったのは、釜田がカメラを構えている姿。
それも、棚から書類を取ろうとしている花梨をローアングルから狙ったものである。
「てめぇ、この野郎! ……あれ? お前、この間のバレーボールの時にも写真撮ってたな!? さては新聞部じゃねぇだろ!?」
新聞部と写真部が繋がっている旨を察知し、事の重大さも理解した俺は、速やかに最善の行動に打って出た。
スマホで電話一本。
状況は端的に報告。
毬萌のピンチを付言するのも忘れずに。
数分の
生徒会室のドアが乱暴に開けられ、彼女を筆頭に規律正しい部隊が突入。
「風紀委員よ! 全員その場から動かないで! 石橋! あそこのカメラ小僧が持ってるデジカメのデータを確認して!」
氷野さんのご登場であらせられる。
屈強な石橋風紀委員が釜田を拘束。
データを
「委員長! いかがわしい写真がかなりの数確認できます!!」
「分かったわ。新聞部部長、藤平静香! どう言い逃れするのかしら?」
「わ、私は知らない! あいつらが勝手にやったのよ!」
何と往生際の悪いことか。
ジャーナリズムが聞いて呆れる。
「前々から新聞部と写真部が結託して、女子を
「ほ、ほんの少し、部費の足しにしただけよ! 家庭科部だってクッキー売って部費にしてるでしょう!?」
「屁理屈ね。話は生徒指導室で聞かせてもらうわ! 全員、証拠を回収した後、新聞部を連行しなさい!!」
そして狂乱は嵐のように過ぎ去って行った。
「今回はお手柄ね、桐島公平! 褒めてあげるわ!!」
「こっちこそ、迅速に動いてくれて助かったよ」
「あんた、時々役に立つわよね! 今後も励みなさい!! ほら、手出しなさいよ!」
ああ、お約束のあれね。
コロリと一粒、固形物。
……ブレスケア、じゃない!?
……フリスクじゃねぇか。
えっ、これはランクが上がったの? 判断が難しいんだけど!?
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