第7話 まだ見ぬ会計
レクリエーションとは一口に言っても、その数は多様である。
それはレクリエーションが広く人々の社会生活に寄り添ってきた歴史の成果とも言えるが、どれだけ種類が増えようとも、我々が選ぶ種目は一つ。
むしろ数が多すぎて困る。
長い歴史の中でもう少し自重できなかったのかレクリエーション。
今からでも遅くない、堪え性を身に付けようレクリエーション。
そうとも、我々生徒会の本日の議題は、5月に迫った生徒会主催のレクリエーション企画を何とするか、である。
「あの、参考までにお聞きしたいんですけど、去年は何をされたのですか?」
期待のニューフェイス、花梨の発言や良し。
この手の議題に挑む前に過去を振り返るのはとても大切なことである。
「去年はだな、あっ」
振り返ったら、そこには悲しい記憶がしょんぼりと立っていた。
「えっ、何をしたんですか? そうやって焦らすなんて、気になりますよ!!」
「せ、清掃活動」
「……はい?」
だから言いたくなかったんだ。
『相棒』の杉下右京警部みたいなセリフを可愛い後輩に吐かせちまった。
「にへへ、これがホントの事なんだよねー。学区内の清掃活動! って言って、学園の生徒みんなでゴミ拾いしたんだよぉ」
「そ、それは、あはは、なかなか、独創的で……。あ、規律を正すと言う観点では、うん、悪くはないと思いますよ!」
「花梨。無理してフォローしなくていい。俺も去年の事を思い出すと、頭が痛い。俺ぁ河川敷の担当になったんだが、聞いてくれるか? ゴミ拾いって聞いてたから、まあ空き缶とか、タバコの吸い殻とかを想像するだろ? それなのによ、何がゴミとして登場したと思う?」
「えっ? うぇぇ? えーとですね、うーん。あっ、資源ゴミですか? うちの地区のゴミ捨て場に、曜日を守らないで資源ゴミを出す人がいるらしくて、お母さんが怒ってました!」
それは不届きな輩がいたものだ。
ゴミ捨て場はその地区みんなのものであるからして、ルールを破るなど厳禁。
重罪である。
だがしかし、俺の用意した答えとは違ったため、静かに首を横に振った。
これは答えが難しすぎたなぁと反省もした。
「自転車」
「えぇー!? 自転車ですか!? それを、皆さんで運んだんですか? それは大変でしたね」
驚いてるところをごめんな、花梨。
この話にはまだ続きがあるんだ。
「それとな、もう一つあるんだよ。次元が違うヤツが」
「自転車よりもですか? 聞きたいです! ちょっとドキドキします」
「……軽自動車」
「……はい?」
杉下右京警部のおかわりを貰ってしまった。
ごめんね、本当に。
「不法投棄されてた軽自動車があってな。まあ、河川敷だから、どっかの悪いヤツが捨てたんだと思うんだが、問題はな、そこに通りかかった先代の生徒会長がな……。はい、毬萌。締めをよろしく」
「これもゴミだから回収しますっ! って、言い出しちゃってねー。あれは大変だったなぁー」
「えっ? えっ? あの、その費用は?」
「元々分配されてたレクリエーション用の予算が手つかずだったんだ。なんせ、清掃活動だからな。用意するのはせいぜい、人数分のゴミ袋くらいだろ」
「……もしかして、使っちゃったんですか?」
「ほれ、去年の役員。教えてあげて」
「にはは、全額使って、業者さんを手配して、ぐわわわーって勢いで、ね。あれはわたしもビックリしたなぁー」
この毬萌ですら驚くくらいなので、当然、他の生徒はドン引きした。
何か悪い夢を強制的に見せられているような、酷い絵面が脳裏に焼き付いている。
「それで、だ。去年のトラウマが、現二年生と、三年生にはこびりついてるって話なんだよ。……まあ、もうこの先は言わなくても分かるよな」
「はい、すみません。今年も清掃活動だったら、正直あたし無理です」
「安心してくれ。俺も無理だ」
ここで一旦、茶を飲んで休憩を取った。
去年の苦い、苦すぎる思い出を、渋めのお茶で心の奥底に流し込む必要があったからである。
「……あれ? 昨年の新入生総代って、毬萌先輩だったんですよね? さっきも去年の役員って……。という事は、清掃活動が決まる会議の現場に居合わせたんですか?」
再開された会議で、花梨が気付く。
彼女は頭の回転が速い、聡明な女子である。
また、少し気が強いところもあり、「おかしいな」と感じた事に関しては先輩だろうがハッキリとものを言う。
俺はそんな花梨の態度が好きだ。
正しい事は正しく述べられる場が議論をする上でまず必要になるし、その場で権利を正しく行使することが建設的な意見の構築につながる。
ただ、毬萌の名誉のために、ここは俺がフォローするべきであろう。
「それがなー、こいつ、清掃活動が決まる前後で1週間学校休んでたんだよ。風邪拗らせて。で、復学したらもう決定事項として清掃活動がデーンと構えてた……と」
「あっ、そうだったんですね。……なんだか毬萌先輩を責めるみたいな言い方になっちゃって、すみませんでした」
悪いと思ったらすぐに謝れるのも、花梨の良いところである。
「んーん、いいんだよ花梨ちゃん。去年の会長さんに意見が出来なかったのは事実なんだし」
そして、毬萌は勢いよく立ち上がった。
「だから、今年のレクリエーションは、生徒のみーんなが楽しめる企画を立ち上げたいんだ! まだ時間はあるから、焦らないでじっくり決めてこ? 二人とも、協力してくれる?」
「当たり前だろ。俺の役職を何だと思ってやがる」
毬萌のヒップアタックに沈んだ椅子を助け起こしながら、俺は答える。
「あたしも、微力ですが頑張ります! 先輩方に遅れないようにしなくっちゃ!」
こうして、俺たちは絆を確かめ合ったのだ。
……まあ、この日は全然決まらなかったんだけどね、題目。
だって、元々が完全に纏まっている俺たちが挙党一致体制を決意したって、特に変化はないんだもの。
レクリエーション案件も大事だが、生徒会には他にもやらなきゃならん仕事は山ほどある。
山盛りポテトフライも引くくらいある。
それを3人で黙々とこなしていたところ、ふと気になったので俺は毬萌に問いかける。
「なあ。そういやぁ、うちの会計は?」
現在、経理関係の処理は毬萌が行っている。
それに加えて会長としての職務を果たしているのは、高い高いでもして褒めてやりたいところだが、オーバーワークでアホの子モードになられても困る。
「良ければ、あたしが兼任しましょうか?」
「いやいや、入学したての可愛い後輩にそんな激務させられるかよ」
「か、可愛い……。あっ、えっと、お気遣いありがとうございます」
とは言え、俺も別に数字に強いって程でもない。
が、他に候補がいないのならば、俺が兼任する方向で調整するのもやむ無しか。
「むっふっふっふー」
「なんだその気色悪い笑いは」
「あー、今、コウちゃんがひどい事言ったぁ! こんな可愛い幼馴染捕まえて、酷い事言ったよぉー!!」
「はいはい、悪かったよ。で、何か妙案でもあんのか?」
毬萌がニヤリと何やらたくらみ顔をする。
腹立つ反面、確かにちょっと可愛い。
「実はね、すっごい逸材を新入生の中から見つけたんだよ! 明日には連れてくるから、2人とも、楽しみにしてていいよー?」
まあ、我らの生徒会長がここまで言うのだから、その逸材とやらは余程の力を持っているとみえる。
ならば、その期待の新星を待ちながら、事務仕事を粛々とこなしますかね。
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