サイレント・シーフ

黒うさぎ

サイレント・シーフ

 ろくに仕事もせず、一日中研究室に籠って魔道具の開発をする日々。

 数少ない知人はその魔道具開発の技術を仕事にするよう勧めてくるが、生憎私は生来の怠け者だ。

 自身の好きなこと以外やりたくない。


 需要だとか、生産性だとかそんなものに縛られながらの発明なんぞしたくないのだ。

 只々自分のつくりたいものを創る。

 それが私の生き方だった。


 しかしながら、人が一人生きていくだけでも少なからず金がかかってしまうのが、この世界の理だ。

 それなりに裕福な家に産まれたため、独り立ちした際に分け与えられた少なくない財を少しずつ崩しながらここまで生きてきた。

 だがそれもそろそろ底をつく。


 どうにかして稼がなければならない。


 そして私はこの魔道具の発明を閃いたのだ。


「できだぞ!」


 それは腕輪の形をした魔道具だった。

 無骨なデザインのその腕輪に早速魔力を流すと、5mほど距離をとる。

 そして手に持った金属製の工具を、机の上に置かれた腕輪の傍に向けて放り投げた。


 だが不思議なことに、机の上に落下した工具は、一切の音をたてることはなかった。


 試しに腕輪から離れた場所に向かって工具を放り投げると、カランと金属質な音をたてて床に転がった。


「よし、成功だっ!」


 これこそ私の閃いた発明品。

 音を遮断する腕輪≪サイレント・バングル≫だ。

 これは魔力を流すことで、腕輪を中心に半径5m結界を展開し、周囲との音の伝達のみを遮断する魔道具だ。


(これがあれば金持ちになることだって容易い)


 私は静かな研究室で一人ほくそ笑んだ。


 ◇


 時刻は真夜中。

 街の人々は既に寝静まった頃。

 私は一件の屋敷の前にいた。


 この屋敷はこの辺り一帯を治めるグレズリー伯爵のものだ。

 以前に一度だけだが、親に連れられて訪れたことがある。


 もっとも今日の私は招かれざる客だが。


 私は左腕につけた腕輪に魔力を流すと、屋敷の裏手に回った。

 そして従者用の出入口にある通用門を爆破の魔道具で破壊した。


 普通ならこんなもので門を破れば、轟音を響かせてしまうだろう。

 しかし、辺りは静かなままだった。

 腕輪のお陰だ。


 私は屋敷の窓の1つに近づくと、なんの躊躇もなく叩き割る。

 もちろん、ガラスの割れる音は聞こえない。


 堂々と屋敷の中へと侵入すると、屋敷の一番奥の部屋の前に立った。

 ここが宝物庫であることは以前訪れた際に把握している。


 流石に宝物庫というだけあって、扉は厳重に閉ざされていた。

 しかし、私にそんなものは関係ない。


 私は爆破の魔道具を使った。

 流石に1つでは破ることはできなかったが、誰にも気がつかれていない以上、朝までたっぷり時間がある。


 私は扉が壊れるまで繰り返し爆破の魔道具を使った。


 そして宝物庫の扉を破ると、中からありったけの宝物を背負っているリュックに詰め、悠々と侵入した窓から出た。


 しかし、そこで私は己の目を疑うことになった。

 なんとそこには、剣を構えたグレズリー家の騎士が待ち構えていたのだ。


 誰にも気がつかれないよう、一切の音をたてずに侵入したのに一体なぜ。


 ともあれこれだけの騎士に囲まれてしまっては諦めるしかない。

 私は≪サイレント・バングル≫を停止させると、両手を上げ騎士に訪ねた。


「どうして私の侵入がわかったのですか。

 門を破壊したときも、窓を割ったときも一切音はたてなかったはずです」


 その言葉を聞いて顔をしかめる騎士たち。

 そしてため息混じりに一番前にいた男が答えた。


「屋敷に許可のない者が侵入すると、警報が鳴る結界が張ってあるんだ。

 俺たちはその警報の音を聞きつけて出動した。

 お前にも聞こえるだろう、このうるさい警報の音が」


 屋敷に鳴り響くけたたましい音を聞いて、私は膝をついた。


≪サイレント・バングル≫は爆破の音だけでなく、外から聞こえるはずの警報の音まで遮断してしまっていたのだった。




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サイレント・シーフ 黒うさぎ @KuroUsagi4455

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