第10話-2 うつ病で寛解したら…
もう15年ほど前であろうか。新卒で入った最初の会社の課長は、欧米生活が長かった事もあり、精神科について寛容であった。当時は嘘かと思っていたが、欧米では、寒気がしたり、風邪かな?と思ったり、ちょっと憂鬱だな、など些細な体の異変を感じたら、まず精神科を受診するそうだ。
今でも信じられないのだが、実際にアメリカなどではそれほど精神科医は身近な存在なようだ。日本の精神医療と言えば、私のイメージでは、鉄格子があり、入院病棟は不潔を極め、喚きだしたら電極でバン!で気絶させて大人しくする…。そういう異色な特別な怖い場所、という認識しかなかった。ましてや自分には関係ない世界だ、自分が精神病になる訳がない、辛いのは精神のたるみではなく気のたるみだ!そういう世代であった。
今思えば、そういう昔ながらの精神科のイメージを払拭できないのが、私自身を苦しめ、また、日本人にとって精神科=怖い特別な場所、となったのだろう。
2018年のデータでは、アメリカは国民の約30%の人が精神疾患を持っていると言われている。それに対して、日本は国民の約3%と言われている。アメリカに比べて、精神疾患者率は桁一つ少ない。最近日本もメンタルヘルスについてかなり理解や職場改善、いじめ対策などが進んできたと言われ、その効果の表れなのだろうか?答えは否、と断言する。
日本の自殺率は世界6位、先進国で一番多い。ちなみに、アメリカは20位である。つまり、いまだに日本人は精神科に対しての敷居が高く、治療や診察を受けていない、潜在的な精神疾患者は計り知れないほど多いのではないだろうか。これは、日本と欧米諸国の文化の違いでもあるだろうが、日本人に対する精神疾患に対する恐怖、もし自分が?もし精神科に通っている事が周りに知られたらどうしよう?といった敬遠する要因はまだまだ多い。精神科に対する敬遠は、仕方ないかも知れない。
例えば、私も精神科(心療内科を含め)を受診したが、生命保険(死亡保険)の更新の際、通院中の病気で「うつ病」と記載したら、解約を勧められた。もしくは、保険料がかなり高額となる他の保険商品を紹介された。後から知ったことだが、こういった生命保険一つとっても、日本の精神疾患に対する理解はまだまだであると感じざるを得ない。
「メンタル疾患は気軽に受診を」という風潮になりつつあるが、いろいろな制度はそれに追いついていない。その事実を知っている人も少ないだろう。精神科を受診したことによるデメリットも大きい。だから、私もうつ闘病中であることは会社でも周知であるので、メンタルが弱った人から相談を受ける事が、ごく稀にあるのだが、専門家ではないので詳しくは分からない、としか答えられない。
本当は、こんな私に助けを求めて、自殺を仄めかしている人に、「すぐに受診した方が良い、お勧めはこの病院」と伝えたいところだが、家族を持ち、住宅も建てたばかりでローンもたくさん、お子さんたちも小さい…。素人の私が簡単にどうこうしろとは口が裂けても言えない。
ちなみに、この人の場合は自死感情が深刻で看過できなかったので、個人的に知り合いの心理カウンセラーを紹介し、あくまで個人的に話を聞いてあげて欲しいとお願いした。通院歴が残っただけで、自殺ではない万一の際でも、保険料が支払われない可能性(虚偽記載とされる)もあるからだ。
いまだに、ニュースなどで特異な事件が発生すると、犯人は精神科に通院歴があり…などと報道されることがいかに多いことか。何かあったら、精神科に通院しただけでこのように報道されると思ったら、余計に精神科は近寄りがたい存在となり、敬遠せざるを得ない。
マスコミだけのせいとは言わないが、自分を追い詰め、自死してしまう多くの人。助かる命を助けられないのは、精神科や精神疾患に対する日本の偏見がいまだに蔓延っているからではないだろうか。
うつ病は心の風邪、などと言われているが、風邪どころではない。癌くらい厄介である。初期の癌であれば摘出できるが、末期になると死に至る可能性もある。うつ病も同じである。初期の状態で適切な治療を受けられれば、大事に至らないこともあるのだ。
若者~働き盛り世代での死因第一位は殆どが自殺という事実。国策として、何か手を打ってもらいたい。
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