第7話 産業医は社員の味方であるのか

 産業医は、企業において労働者の健康管理を行う医師であり、大企業では専従の産業医がいるところもある。労働安全衛生法などの規定で、一定規模以上の事業所には産業医の選任が義務付けられている。

 私も労働衛生管理者の資格を取得し、労働安全衛生法などの勉強はしたので、ある程度の知識は持った。ざっくりと言えば、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに1人以上の産業医の選任は必須。また、常時1000人以上の労働者を使用する事業場は、専属の産業医を置かなければならない。

 私が勤務している会社は、連結では2000人以上の労働者を雇用しているが、各拠点に分散しているため、一事業所で常時1000人以上の労働者がいる拠点は無い。このため、専属の産業医は必要なく、どこかの病院の勤務医または開業医を、産業医として雇う形で、月に一回程度、派遣されてくる。

 この時に注意したいのが、産業医に何でも話してもよいのか?という疑問だ。産業医は、労働者の健康管理に努める事になっており、労働者側の味方の立場である、とされている。しかし、現実は必ずしもそうとも言えない。

 まず、産業医は、精神科の医師ではなく、大体は内科の医師である。精神疾患よりも、従業員は、内科的疾患(血糖値や尿酸値などの生活習慣病、心臓病、脳梗塞など)の持病を持ちつつ働いている人数の方が圧倒的に多い。

 私の場合も、産業医は内科の、病院勤務医であった。精神疾患については、一般的にインターネットか、本屋の薄いうつ病の本に書いてある内容くらいの知識しか有してなかった。

 うつ病で長期休職となると、産業医はいろいろな事をぶつけてきた。「早く働きたい」と言うと、「それだけの元気があるのなら、独立して起業したら?」や、「転職もまだ十分できる年齢だよ?」と、自社の復職の話に消極的だった。

 休職も長期化し、金銭面でも精神的にもいよいよ追いつめられてくると、「それだけ具合が悪いなら、さらに休職期間を延長しなければならない」、という風に、復職に向けて前向きな話はして下さらなかった。

 どの産業医もそうであるとは言い切れないが、産業医は企業から雇用されている「立場」である。産業医本人が復職の許可をして、万一会社で何か問題ごとがあったら責任問題となる。それが産業医の本音であろう。

 ましてや精神科の領域ではない産業医にとっては、精神疾患で休職している社員の復職に関しては、かなり厳しい。私の通っている主治医(精神科専門)と産業医で何度か電話会談をしていただいたようだが、主治医によると、産業医は全く復職させる気配はない、との事だった。

 内科医はデータ(定量的な数値やパターン)で物事を判断するそうで、患者の状態如何ではなく、うつ病だったら〇か月は有無を言わさず休職させる、さらにその後はちょっとした発言を上げ脚に取り、まだ治っていない、もしくは元気そうにしていると躁の気がある、などと復職を先延ばしにする。そのようなフローチャートが企業ごとにマニュアルとしてあるようだ。

 産業医にも守秘義務があり、患者に不利益になるような発言は会社に漏洩してはならない事となっているが、どこまでそれが徹底されているかは、甚だ疑問ではある。とにかく、産業医よりも自分の主治医を信じ、産業医は、ほぼほぼ会社側の人間である、と覚悟した方が良い。

 産業医は、自分の在任期間に問題があっては困るのが本音であろう。本当に症状を見て、復職プランを考えてくれる、というのは詭弁であり、一応会社もそのように産業医とプランを練って進めている、と言うが、任せていたらまず進展は無い。

 就業規則にある、「休職期間満了」で退職、が狙いであるのは素人目にもわかる。良い主治医であれば、産業医面談の対処法も教えてくれる場合があるので、信頼のおける病院、主治医を持った方が良い。

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