第6話 パワハラ起因のうつ病は労災として扱われない?
私の場合、設計開発の長時間労働による過労からの体調不調で一度目の休職を余儀なくされ、約半年の休職を経て、違う拠点に転勤し、異なる業務内容(技術営業)の部署に配属された。
そこで待ち受けていたのは、制裁人事といっても過言ではないほど、上司のパワハラ蔓延の職場であった。そして約一年半、その職場で働いたが、毎日のように客先に土下座、髪の毛は丸坊主にして謝罪に行くような環境であり、とうとう、うつ病再発、救急車で緊急搬送となってしまった。
ちなみに、病気の治療を続けながら職場復帰というのは、私の会社では基本的に認められていない。復職=完治。これが条件であり、復職したら直ぐに第一線でその職場のいろはを叩きこまれる事になる。精神疾患に関しては、完治という表現は無く、寛解、が条件となった。
二度目の休職については、明らかにパワハラ行為が行われていたにも拘らず、当時の上司は何のお咎めもなく、とんでもないインチキ商品をメーカー公認として売り歩いて、営業実績だけは良く、社長賞までもらっていた。私が休職中の出来事であった。後日貰った社内報で、社長、会長、役員と満面の笑みで写真に映っていた。
そのとんでもない商品の謝罪に、私が奔走し、うつ病再発診断、そして長期休職になった訳だが。そして、私といえば、精神疾患が再発しただけ、との扱いとなり、休職処分。納得できるものではなかった。
休職期間中に労働基準監督署に幾度となく相談に行った。労働基準監督署では、大きく「方面」と「労災」が絡んでくる。
「方面」とは、企業の監督を行う部署であり、労働基準監督官が、労働環境に問題がなかったか等、いわば捜査をする場所である。重大な問題と判断されれば、会社の経営者に是正勧告を行い、応じない場合、告訴・告発がある場合は刑事訴訟法に基づく捜査を行う。
次に、「労災」であるが、これは字の通り、労働災害に該当するかどうかを判断する部署である。私の場合、精神疾患が労災に該当するかの相談をしたが、心理的負荷による精神障害の認定基準についてはガイドラインがあり、
① 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
② 認定基準の対象となる精神障害の発病おおむね6ヶ月の間に、業務による強い
心理的負荷が認められること
③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
となっている。
しかし実際のところ、この条件だけではなく、常時80時間/月(過労死ライン)の残業が行われていたか、という所が、唯一、定量的に表すことができるので、長時間労働の証拠がないと精神疾患での労災認定は難しいとの事だった。
実際、私は「方面」の担当者からは、すぐに調査に入るので所定の手続きを、と言われ、「労災」では、長時間残業の実績(数値として定量的に測れるもの)がないと難しい、とされた。
「方面」・「労災」それぞれ共通していることは、労働基準監督署が会社および同僚に対して調査が入る事となるので、パワハラが事実であると証言してくれる人がいるか?そう証言してくれる社員がいるか?という事が大きなネックとなる。
社員即ち会社の人間である。自分の発言によって、自分自身の雇用が危うくなってでも証言してくれる人がいるかと考えると、甚だ疑問であった。人の取り方はまちまちであるし、私に協力するより会社に協力した方がどう考えても保身として安全である。
私は早いうちから、上司のパワハラについては部署を跨いで、多くの人にメールや事実を転送し、ヘルプやギブアップ宣言の証拠を残してきたが、証言してくれる人がいるかどうか自信が無かった。こういった定性的な判断に期待することはできない。
この件については弁護士とも相談したが、例えうつ病になった責任が会社であり、慰謝料を請求するとしても、算定額は予想以上に低い値であった。この慰謝料をもって、尚且つ精神疾患者として転職する事は無理と判断し、私は労働基準監督署の捜査を断り、会社の総務人事部の判断に委ねることにした。復職の見通しは暗く、苦渋の決断であった。
私の場合は、技術営業という外回りが多い仕事であったので、勤怠時間の把握がきちんと立証できない、アバウトな状態になっていた。直行や直帰の場合は会社に行かないのでタイムカードでの打刻ができない。
タイムカードをきっちり通せる人は、証拠として取っておくべきであるし、それすらも会社は改竄するかも知れないと思ったら、面倒であっても、自分で出退勤の時間をメモ等で自己管理しておく事をお勧めする。数字は嘘をつかない。定量的証拠を。タイムカードを通してから職場に戻るように指示する会社も実際に存在する。
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