第4話 企業とうつ病②-精神疾患診断のハードルは今なお高い
先に述べたように、労働安全衛生法第66条の一部改正を受け、厚生労働省より平成27年からストレスチェック制度が実施されている。職場のメンタルヘルスや過重労働のチェックとしての制度だ。
しかし、「うつ病である可能性あり」、もしくは「早急に専門医の診察を受けるべき」、という結果が出ても、受診は個人(労働者)の判断に委ねられている。企業(事業者)も率先して専門医に診せるように促す仕組みにはなっていない。
ちなみに私の経験上であるが、私がまだうつ病診断をされる前に、会社の通信教育講座で「メンタルヘルス・ストレスコントロール」を受講しようとしたが、上司からは、ウチの職場からそういう講座を受ける人間がいると知れると、そういうストレスがある職場に見られるのが分からないのか?と叱責され、結局受講できなかった経験がある。
また、うつ病診断で休職するときも、上司からは、ウチの職場からそういう脱落者が出るのは困るんだよね…と再三言われた。上司は管理能力が問われ、職場の立場、評価が下がることが大変迷惑である、という訳だ。
直属の上司だけでなく、勤労部長からも、
「みんな頑張ってやっているのに、お前はラクをしたいだけだろう!」
と別室に呼び出されて叱責され、休職を認めないような口ぶりだったことをよく覚えている。勤労部としても、会社の立場として、そのような脱落者を出すことは、会社の管理能力やどのような働かせ方をしたか等が問われる、自分の立場や評価が下がることが大変迷惑である、という事だ。
一般的な会社がどうであるかは分からないが、一応、私の勤めている会社も一部上場企業かつCSRなど、一通りの部署は揃えているのだが、事実はこのようなものであった。私の勤めている会社は重工系産業機械(1台数億円)であり、リーマンショックの不景気は直撃、輸出比率も高い会社であったので、世界的な景気の冷え込みによる、企業の設備投資控えは大ダメージであった。
繰り返される早期退職という名のリストラ、その埋め合わせによる過重労働で、私だけでなく精神疾患で休職していた人間は多数いた。事実、私の後輩である若者も休職していたが、本人と会った時の後日談であるが、この勤労部長とのやり取りで、精神疾患が悪化し、精神障害者となり、会社を辞めさせられていた。これは傷病による休職期間満了を謳った「就業規則」に則った処置だそうだ。
まだ、「休職」という冷静な判断が出来ていたから良かったが…。詳細は述べられないが自死した方も、リストラ後に残留した方の中で数名いる。会社は「事故死」として処理しているが、助けを求める電話などを受けた方から実際の話を聞いて、衝撃を受けた。
会社の体質によるが、従業員の精神疾患に対して抜本的な対策を打たない企業はあるのだ。うつ病に関しての理解が広がっているイメージはあるが、今なお、そのハードルは高く、従業員の「うつ病隠し」という険しい現実があるのも、少なからず事実である。
これは性別でのうつ病のデータであるが、全年代で女性の方がうつ病患者である事が多いと、厚生労働省の患者調査で明らかになっている。一説では、男性の約2倍が女性であるとするデータもある。
では、性別での自殺率をみると、それは逆転する。男性の自殺率の方が女性の約2倍、多いのだ。これはいろいろな説があり、一概にうつ病と自殺を関連付けることが間違いかも知れないが、女性の社会進出が多くなっている現代日本ではあるが、やはり男性の方が、そもそも、うつ病で診察を受けることが少ないのではないだろうか?
あくまで厚生労働省の患者調査は、医療機関にかかった人についてのデータである。私は、医療機関で診察を受けていない、深刻な「隠れうつ病」患者は、かなりの数ではないかと推測する。
うつ病を受け入れる社会、環境整備が急務と感じる。政策や言葉だけ先走りしていて、対策は進んでいるように見えるが、根強い精神疾患への偏見、取り分け日本での理解の不十分さは、欧米諸国では考えられない水準である。
アメリカなどに学び、今後日本が明るく前向きにうつ病患者の治療ができる環境、医療の発展を、とにかく祈る。
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