宮華菫がお菓子を作るだけの小説
七条ミル
お菓子を作るだけ。
何を作るかも決めないまま、翔伍が思いっきり寝たところで布団を抜けだした。まだ少し気持ちがふわふわしていると言うか賢者タイムみたいなところがないでもないけれどでも兎に角日付が既に変わっていて今日はバレンタインデーなわけであって、そう考えたら私は今すぐにでもお菓子を作り始めないといけない。
どうしようかな、と思う。だって私、何も準備してないから。そりゃ勿論小麦粉とか牛乳とかそういうものはあるけれども私は材料そのものからパパっとお菓子が作れるほど器用じゃないしというかそういうのは寧ろ翔伍の方が得意というかなんだか悲しくなってきた。
うん、作らないといかん。
そして翔伍が起きてしまわないように、私は細心の注意を払わんといけない。翔伍が起きたら計画が台無しである。
まあ、計画もクソもないんだけれども。
一体どうしたものかと頭を捻っていたら既に三十分くらいが経過しているし翔伍は毎日六時くらいに起きるから今が三時半であと二時間半しかないのでは。
ちゃうねん、ちょっと気持ちよかったからもうちょっとって言ったのは私だけど、しょうがないじゃん。
ていうかそんなことはどうでもいいから早く私は何を作るか決めてそして本当に作らないといけない。
ああ、眠くなってきた。そりゃまあさっきまで割と運動していたっていうかまあ運動なのか知らないけれど運動していたわけなのだからそりゃ眠くもなるしよくよく考えたらもう三時半なのだから寝る時間なのだけれど。
どうしようどうしようと棚の中を眺めていても全く何も思いつかないしかと言って翔伍は大体なんでも食べてしまうからいまいち何が一番好きなのかというのを知らない。
あれ、案外私翔伍のこと知らないんじゃない、と少し悲しい気持ちになった。
去年は、どうしたのだっけ。いや、なんか去年は私は体力尽きて寝ちゃって、そう、起きたら逆に私がチョコをもらった。甘い奴。あとそのあとキスしてやばかった。それはめっちゃ覚えてる。甘かった。でもそんなことは重要じゃなくていやどうでもよくはないけど問題なのは今年翔伍に何を作るかなのであってどうしよう。
こんなことなら別に夜な夜な作るとかじゃなくて、欲しいものを聞いてそれを作ればよかったと思う。
どうも、こういうことに関してはてんでダメなのだ。
お菓子を作ると言って布団を抜け出して来たのにまだ何一つとして作っていない。ああもう駄目かもしれない。素直に布団に戻って翔伍を抱き枕にして寝たらいいのか、私は。
クッキーとか思ったけどでもクッキーを美味しくつくるやり方を知らない。なんかよくわからないしなっとしたクッキーの作り方は知っているけれど、でもあれはべちゃっとしてしまうからなんだかこう、翔伍にあげるにはよくない気が、する。
一応まあ、本命というかまあ本命しかないのだから本命も友チョコも何もないのだけれど、一応私の本命ということになるわけなのであって私もちょっとは頑張れるんだぞみたいなところを見せておきたいと思う。
本当に、普通に話すこともまともにできなくてだらしのない怠惰な私を好きでいてくれてありがとうって感じだけどごめん、私お菓子作れない。
なんでだろう、思ったよりもしんどい。
私って何もできないのでは。
小説書くとか言ってもろくなもの書けてないし依存しまくるタイプだから翔伍居ないと死ぬ気がするし私はもうダメかもしれない。
「何してんだよ」
わっ、翔伍。
「なんで」
「そりゃ起きるわ。なんでこんな時間に台所に立ってるんだ」
「それは」
バレンタインデーだからに決まってるわけなのだけれどそんなこと恥ずかしくて言えないしもう私はダメだ。
「全く、計画が狂うからそういうのよくないぞ」
翔伍はそういうとポケットの中から小さい包みを取り出した。
「本当は朝の予定だったけど、もう日付変わってるしね」
あげる。
包みを開けるとめちゃめちゃおいしそうなチョコが一粒だけ入っていた。
「あんまり多いと太っちゃうからね」
「…………太ってない」
「ほんとかなぁ」
「……………………ほんとだよ」
本当は年明けてから少しだけ太った。いやでも、そんなでもないし。
翔伍にわーっ好きとかなりながら結局私はお菓子を作ることもできずに午前四時の台所でわたわたしていたわけなのだけれど。
でもやっぱりお菓子作りたいなあと思った。
だから。
「手伝って」
「手伝う?」
「そう、お菓子」
「ほー、なるほどね。作るかぁ……」
宮華菫がお菓子を作るだけの小説 七条ミル @Shichijo_Miru
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