第25話 もふもふタイム



夜、今回の宿泊先である宿の部屋にて聖歌はぐったりとベッドに倒れ込んでいた。


あの後、シルバの助言を受けながら渡された書物で時魔法を覚えた。そして全ての家を魔物が来る以前の無事な状態まで戻るように魔法を行使したのだ。使用した"時遡り魔法"はその言葉通り物や人など、戻したいものを昔や以前の状態まで戻すことができる。


本来なら、そのまま街全体に行使して、人だけ意識的に範囲外にすればそのまますぐに使えたのだが、聖歌はいくら魔力が多くともまだ細かい微調整が出来るほど、魔法の扱いに慣れているわけではない。

つまり、人とそうでない建物を意識的に判別して魔法を行使するなどといった器用な真似はできなかったのだ。

実際試しに一番側にあった家に魔法を行使した時、側にいた中年の男性が青年になってしまったのだ。シルバが慌ててフォローして男性を元に戻してくれたので事なきを得たものの、聖歌にとって魔法の微調整は今後の重大な課題となった。


その為、一度町の人々に町から離れてもらうことが一番手っ取り早い方法ではあったのだが、いくら町を救ったとはいえ、せっかく戻ってきた町の人々に対して一旅人である聖歌達が一度町の外に出て欲しいなどと言えるはずもなく(シルバは遠慮なく言おうとしていたが必死に止めた)、仕方なくある程度狭い範囲で二、三軒ずつまとめて修復魔法や時遡り魔法を使って直していくうちに、全て直し終わるのに真夜中までかかってしまったというわけだ。それに、町の端の住宅街にはまだ手をつけられていないところもある。

よって聖歌は明日も修復に行くつもりだ。

本当は今夜全て直してしまいたかったが、聖歌がどうみても疲労困憊なのを見て取った町の人々にもう良いから今日はゆっくり休んでくれと泣いて止められてしまうと、どうすることもできなかった。


だが、何回も魔法を行使したことが丁度良く魔法の微調整の練習に繋がったことで、最初は時を戻し過ぎたり、魔力を余分に使い過ぎていたものが、夜には丁度良い魔力量で魔物が襲撃する前と全く同じ状態に戻すということが自然に出来るようになっていた。

シルバからもこの調子なら、広範囲に魔法を使用する場合の対象判別ーー人や物など、魔法を行使するものとしないものを無意識化で判別する事も直ぐに出来るだろうと言われた。



「聖歌、よく頑張ったな」


ぐったりとしている私にシルバが優しく声をかけてくれた。


「ありがと……」


人型のシルバを見ながら狼姿の時のふわふわの毛並みを恋しく思う。そこでふと考えた。


「そういえば、シルバは人型と狼姿以外に変身は出来るの?」


「出来ると言えば出来るが……我は基本はこの二つが本来の姿だ。獣形の方が気が楽だから普段はその姿でいるがな。あとは大きさを変えることも出来る。それ以外の姿だと魔法を使うことになるが、不可能ではない」


「へえ〜」


ということは、基本は狼姿だけど、人型と狼型、両方とも本来のシルバの姿って事か。そして大きさは自由自在と……ん?

そこで一つの考えにいたり、聖歌は飛び起きる。


「え! ちょっと待って! じゃあ狼姿で小さい姿にもなれる?!」


「!? そ、そうだな、それも可能だが……」


突然飛び起きるなり、問い詰めるように質問を投げかけた私の様子にシルバのが何事だと動揺している。

だが今はそんなことはどうでも良いのだ。疲れが相俟ってか私は謎のテンションのまま、シルバにお願いする。


「お願い! 小さい狼姿に変化してくれない? こう、抱っこ出来るくらいの大きさで!」


「う、うむ……」


私の勢いに押されるような形でシルバが頷くと同時、人型のシルバが一瞬光に包まれた。

そして次に目を開けた時には、目の前にはちょこんとお座りをした仔犬ーーもとい、小さな狼姿をしたシルバがいた。

そしてそのあまりの愛らしさに、聖歌は見事にハートを撃ち抜かれた。


「可愛い〜っ!!!」


「む!? な、何をする!」


言うが早いか聖歌はシルバを抱き上げ、頬擦りをする。

全体的に動物好きな私は前に大きな犬科や猫科の動物が一等好きだと述べたが、もちろん小さい生き物だって大好きだ。

元いた世界でテレビでライオンの赤ちゃんを見た時なんてあまりの愛らしさにニヤニヤしてしまっていた。

そして疲れている今、聖歌はもふもふという名の癒しを求めていた。

しかしシルバに本来の狼姿になってもらうにはこの部屋はいささか狭すぎる。

そこで小さな狼姿になってもらった訳だ。

実を言うと狼姿のシルバはそこら辺の普通の狼の三倍は大きい。二回りは大きいのだから、小さい子供などは泣いてしまうだろう。まぁ、大型野生動物に憧れていた聖歌には何の問題もなかったが。

聖歌としてはどんな姿のシルバだって大好きだ。だが、この小さな狼姿のシルバのの破壊力は絶大だった。

飽きることなくぎゅうぎゅうと抱きしめ、頬擦りする。最初は抵抗していたシルバも次第に諦め、大人しくされるがままでいる。

まぁ、慣れると満更でもない様子だったので問題はないだろう。


(あぁあ癒される〜!可愛いしもふもふできるし幸せ……!)


銀色の毛並みは柔らかく細く、指通りもサラサラ。空気を含んだ柔らかさと光を反射して輝く銀色は正に極上の触り心地だ。

しかも小さな狼姿のシルバが紫色の瞳をきょとりと瞬かせる姿は愛らしいの一言に尽きる。

しかも小さいおかげで抱っこできる現在、シルバの毛並み全体を惜しむことなく堪能できる。

これから宿で寝る前にはこの姿になってもらおうと心の中で決意しつつ、聖歌は思う存分小さなシルバを愛で、もふもふタイムを満喫するのであった。



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