第24話 疲労困憊
I hope that this world will be peace world
どうか傷つけられた心が、身体が、少しでも早く癒されることを私は願うーー
魔物に襲われ、炎に焼かれた町に暖かな光と共に美しい歌声が響く。
いくら小さいと言えど、ここはライズ国の首都。昨日泊まったのはレイノルド王国の端にある小さな宿場町だ。比べるべくもなく、この街の方が領土は広く、大きい。
でもだからこそ、この村に残っている全ての人に届く様にと聖歌は声を張り上げる。
この歌はこの世界に来る前の作曲課題で出された平和をテーマにした歌だ。
サビの部分は全世界の人が解るようにと英語にしてある。
(そういえば、この世界の人に英語って伝わるのかな?)
曲の終わりにそんな事を考えながら、聖歌は閉じていた瞳を開いた。
気づくと町に残っていただろう全ての人が私の周りに集まり、何故かキラキラした目でこちらを見ていた。
(ど、どんな状況……?)
戸惑っていると、いきなり全員が跪き、ついには私に向かって拝むような姿勢を取りだした。
「女神様……!!」
「女神様だ!!」
「あぁ、ありがたや、ありがたや……」
(えぇえええ!?)
「え、えっ、何これ、シルバ、私が歌ってる間に何があったの!?」
「いや、特に変わったことは無かったが、主の旋律の魔法の作用で町に残っていた者達の傷は全て治癒されていった。まぁ殆ど瀕死だった者達まで全回復したようだがら、そのせいで救世主だとでも思われているのであろう。普通の人間の魔力量でこれ程の大人数を完璧に治癒するなど普通は有り得ぬ事だからな」
「えぇえ……何それ困る……」
「あと、今回の旋律の中には聞きなれぬ言葉も混ざっていたな?あれは何だ?聞きなれぬ言葉だったが……それが何かの呪文だと思われて、ここにいるもの達の誤解に拍車をかけているのかもしれぬ」
「わー……」
(間違いなく英語のことですね!!なんてこったい!!)
この世界に英語なんてないという事が発覚した瞬間である。まぁ、どの国に行っても言葉に困ることは無いのだと考えればある意味良い事なのかもしれないが……。
とりあえず、英語の歌は歌わないようにしようと聖歌は心の中で誓った。
(それにしても、どうするよ、この状況……)
未だに私に向かって拝んでいる人達をみている時、私達が入ってきた町の入口の方が何やら騒がしくなってきた。
「お兄ちゃーんっ!!!」
一人の少女が泣きそうな顔で走ってきたかと思うと、私の前にいた年若い少年に抱きついた。
よく見ると、その子は街道でシルバに怯えながらも兄が町に残って戦っていると教えてくれた女の子だ。
ということは、街道にいた人々が戻ってきたのだろう。
「リリ!!」
「良かった、お兄ちゃんが無事で……!!どこも痛くない?大丈夫?」
「ああ、危なかったけど、女神様が怪我を直してくださったんだ……!」
「女神様?」
話しながら、年若い青年が私を見るのに合わせて、リリと呼ばれた少女も私をみて、驚いたように目を見開いた。
そんな中、周りでも「あなた……!」「無事で良かった……!」といった風に夫婦や家族がお互いの無事を喜びあい、抱き合っている。そして会話をしながら、やはり同じ様に私に視線を向ける人々が増えていく。
一体、私にどうしろと言うのか……
私は集まる視線から目をそらし、夕焼けに染まる空を見ながら現実逃避をしようとしたが、
「セイカ、すまないが我は腹が減った。久しぶりに本気で走ったからな」
などとシルバが呑気に呟いたことで、それも出来なくなった。
「うん……でも、とりあえずは今夜泊まる宿があるかどうかの方が、問題だと思うよ……?」
そう言いながら周りの惨状を見やる。
そう、はっきりいって現実逃避している場合ではないのだ。
幾つか無事な建物も残っているとはいえ、殆どの建物は火災の影響で焼け崩れ、最早原型を保って無いものばかりだ。
「なんだ、そんな事か、我とお主がいるのだ。何も問題はあるまい」
そう言うと、シルバがニヤリと笑い、人間の姿を取ったかと思うと、空間から一冊の本を取り出し、「時魔法を使えば良い。大魔法を使った後だからな。お主の魔力量だけでは心配だが、足りない分は我の魔力で補えば何の問題もあるまい」と話した。
シルバが何を言っているかよくわからないが、初めて大きな魔法を連続て使用したり、魔物に遭遇したり、周りからの視線や誤解に困惑したりで、もう考える事も疲れていた。そう、疲れていたのだ。だから流れに身を任せようとしてしまっても何も悪くないはずだと、聖歌は渡された魔法書を言われるがままに開くのであった。
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