第18話 宿へ
歌い終わると同時に盛大な拍手に包まれた。
「凄い!」
「お姉さん、綺麗な声だね〜!」
「随分長い旋律だね?初めての見世物だけど、聴いていてとても気持ちよかったよ!!」
次々と浴びる絶賛の声が嬉しくて、歌い終わった直後の高揚感も相俟って頬が赤くなってしまう。
「あ、ありがとう……ございます……!」
褒められる事に慣れていないせいか、妙に気はずかしい。でも、嬉しくて頬がにやけるのを抑えられない。
「お金はこの大きな入れ物に入れれば良いのかい?」
優しい笑みを浮かべたお婆さんがギターのケースを指さして問いかけた。
「あ、はい、お願いします」
私が返事をすると同時に次々と周りにいた人々がお金を入れていき、時折感想を言ってくれる。
「とても楽しかったよ!」
「また聞かせてくださいっ!」
向けられる多くの笑顔に、私もいつの間にか笑顔で答えていた。
「ふー、ようやく落ち着いたね〜」
「大盛況だったな」
『
『愛の旋律だもの、当然だね!』
暫くして漸く大勢の人々が集まっていた噴水広場は元の人の流れに戻った。
シルバが褒めたのに続いて、何故か妖精たちが誇らしげな顔で続けて褒めてくれる。その様子が微笑ましくて、思わず笑ってしまう。
「ありがとうね、お陰で暫くお金には困らないで済みそう」
予想以上に集まったお金を見下ろす。……結構な量のこれは、もしかしなくても大金じゃなかろうか……。この世界の相場がわからない。後でシルバに聞くとしよう。
「……お金も手に入ったし、予定通り宿に向かおうか?」
私の言葉にシルバは頷く。妖精さん達は付いてこず、バイバイ!と手を振って姿を消してしまった。驚いて妖精達がいた空間を眺めていると、シルバが「妖精達は気まぐれな生き物だから気にするな。旋律を聴いて満足したのだろう」と言われた。
そして先ほどの宿に向かい、声をかけて驚いた。カウンターの奥からパタパタと走ってくる足音と共に現れたのは先程歌い終わってからお金をギターケースに入れて良いのか訪ねてきたお婆さんだった。
「おや! さっきのお嬢ちゃんじゃないか!」
偶然のことに驚いてるとお婆さんは安心させるように笑ってくれた。
「ウチに泊まってくれるのかい? 良いものを聴かせてもらったんだ、特別に安くしとくよ!」
「あ、ありがとうございます……」
少々照れながらもお礼を言い、頭を下げる。
「それにしても偉く顔の整った兄ちゃんを連れてるねえ。この辺じゃあまり見かけない毛色だけど、獣人かい?」
「……まぁ、そうだ。旅をしている」
「……ふうん。訳ありかい? まぁ、よくある事だ。深くは聞かないよ」
珍しげに私の後ろにいたシルバを見て声をかけるが、シルバはぶっきらぼうに返す。お婆さんの一瞬探るような視線に焦ったが、追求しないとの言葉に安心する。
カウンターで一泊の料金を先払いする。
諸々の説明を受け、鍵を渡された。少し悩んだけど、シルバは用心棒という事にして、二人で同じ部屋に泊まることにした。
「恋人かい?」とからかわれて真っ赤になってしまったのはここだけの秘密だ。
今晩の夜ご飯と明日の朝ごはんは無料で提供されるとのことに少し嬉しくなってしまった。
お婆さんにお礼を行ってからシルバと共に宿泊者向けの部屋がある二階に向かった。
「とりあえず、お腹空いたし一階に行く? あ、でも荷物どうしよ……。部屋に置いとくのは無用心かな?」
「それなのだが……セイカ、お主空間魔法は使えぬのか?」
「空間魔法?」
「うむ。それを使えば何時でも物を別の空間にしまったり、取り出したりする事が出来る。大切なものなら取られる心配もない。先程も大金を手に入れていたようだしな、使えるに越したことは無いだろう」
(そっそんな便利なものがあるとは!!!)
「えっ! ちょっ……! もっと早く教えてくれても良かったんじゃ……!? いや、でも聞かなかった私も悪い……かな? とりあえず教えてください!!」
「うむ……。とりあえず、こんな形だ」
そう言うと、シルバは突然手を空気に突っ込んだ・・・・・。
そう、手首から先が消えていてまるで別の空間に飲み込まれたような形になっている。
あまりのことにポカンとしていると。
徐に今度はその空間から手を引き抜いた。その手には先程まではなかった何かの書物を持っていた。
「どうだ、わかったか?」
「いや……全然解らないです」
とりあえず、シルバに魔法を教える才能がないという事だけはよく解った。
「ふむ……、やはりか、お主程の魔力があれば術式を読み取れる筈だが、まだ魔法自体を見慣れてないとなると仕方が無いのかもな。では後でこれを読むといい。今日の所はお主の荷物には保護結界を貼っておくから、とっとと飯を食って休め。我も腹が減った」
そう言ってシルバは先程空間から取り出した分厚い辞書のような本を私に渡した。
本には<特殊魔法・上級編>と書かれていた。
……いきなり上級と来た。やはり珍しい魔法なのだろう。しかしこれは助かる。城の書庫にあった魔法に関する本は本当に子供向けのような基礎用の物が一冊しかなかったのだ。
これは今夜寝る前にじっくり読むとしよう。
シルバにお礼を言って本を一度ベッドに置くとドアの前で待っていたシルバの元へ慌てて走り寄り一緒に一階の食堂へ向かった。
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