第17話 感謝と笑顔
不安だらけな世界の中でキミに出会えた
白銀色が光を浴びて、風邪に靡く
知識を生きる力を私にくれた
力も知恵もない私の味方になってくれたキミに何が出来るだろう?
どうかそばにいておくれ
キミが私の味方になってくれるなら私もそれに答えたい
紫水晶の瞳でこちらをみておくれ
キミに感謝を伝えたい
ありがとう
この世界でキミに会えたことが最大の喜びだーー
ガヤガヤと騒がしい街の大通り。
行き交う人々は今夜の夕食の材料を買ったり、必要な材料を探す人、道具を吟味する物や買い食いをしたり買い物を楽しむ者などでごった返していた。
「ん?」
「お姉ちゃんどうしたの?」
それ迄何時もと変わらぬ様子だった町中でふと何人かが立ち止まり顔を上げる。
「何か……聞こえないか?」
「声……旋律だな。なんか魔法でも使ってるのか?それにしちゃ嫌に長いが……この町で大魔法を使えるやつなんてそうそういないはずだが」
「魔法にしてはあまり呪文っぽくないわねぇ?」
「でもとても綺麗な声……」
「聴いてて、なんだか胸が暖かくなるね!」
「広場の方から聞こえるような」
「なぁ、行ってみようぜ!」
-シルバside-
セイカの声に聴き惚れる。声を出すにつれ、セイカは先程までの緊張が嘘だったかの様に声を張り上げる。目を閉じたまま、口元は笑みを浮かべ、楽しそうにギターの音を鳴らしながら旋律を紡ぐ。
我は、セイカの声は勿論好きだが、この、旋律を紡いでいる時の楽しくて気持ち良くてたまらないっといった様子を見るのが一等好きだ。風の森で紡いでいた時も、紡いでいる間セイカの感情に呼応して風が、空気が優しいものへと変わっていった。精霊は目に見えぬモノの感情すら感じ取れる生き物だ。彼女の旋律を奏でる声を中心に空気は澄んでいき、愛娘の感情は周りに伝播していく。
セイカは旋律を"ウタ"と言っていた。"ウタ"は不思議だ。風の森で聞いた時よりもっとずっとウタ声が我を優しく包んでくれているような気がする。これが、我の気のせいでなく、セイカの感情に起因したものであるとしたらこれ以上幸せなことは無い。
不意にセイカが歌い出してから初めてその目を開いて我に視線を向けた。我がセイカを見つめているのに気付くと瞳を嬉しげに細め、笑みを浮かべた。
そのセイカの表情を見た時、我の胸の中に今迄生きてきた中で感じたことのない不思議な心地を覚えた。
胸がぽかぽかと暖かくなるような、不思議な感覚。その瞬間、我は何故か目の前の少女が愛しくてたまらないという気持ちに駆られた。我々精霊にとっては愛娘に対して自然と愛しさを覚えるものだが、それとはまた別のこの気持ちは愛娘に対してではなくセイカに対して生まれたものだと自然と我は理解していた。
side 聖歌
どれくらい時が経ったのだろう。シルバへの感謝を胸に浮かんだメロディーにのせて歌い上げる。まだ出会って1日での出会いの瞬間からを思い起こす。そう、たった数時間一緒にいただけなのにまるで長い間一緒にいたかのような暖かい気持ちが彼への感謝の思いと共に胸に溢れ出る。
(ねぇ、シルバ、聴こえてる?)
少しでも私の感謝の気持ちが届いていると良いと思いながらふと目を開くすると不思議なことに直ぐに視界にシルバの姿を捉えることが出来た。それがなんだか嬉しくて、優しくこちらを見つめてくれる彼に微笑み返す。すると何故かシルバは驚いたような顔をした。それがまた可笑しくて、私は笑顔になってしまう。ああ、この世界に来てから不安しかなかったけれど、彼と会えて本当に良かった。
何故だかはわからない。けれど初めて会った時からシルバの事は無条件に信じることが出来た。
今ならこの世界に来たのはシルバに会うためだと言われても納得してしまうかも知れない。
私を見守るような視線を向けてくれる彼と一緒にいればこの先も大丈夫だと不思議な安心感が心を満たす。
ふと、シルバから視線を離すと、やけに人が多い事に気付く。
そして思わずぎょっとしてしまう。
(えっ……ちょ、多い!!?)
何故目を開けた時に直ぐに気が付かなかったのか。いつの間にか聖歌の周りには大勢の人々が集まり、噴水の辺りは人垣で埋め尽くされていた。だが、その誰もが笑顔で嬉しそうに聖歌の歌を聴いている。
聖歌はその光景に驚いたが、それ以上に歓喜にも似た感情が心の中に湧き出た。
私の歌を聴いて、こんなにも多くの人が幸せそうな、楽しそうな表情を見せてくれている。
(なんて、幸せな光景だろう)
この数年は人前で歌おうとすると真っ赤になってしまって声はでず、録に歌うことも出来なかった。久しく見ていなかった光景。だが、目の前のコレは、きっと今迄の人生でも一番多くの人を楽しませている事がわかるものだ。
聖歌は、もう、多くの人に見られていると解っても緊張や不安を覚える事はなかった。
だって勿体ない。
こんなにも沢山の人が私の歌を聴いて喜んでくれているのだ。
(だったら、一緒に楽しまなきゃ、勿体ない!!)
歌は常に変化する。毎回全く同じ様に歌うなんて不可能だ。だからこそ、共有できる瞬間も一時しかない。
今、この場で聖歌の歌を聴いて笑顔になってくれている人達。彼等にもっと楽しんで欲しいと聖歌は立ち上がってギターを掲げ、さらに大きな声で歌い始める。
何処からか歓声が上がり、自然と手拍子が起こり始めた。
聖歌は表情が笑顔になるのを止められなかった。
多くの笑顔に囲まれて、聖歌はこの時初めて、自分がこの世界に受け入れられた気がした。
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