第14話 新たな仲間と共に



『では……、聖歌さんはこれからキルヒェンリートにいる友人を助けることを目的としていくという事でよろしいかしら?』


「はい。あの、もしよろしかったら助言して頂けませんか?私はこの世界について知らないことがまだまだ沢山ありますし、どんな方法を取れば良いのかもわかりません。皆を助ける為にこれから何をしたらいいのか、教えて下さい。お願いします!」


このままキルヒェンリート王国に戻っても捕まるのがオチだし、無謀な方法なのは明らかだ。愛娘の力を使おうにもその力の事を完全に理解出来ていない上、使いこなす自信もまだない。するとシルバが私に質問してきた。


「セイカ、お主は確かこれから北西の地へ向かうのではなかったか?」


(あ、そう言えば……そんな話をしたような。でも.今は皆を助けることが最優先だし……!)


「待て、我はただ確認をしただけだ。それに、北西の土地に行くのなら寧ろ丁度良いと思うぞ」


私の心の中の葛藤を悟ったのか、シルバが慌てて言葉を紡ぐ。

その言葉に疑問を浮かべていると、シルバがアネモス様に意味ありげに目配せをした。

その視線にアネモス様が成程と言った顔をした。


『確かに、北西の地にはこの世界で一番強い力を持った最強と名高い種族が収めている国があります。その国に赴いて助力をお願いするのが一番手っ取り早いかもしれませんね。しかも神の愛娘の直々のお願いとあれば、断る者はまずいないでしょう』


「最強の種族……ですか?」


私の言葉にアネモス様は微笑んだ。


「龍族ですよ、聖歌。彼らは妖精を覗いた種族の中で最も魔力の保有量が多く、総合的な身体能力も高く、その知力も私達神にも引けを取らないでしょう。特に当代の王は賢王であることで有名です。その息子も既に王に代わって政治を任される事が度々あると言うことから能力の高さが伺えます。それに、彼らは私達と同じくらい長寿な一族……。聖歌の求めている帰る方法についても、もしかしたら何か知っているかも知れません」


「!!」


その言葉に聖歌は思わず興奮してしまう。これはもう、決まりだ。そこに行くしか無いだろう。


「あの、その国の名前はなんというのですか?」


『龍王国……正式にはラスタバン龍王国、ですね。その様子だと直ぐにその国に向かうのですか?』


「はい……。キルヒェンリート王国ではかなりの人数の兵士が本格的な準備を進めているように見えました。戦争も、時間の問題だと思います……今は、一刻も無駄には出来ません」


『成程……。それなら別れは惜しいですが、引き留める訳には行きませんね』


「アネモス様」


不意に、シルバがアネモス様に向き直り、紫水晶の瞳を真っ直ぐに向ける。何か話そうとしているのはわかるのだが、躊躇したように口篭っている。

その様子にアネモス様がふふっと笑った。


『シルバ。何も遠慮することはないのですよ?我々精霊族は自由な種族……やりたい事が出来たのなら、貴方の好きにしなさい。何時までも私の傍にいる必要などないのですから。寧ろ、本来ならこの森は私だけの力で守らねばいけないところを長い間助けて貰ってばかりいました……。感謝しています。それに何より、貴方はこの森を救おうと真っ先に愛娘に助けを求め、行動してくれました。本当に有難う』


シルバはアネモス様の言葉に感極まった様な表情になり、頭を下げた。


「長い間……お世話になりました。暫らく貴方様の元を離れること、お許しください。それでもこのシルバ、何時か必ず、アネモス様の元に戻ります」


いきなりの言葉に私は慌てるばかりだ。何故シルバはいきなりこんな事を言っているのだ?アネモス様の元を離れる?シルバはアネモス様に仕えてるんだよね?疑問ばかりだ。

混乱していると今度はシルバは私の方に向き直り、真っ直ぐこちらを見てきた。突然の事に私も慌てて姿勢を正す。


「セイカ。我はお主と共に行く。お主はこの森を救ってくれた。その礼として、これから我にお主の事を護らせて欲しいのだ」


(……ん? ……んんんん??)


「ふぇ!?」


何を言われたのか解らず、暫らく無言で首を傾げるばかりだったが、理解したと同時に驚きで変な声を出してしまった。

そんな私の反応を不安に思ったのか、シルバはなおも言葉を続ける。


「だ、駄目か?言っては何だが、最高位精霊である我と共にいれば余程の事でもない限り、命が危険にさらされることなど有り得ぬし、移動も速く済む。それにお主はまだこの世界には詳しくないのだから、誰か頼れる者が傍にいた方が良い。そして何より、我がお主と共に行きたいのだ」


「えっ、え、いや、私としては願ってもない、かなり嬉しい事だし、凄く助かるよ!!で、でもいいの?これまでずっとアネモス様に仕えていたんでしょ?そんな急に……」


『気になさらないで下さい。先程貴方も見ていたとおりです。元々この森には最高位精霊が集まり過ぎなのです。シルバ一人いなくなっても何の問題もありません。それに何より彼自身が貴方と行く事を望んで居るのですから。引き止める方が無粋というものでしょう?』


アネモス様はコロコロと笑うばかりだ。

シルバは黙って未だに不安そうな瞳でこちらを見ている。

あぁ、やめてくれ。私はそういった目に弱いのだ。

しかもそれが大好きな狼の姿とくれば、逆らう手立てなどない。


「シルバ……じゃあ、私と一緒に、来てくれる?」


困ったように笑って言う私にシルバは途端に嬉しそうに尻尾をぶんぶんと振った。


「勿論だ!これからも宜しく頼む。セイカ」


「有難う。こちらこそ、改めて宜しくね、シルバ」


こうして、私はアネモス様や周りの精霊達にお礼と別れを告げると、シルバという頼もしい仲間と共に一路、ラスタバン龍王国へと向けてまた森の中を走り抜けるのだった。



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