第4話 異世界と"歌"



図書館に篭り情報を集めだしてから三日後、あれから毎日図書室に篭もり続けたお陰で聖歌は漸くこの世界における一般知識と現在いる国について知る事ができた。


まず驚いたのはこの世界には人間以外にも色んな種族が存在している事だ。

大まかに分けると、代表的なものだと人間、獣族、精霊属が存在する。あとは伝承をみると魔族とやらも存在するようだが、精霊が魔に染まった姿が魔族だったりと色んな説明があってよく分からなかった……。簡単に言うと精霊と魔族は前の世界で考えるところの悪魔と天使みたいなものだと思う。例えるなら天使が堕天すると悪魔になるような感じのニュアンスだろうか。つまり精霊と悪魔は限りなく近い存在だと考えられる。


生き物としては動物も普通に存在する。図鑑を少し見たところ、少しの違いはあれど、殆ど見たことあるような生き物が多く見受けられたので安心した。

けど、獣族は人間の姿の時は動物の特長……簡単に言えば耳や尻尾が見られ、動物の姿に変化することも出来るらしい。正直物凄く興味がある……。動物好きな私としては是非仲良くなりたいものだ。

気を付けなけらばいけないのは、精霊や魔族だ。この種族は人間と同じような姿をしたものもいれば、いかにも精霊といった小人のような姿で飛んでいる者もいるし、動物のような姿をしているものまで姿は多岐に渡っていた。これは外出して実際に見なければわからないだろう。


そして世界地図を探したのだが、今いる中央大陸を中心にいくつかの島々が書いてあるものしか見つからなかった。この世界がどのくらい広いのかはわからないけれど、日本にいた頃も海外には数えるほどしか行ったことがなかった私にとってはあまり問題はないだろう。それにこの世界はおそらく元の世界ほど科学等が発達しているとは考えられないことを省みると仕方ないことかもしれない。

中央大陸は最も大きい大陸で、大陸中央を通って東西南北に線が引かれるように森や山岳が大陸の端まで続いていた。

地図では左下、南西には主に人間が住む大小様々な国が存在しており、今私がいるのは西に広がる森と隣接している大国、キルヒェンリート王国であるようだった。

この森を超えた北西には人間と獣族、精霊族などどの種族も分け隔てなく暮らす国々が広がっており、大陸の大部分を占めているようだった。そして北東には妖精族を中心とした国々、南東には獣族を中心した国々が広がっているようであった。


不思議なのは北西の国のみが種族関係なく暮らしているのに比べて他の地域は綺麗に種族事に分かれて暮らしている事だ。

そこで歴史書などを色々調べてわかったのは、この世界では昔から基本的には種族間で戦争が行われていた事。そして戦争を終わらせるために種族によって住む地域を綺麗にわけたこと。

だが中には種族間を超えて共に生きたいと考える者も多くいた事から、当時、最も強い力を持っていた龍族が北西の国を収め、そこに種族関係なく暮らせる国を作ったことで、このような地図が出来たらしい。

というか龍が存在することにまず驚いた。流石は異世界、ファンタジーだ……、いや、精霊とか獣族も充分ファンタジーだけど。龍族は獣族に含まれると考えていいのだろうか……?それとも別物の少数種族と考えるべきなのか??わからん。


そしてこの世界には魔法が存在すること。

そしてこれは王子が言っていた通り、呪文と旋律、又は魔法陣などの図形によって発動すること。

日常生活で使うような小さな魔法は殆ど呪文のみで構成されているようだった。大規模なもの程長い呪文と旋律や大きな陣を必要とすると説明されていたが、つまり前者は簡単に言うと歌みたいなものだろう。

歌を生活に必要な魔法を使うための手段に使うのは、何だか変な気分だ。

歌や音楽が好きな私にとっては何だかあまり納得いかないというか、違和感が拭えない。

これじゃあまるでこの世界では歌が道具の1つになってしまっているような気がする。

私にとっての夢の1つである大切で大好きな歌が、魔法を使う為の手段のようになっているのはあまり好きになれない。

私にとって、歌や音楽は人を幸せな気持ちににしてくれるものだ。


(いや、でも待てよ……?考え方を変えればこの世界では歌が生活に浸透しているとも考えられるのか……?)


「うーむ、わからん……」


「あら、何がわからないの?」


今日も図書室に篭り本と向き合う聖歌が思わずあげた声に、もはや顔馴染みとなった司書の女性が声をかけてくれた。


「あ!あの、ここの魔法の発動についての説明なんですけど……」


聖歌はチャンスとばかりに質問した。読んでもわからないことは、実際にこの世界で暮らしている人に聞いてみれば良いのだ!


「小規模以上の魔法の発動に使う呪文と旋律って、つまりは歌みたいものでしょうか?」


「"歌"?なーに、それ?」


「へっ?」


思わず間抜けな声が出た。いや、でも仕方ない。彼女が何を言っているのかわからない。


「えっ、いや、歌は歌ですけど……?」


「うーん?ごめんなさい、まずその"歌"という物が何なのかわからないわ……」


そんな馬鹿なと暫く会話を続けて漸くわかったことがある。

この世界には歌という概念が存在しない。

この世界における歌はやはり昔から魔法を使うための道具だった為に、そういった文化として発展しなかったのだ。なんてことだ……。嘆かわしいことこの上ない。


(確かに文書を見ても呪文と旋律とは書かれているけど"歌"って文字は見つからないし、初日の王子の説明でもニュアンス的に私がそう受け取っただけで、"歌"とは言ってなかったな……)


この世界には"歌"というものが存在しない。


「嘘でしょ……?」


異世界に来て四日目。

この世界は私にとっての人生の大部分を締めてきた"歌"が存在しない世界だと言うことが判明した。


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