第3話 お城へ
城に着くと同時に聖歌達はいきなり国王のいる大広間へと連れて行かれた。
舞踏会でも開かれる様な煌びやかな大広間。
長く続く階段の上の壇上の中央に置かれた派手過ぎる豪奢な椅子に如何にも国王ですと言ったような髭を蓄えた王子とやらに似た顔の綺麗な顔をした男性が座っていた。
「その子供達が異世界から召喚した姫巫女か……。しかし姫巫女は1人の筈。それに見た所男もいるようだが、どういう事か?」
「父上、伝説によると姫巫女はとても整った容姿をしているとのこと。おそらくこちらの少女がその姫巫女であり、他の者達は召喚した際に彼女の傍にいた為に一緒にこちらの世界に来てしまったのだと考えられます」
やはりというかなんというか、予想通り王子はリオーネを立たせながら彼女がその姫巫女とやらであると説明をしていた。
聖歌はつい癖で下を向いて顔を見せないようにしていたが、余りに予想通りの展開に嫌な予感しか感じない。
国王と王子の会話が暫く続いた後、やはりリオーネが姫巫女であるという結論に至ったのか、暫して謁見の間を退出する。
部屋に案内される途中、予想はつくものの、一縷の望みをかけて聖歌は質問した。
「あの、お話から察するにリオーネ様が貴方達の目的の姫巫女なんですよね?だったら巻き込まれた人間はこの国にとって不要の筈ですので、元の世界に帰して貰うことはできないのですか?」
「残念だが、この世界では召喚の方法はあっても元の国へ返す方法は存在していない。俺の知る限りはな。まず召喚方法自体が我が国の秘宝魔術である」
ずっと黙っていた聖歌が急に質問をしてきた事に少々怪訝な顔を向けながらも王子は質問に答えてくれた。
先程からリオーネに熱心に話しかけているのをみてる限り随分な対応の差である。
しかしやはり帰る方法はないのか……予想はしていたが気分が落ち込む。だが王子の言葉に反応したのは聖歌だけではなかった。
「えっ!? 元の世界に帰れないんですか!?」
「嘘だろ!?」
「勝手に呼び出しといてそりゃねえだろ!!」
「そんな……家に帰りたいよ……」
状況が呑み込めず流れに身を任せていたリオーネの取り巻きの達は帰れないことを知った途端に一斉に喚き出した。
「あの、私達はまだ知らないことばかりです。そもそも召喚された理由も告げられていません。詳しく説明して下さいませんか?」
リオーネのその言葉に王子は一度リオーネの部屋に全員を案内し、そこで説明を始めた。
曰く、この世界には魔法が存在する。
その魔法は小さなものなら呪文で済むが、大きな魔法程長い旋律を必要とする。そう、旋律である。つまりこの世界の魔法は歌によって発動するのだ。
姫巫女とはこの世界での伝説の存在であり、どんな魔法も使いこなす事が出来る存在である。彼女の魔法はこの世界に幸福をもたらすとされているらしい。
近年この国では作物が育たず、食料危機に陥っていた。その為、もはや伝説とされていた魔法で今回姫巫女を召喚したらしい。
そういった事情を王子は説明してくれた。
説明の最後の方で召喚してしまったものは仕方ないから暫くは聖歌達もこの城で保護してくれるとは言ってくれた。しかし、暫くということはいずれは自分の力で生きていかなければならないという事だ。
とりあえず、今日はもう遅いからと説明は打ち切られ、それぞれの部屋に案内された。
リオーネの部屋はまさにお姫様が住むような豪華でとても広い部屋だったが、聖歌達に案内されたのはリオーネには劣るものの、本来なら他国から来た客が泊まる時に使う部屋だった。聖歌からみたらそれでも充分豪華に感じたが。明日からの日々に不安を覚えながらも、ベットに横になると突然すぎる出来事に身体は疲れを感じていたのか、直ぐに眠りに落ちた。
翌日、リオーネとその取り巻きと聖歌を連れて王子は城内を簡単に案内してくれた。
だが、その案内の中で聖歌は既に王子の話や説明に不信感を覚え始めていた。
第一に王子は召喚の理由を食料危機と言っていたが、それにしては今朝の朝食は随分と豪勢なものだった。リオーネ達と一緒に食事をとりながら今日はこの国について説明しながら城内を案内すると話していた王子だが、やはりリオーネとそれ以外に対しての扱いには随分と差が見受けられた。
というより、リオーネに対してだけ特別扱いしすぎなのだ。やけに手を貸そうとしたり話しかけたりして、気を引こうとしているのが丸わかりだ。一番最初にリオーネを見た時の反応からしても彼がリオーネに好意を抱いているというのは一目瞭然だが、リオーネは彼の態度に戸惑いしか覚えていないように見える。それに比べて聖歌や他の取り巻きのの質問には随分適当な言葉が返されているように感じた。
聖歌はその時点で王子の話を鵜呑みにするのは危険だと思い、それ以外のところから情報を得ることを密かに心の中で決意していた。
城内の案内が終わり、またそれぞれの部屋に案内される途中で必要な物があれば可能な限り用意するし、城内の中であればある程度なら自由に出歩いて良いと説明された。といっても主にリオーネに対してだが。一応私達に対しても言ってくれた言葉であると信じたい。というかそうじゃないと困る。
リオーネの部屋の前で解散となったので、聖歌は1度部屋に戻って筆記用具とノート、そして携帯を持ってすぐ様ある場所へ向かった。
聖歌が向かったのは今日案内された施設のうちの一つ、城内にある立派な図書室だ。まあ規模から考えると図書室というよりもはや図書館と言った感じだが。
受付の人にこの国について知る為に本を読みたいと説明した所、今日の昼間に案内されている様子を見かけていたからか随分丁寧に対応してくれた。話を聞くに、既に城内ではリオーネ達の話で持ちきりらしい。まぁ王子の話からすると国待望の巫女姫が召喚されたというのだから当たり前といえば当たり前なのかもしれないが。
「さて……っと」
親切な受付のお姉さんが勧めてくれた数冊の本を前に私は気合いを入れた。
王子の話を鵜呑みに出来ない以上、知りたいことは自分で調べるしかない。文字が読めないかもしれないという不安は、召喚者の特典なのか、本を開くと見覚えのない文字なのに理解出来るという不思議現象が起きたので問題はなかった。表紙の文字も見覚えのないものだったが、不思議となんと書かれているのか理解する事ができる。なんとも妙な気分である。この様子だとこの国の言葉も本当は日本語とは別の言語で、文字と同じく不思議現象によって聖歌達の耳には日本語に聞こえているだけという可能性が高い。
(でも、お陰でこの世界で生きていくのに言語の心配はないってわかっただけでも充分な収穫と言えるかもしれないわね)
聖歌はこの日は夕食の時間まで図書室に篭ってこの世界について調べ続けた。
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