第2話 見知らぬ森の中
余りに強い光に思わず目を閉じた時、一瞬浮遊感を感じた。
不思議に思い、目を開くとー、そこは知らない森の中だった。
おかしい。先程まで校門の前に居たはずだ。
混乱している聖歌の横で誰かが大きな声をあげた。
「ちょっ……ちょっと!何処よここ!?」
横を見ると、聖歌以外にもリオーネとその取り巻き……男子2人と女子2人が同じように森の中に立っていた。
「さっきまで学校の前にいた筈だよな……?」
大きな声を上げたのは取り巻きの1人だったようで、同じように皆動揺していた。
「落ち着いて。とりあえず、皆怪我はない?」
こんな混乱した状況の中でも、リオーネはすぐ様周囲の確認をして、全員の無事を確認していた。
流石だ。人気者な彼女はいつも輪の中心にいて、リーダーシップもあった。その能力はこんな時でも生かされるのかと聖歌は状況を忘れて感心してしまった。
だが、先程まで校門にいたのになぜこんな鬱蒼とした森の中にいるのか。
生えてる植物の中には見たこともないものがあることから、日本である可能性も低い。原因……というより、怪しいのはここに飛ばされる瞬間に見た光る魔法陣だ。それ以外心あたりはない。
その時、同じ高校に通う絵画科所属の親友の言葉が過ぎった。
(まさかとは思うけど……もしかしてこれって異世界トリップってやつ……?)
嫌な予感かひしひしとする。
親友の絵里香は漫画家を目指していて、絵画科で漫画部門を受けていた。その影響で本人も漫画やアニメが大好きで、聖歌にも良くオススメをしたり今ハマっている作品について語り……よく話して聞かせてくれる事が多かったのだ。その影響で聖歌もたまに漫画を読んでいたりする。飛ばされる直前に見た謎の文様を魔法陣だと思ったのもその漫画の影響だったりする。
でも、あれはフィクションの世界の話。だがこれは、現実である。
「桐谷さんも。怪我はない?」
考え込んでいる聖歌にもリオーネは声をかけてきた。驚いて顔を見ると、彼女の顔からは本当に聖歌の事も心配してくれているのがみてとれた。
てっきり嫌われていると思っていた聖歌は彼女の行動に驚いてしまった。下手するとこんな所に飛ばされた事と同じぐらい驚いて、そっちに動揺してしまう。
「えっ、あ、うん……大丈夫。リオーネ……さんも大丈夫?」
「ええ。でもこの状況をみるに……問題が無いとは言いきれないわね」
彼女の言う通りだ。原因も何もわからない状況、聖歌とリオーネを含めた学生6人が突然人気のない森の中に放り込まれてしまったのだ。帰りがけだったことから飛ばされる瞬間に持っていた荷物はあったが、こんな森の中で役に立つものもないだろう。それに聖歌は家で練習しようとクラシックギターも持っていた。森の中を移動するにしても何処へ向かえばいいかわからないし、エレキ等ならまだしも、いくらか嵩張るクラシックギターのような荷物を持って歩いて行くのは大変そうだった。
だが、聖歌にとってこのギターは5歳の誕生日に父が買ってくれた宝物だ。置いていく事だけは絶対したくない。聖歌は強くギターケースを抱きしめた。
その時、遠くから何かがこちらに向かってくる音が聞こえた。
カッカッカッカッ……
段々近づいてくるその音の方向をみると遠くから馬に乗った数人の人間がこちらに向かってくるのがみえた。
(良かった……!人がいる……!!)
「良かった!王子!無事に発見しました!」
先行していた1人の中世ヨーロッパの騎士のような格好をした男が近くで馬をとめたと思ったら後ろの集団の中心にいた男に声をかけた。
(っていうか……王子って……)
いつしか絵里香に借りた漫画のストーリーが聖歌の頭を過ぎる。
「ん……?おかしいな。召喚したのは巫女姫1人の筈だぞ?」
先程の騎士よりも煌びやかな格好をした金髪に近いほど明るい茶髪の美男子がこちらをみて不思議そうに首を傾げた。
だが、聖歌は目の前の美男子よりも、彼が発した"召喚"の二文字に衝撃を受けていた。
ああ、やはりこれは異世界トリップというやつに間違いないのだとーー
男はさっと聖歌達6人に視線を向けたかと思うと、中心にいたリオーネを見て動きを止めた。
「美しい……」
彼の初した在り来りな言葉にこの先の展開が読めてきて、聖歌は頭が痛くなってきた。因みに言うと聖歌もかなりの美人の部類に入ったりする。イギリス人の叔母を持つ聖歌は綺麗な黒髪と白い肌、そして青い瞳を持っていた。しかし目立つのが嫌いな聖歌は高校ではカラーコンタクトをして目の色を黒く変えていた。更にこの時はギターケースを抱えて殆ど顔を隠していた為に、取り巻きの何人かと同じ黒髪であった聖歌は王子の視界には入らなかったのだろう。
(まあ、状況からみてもリオーネ様がそのなんとか姫とかいう奴で間違いないのは確かだな)
女優を母に持つリオーネは群を抜いて容姿が整っていた。輝く金髪と金目はこの黒髪や茶髪の生徒の中ではやはり一層目を引くだろう。幼い頃人と違う目の色が原因で虐めを受けていた聖歌は以降無意識に顔を隠すようになってしまった。カラーコンタクトをつけてからもそれは変わらず、人前で緊張してしまうことの原因の1つでもある。
その為、聖歌には自分の容姿に関しては全くの自覚がなかった。
リオーネの取り巻きが聖歌に向ける妬みの目にはその容姿に対してのものも少なからずあるにはあるのだが、聖歌がそれを知る筈もない。
「えっ、何?この人達、コスプレ?」
「……てゆーかいま、王子とか言ってなかった?」
リオーネの取り巻きの生徒達も森の中に飛ばされた状況には慣れてきたものの、新たな展開について行けず混乱したままだ。
「もうすぐ陽が暮れる……とりあえずここにいるもの達を全員連れて、城に帰還するぞ!」
その王子の言葉により、丁度王子を含めて6人の騎士が来ていたため、1人ずつ騎士と共に馬にのせてもらうことになった。因みにリオーネは当然のように王子の馬に乗せられていた。
これからのことを考えると痛む頭を抱えながらも、聖歌達一行は無事に森を抜け、城に向かうのだった。
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