【恋愛】「曇天」「引き金」「零れる」

「お前のこと、そういう目で見られない」


 困惑しながらも示された拒絶の意志。

 半ば予想していたとはいえ、いざ浴びせられると情けないほど身体が震えた。

 だから咄嗟に笑ってごまかすしかなくて、

「そうだよね~。ちょっと言ってみただけ!気にしないで!」

 心にもない言葉で本音を覆い隠した。

 軽い口調の裏に潜む特別な感情に蓋をし、揺らぎかけた空気を取り繕って先ほどの応酬をなかったことにする。

 その努力を読み取ったのかそうでないのか、あからさまにほっとした様子で「びっくりさせるなよ」と落ち着きを取り戻した。


 今日もまた繰り返す。

 自分で自分の気持ちを殺して、真剣に想っていることを否定する。

 何度も何度も繰り返す。

 誰よりも自分自身が認めたいと思っているのに、生まれ出た自然な想いを黒く塗り潰していく。


 また明日、と声を挨拶し合って別れた。

 見上げると、今にも雨が降り出しそうな曇天が広がっている。

 この先の天気を予想して足を速めるものの、いくらも経たないうちにぽつり、ぽつりと水滴が顔を叩き落ちていった。

「どうして……」

 それが引き金となり、目の奥から熱いものが込み上げてくる。

 恋しい人には、どうしたって友達以上に思ってもらえない。

 何を言っても、何をしても、伸ばした手が届くことはない。

 それでも溢れてくるものを、いつまで打ち消していけば良いのだろう。

 傍にいるために、あとどれだけ心を偽っていれば良いのだろう。

 他の誰でもない自分が決めたことなのに、こんなに胸が痛むのは、


「好きだからだよ……っ」


 絞り出した声も、零れる涙も、全て雨の中へと溶けていった。

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