【異世界FT】「橙色」「ブルーベリー」「図書室」
木漏れ日の降り注ぐ昼下がり、城の外庭で図書室から借りてきた恋愛小説を読む少女がいた。
緩く巻かれた白金の髪は豊かに波打ち、時折悪戯なそよ風に弄ばれる。
宝玉のような瞳は碧で、ゆっくりと文字を追うに沿って長い睫毛がその輝きを覆い隠す。
何も塗っておらずとも瑞々しさを放つ唇は、心地良さげに弧を描いていた。
「お嬢様、お待たせいたしました」
そこに、ワゴンを押しながらやってくる青年の姿があった。
すらりと伸びた背に燕尾服がよく似合っており、所作も洗練されている。
青年は慣れた動作で準備を行い、少女の眼前には、瞬く間に一枚の絵のようなセットが出来上がった。
「今日のおやつは何かしら?」
「プレーンのスコーンとダージリンティーでございます。ジャムはラズベリー、ブルーベリー、ブラックベリーと各種揃えております」
「まあ、どのジャムにするか迷ってしまいそう。見ても食べても楽しめるなんて、さすが私の執事ね」
「恐れ入ります」
少女が完璧に整えられたティータイムに満足していると、はらりと木から落ちた葉がテーブルに乗った。
「これは…大変失礼いたしました」
「いいのよ。橙色に染まりきってしまったのね。もうすぐ冬がやってくるわ」
綺麗に色づいた葉をつまみ、青年を見上げながら差し出す。
「あなたと出会った、季節だわ……」
決して色褪せない過去の出会いを思い返しながら、青年は黙って少女からの贈り物を受け取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます