【コメディ】「地獄」「幻」「伝説の大学」
「あ、やっと来た!おそーい!」
「皆あなたのこと待ってたのよ」
「この料理、参加者全員で協力して作ったんだよ~。全部食べてね」
「ほら、主役は前に行って!」
中に入った瞬間から、待っていた女の子達が入れ替わり立ち替わりやってきては声をかけてくる。
誕生日? ○月○日だけど。以前ぽろっとこぼしたのを聞き留めた誰かが計画したのだろう。大学の講堂を貸し切って盛大なパーティーが催されようとしていた。
容姿端麗。頭脳明晰。その上運動神経も悪くない。
神が齎した才能を余すことなく発揮し、学力最高峰の大学に入学してトップに立ち続けている男。それが俺だ。
常に頂点に君臨している人間を注目しない者はなく、誰もが近づき、畏れ敬い、憧れた。
特に女子達は顕著で、まず外見に食いつき、次に蓄積された知識を開示する機会を目の当たりにすると、蜜に吸い寄せられる蝶のように群がってきた。
その結果、学内中の女子を侍らせ、貢がれ、愛の言葉を囁かれるようになり、後世では伝説と呼ばれるに値するであろうハーレム大学を築き上げたのだ。
最早周囲に敵はいない。女子は俺を持ち上げ、男共はそのおこぼれに
天が二物を与えた俺にとっては当然の展開だ。だが、皆が自分のために尽くしてくれる姿を見るとやはり歓喜も沸き上がってくる。
俺は前方にある講壇に立ち、設置されていたマイクのスイッチを入れた。
「皆、今日は俺のために集まってくれてありがとう。今日は俺の二十歳の……」
「いつまで寝てるの!早く起きなさい!今日試験なんでしょ!?」
母親の怒鳴り声で華々しい夢は破られ、ベッドから飛び起きた。
一呼吸置いて言葉の意味を理解すると、ぐるりと首を回してヘッドボードにある目覚まし時計を見やる。
針が指し示していたのは、本日受験予定である本命大学の入試開始時間だった。
呼吸が止まる。思考が停止する。頭の中が真っ白になり、前日まで覚えていた数式も構文も一切合財掻き消えた。
──刹那、耳をつんざくような絶叫が俺の喉から迸った。
嗚呼。
この世は、地獄だ。
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