025〜030

026「いい靴をあなたへ」/深水千世さん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894252376


 やられました……!

 まんまと。

 第三話のかなり終盤まで、どこにミステリ要素が? 甘い恋愛じゃないですか? と思っていた自分が甘かった。


 コンパクトに、淡々と、鮮やかな怒涛のラスト。

 思わず頭に戻って、二度読みしました。


 お見事でした。



 淡々とした地の文が、また一層ラストを際立たせていて、とても雰囲気がいいんです。

 雨に濡れるロンドンの街並みの、石畳に響くヒールの足音。腕のいい靴職人の、こぢんまりとしたこだわりの店と、燻らす煙草、万年筆で綴る熱い想いの籠もった手紙。

 映像化してほしいです。白黒映画とか、セピア色のドラマとか、無音声映画もいいですね。


 個人的に、一度出てきた比喩描写をラストで繰り返すあの手法が大好きで、鳥肌立ちます。

 よく読めば、ちらほら出てるんですよ、伏線。いやー、見えてたのに! 気づけなかった! 悔しい!

 本当はネタバレ丸出しで頭からじっくり伏線の分析をしたいくらいですが、さすがにここでは憚られるので、そっと胸に秘めつつ、もう一回読んで密かに楽しむことにします。


 結末を知らずに読めばおもしろい。知って読んでもまた楽しい。


 一粒で、二度おいしい小説。

 上質で上品、かつ、エグい。

 とてもおもしろかったです。

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