10.橋姫『平家物語』「剣巻」

 今回は、現在の宇治の橋姫イメージを形作った、平家物語「剣巻」を読んでいきます。

 前回とは大きく異なり、今回の橋姫は完全な嫉妬の鬼です。頭の輪に火をつけた典型的な「丑の刻参り」の姿は、この話を土台にした室町時代の能楽「鉄輪」を中心に広まっていきます 。


 「剣巻」は平家物語の中でも位置づけが特殊な話で、伝わった系統によって載っていなかったり載っていたり別冊になっていたりします 。

頼光四天王の渡辺綱を筆頭に、陰陽師安倍晴明、鬼の住処「大江山」など、ザ・平安な舞台設定で、キャラクター性の強い話と言えるでしょう。


 鬼に変えてもらう前から、姿を見ただけで人が耐えられない。嫉妬に沈んだ人間は神の手を加えずとも、もはや鬼である、ということかもしれませんね。結局橋姫は倒されず、切った腕を処理するのすら大変。嫉妬の鬼はもはや仏法でも成仏させられない、実に御しがたい存在と捉えられていた のでしょうか。


(現代語訳・古文に続く)

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