8.貧乏神『日本永代蔵』「祈る印の神の折敷」
今回は、今や日本で一番の知名度を誇る神様かもしれない、様々な創作で用いられる「貧乏神」です。
貧乏神は江戸時代の前ごろから描かれるようになりました。
七福神をはじめとする福の神が歓迎されるのと対をなす、追い払われる「厄」の存在は鬼が代表的でしたが、徐々に貧乏そのものを神格化した貧乏神が登場してきます。
そして、江戸時代になり貨幣経済が浸透すると、その認知度を高めました。
基本的に追い払われる対象であり、災害のような厄災として襲い掛かるタイプではなく「貧乏な家に住み着いてしまう」という神様感の薄い存在です。
細分化されている福の神に比べて、貧乏という身近な存在でありながら細分化・固定化しなかったからこそ、貧乏神は今なおよく創作に用いられているのだと思います。
今回読む「日本永代蔵」(にっぽんえいたいぐら)は当時の町人を描いた短編創作です。世間の噂話を当時の有名な固有名詞を使いながら如何にもそれらしく、かつ滑稽に描いており、貨幣経済が浸透した当時の町人の価値観が表れています。
今回の「祈る印の神の折敷」(いのるしるしのかみのをしき)は、小さな店の商人が貧乏神を祀ってみたらそのお告げで大成功を収めた、という話です。
とは言っても、偏見ない慈悲が報われるという類の話では必ずしもなく、やはり貧乏神はなんだか哀しい扱いです。
多くの人が福の神に祈るが大抵は成功しない時代、貧乏神の力か商人の独力か微妙なところ、江戸時代の町人世界における世俗的な神様観がよく現れているのではないでしょうか。
(「祈る印の神の折敷」現代語訳・古文に続く)
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