2.刑部姫「播州姫路の城ばけ物の事」

 今回も前回に続き、刑部姫を取り上げます。

 (お話は独立していますが)まだの方はぜひ前回からご覧ください。


 刑部姫・刑部大神の伝説は江戸時代各地に伝わり、様々な逸話があります。

「おさかべ」の表記も文献でまちまちです。

 刑部・長壁・小坂部・於佐賀部など


 そして、刑部大神を祀るのは前回述べた姫路城だけではありません。

 姫路から遠く、群馬県の前橋東照宮でも「長壁様」が祀られています。


 1749年、姫路藩主の松平朝矩が前橋藩に国替えになった際、姫路城天守閣に祀っていた刑部大神も前橋に移しました。(松平朝矩(とものり)は「引っ越し大名」松平直矩(2代)の越前松平家5代目)しかし、前橋城では天守閣に祀らなかったことで長壁姫は怒り、利根川を氾濫させたと言われています。

 度々の水害により、67年朝矩は川越城に居城を移します。すると、朝矩の夢枕に長壁姫が現れ、自分も川越城に連れてけと言います。朝矩は「城を守れない神を連れてくものか」とお断り。すると、翌年に朝矩は病死。これは長壁姫の祟りだと伝わっています。

 長壁大神は前橋で祀られ続け、1898年(明治31年)に前橋東照宮に合祀され、現在に至ります。


 天守閣に祀れとこだわる、わがままなお姫様ですね。さて、取り上げる『諸国百物語』の「播州姫路の城ばけ物の事」は前橋城の逸話より前にあった話ですが、「わがままなお姫様」像はどこか共通するところがあるかもしれません。

 『諸国百物語』の段階では、まだ「刑部姫」という固有名詞は記されておらず、前回と今回の話を起点に段々と「刑部姫」というキャラクターの印象が徐々に形作られていくこととなります。


 若侍への厚遇に比べ、必要のない罠にかけられて脅かされた城主が不憫な話です。刑部姫の城のぬしであることへの強いこだわりが見られます。


(「播州姫路の城ばけ物の事」現代語訳・古文につづく)

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