三
何の打開策も打ち出せないまま、さらなる想定外の事態が起きた。裏切りである。そんな可能性すら、まったく予想されていなかった。正体すら定かではない敵に与して、一体何の得があろうか。しかしとにかく現実にそれは起こってしまった。裏切ったのは捕虜が運び込まれた後方基地のひとつ。彼らは捕虜だった異星人を解放すると、味方の背中へ向けて攻撃を始めた。
突然の凶行への驚きと、前後から受ける攻撃に、前線の部隊は混乱を極めた。更にその混乱に拍車をかけるように、次々と裏切りが続発していった。
大きな損害を受けながらも、同盟はなんとか挟撃をしのぎ切り、そしてようやく糸口を見つけることに成功した。捕らえた反乱分子に、異星人と同じ兆候が見られた。すなわち、感情と言語の喪失である。彼らは一言も言葉を発することがなくなり、自身の生命を維持するための最低限の行動しか取らなくなった。
徹底的な調査、検査、解剖を経て、人類はその原因にたどり着いた。被害者、というべきか、彼らの体内から未知のナノマシンが検出されたのだ。その名の通り、目に見えないほど小さな機械であるナノマシン。それ自体は同盟でも珍しいものではなかった。同盟では主に医療などの用途で使われていたが、見つかったそれは人類が使用するものより遥かに高度なものだった。細かな作用や機能までは解析できなかったものの、これが突然の裏切りの原因であることは想像に難くない。恐らく、異星人もこのナノマシンの作用によって、あのような状態になっていたのだろう。言語が存在しないことも、これで説明がつく。体内のナノマシンによって通信を行えば、言葉を使わずとも意思疎通は可能だ。
やっとつかんだ情報ではあるが、それを知ったところで人類にとって圧倒的に不利な状況には変わりなかった。目に見えない相手に、どう対処すればいいというのだろうか。
変わらず送り込まれ続ける敵艦隊。いつの間にか入り込んでいるナノマシンによる裏切り。同盟の戦力はじわじわとその数を減らし続けていた……。
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