四
とにかく、人類には逆転の目が必要だった。ナノマシンの研究は、担当者の感染リスクを避けるため凍結。異星人との交配実験などという、おぞましい行為まで行われたが、それもまた成果を上げることはなかった。正確に言えば交配自体は容易に成功したが、その事実は公には伏せられた。そもそも成功したとしてどうなるものでもない。ギリギリまで追い詰められた人類が、わずかでも何か糸口が見つからないかと、藁にも縋る思いで行われたものだったが、結果は名状しがたい怪物を生み出すだけに終わった。
残された人類の最後の頼みの綱、指向性電磁パルス発生装置『ヴァジュラ・ボルト』。内部で熱核兵器を爆発させることにより、超広範囲に影響を及ぼす強力な電磁パルスを発生、宇宙艦艇の対電磁シールドすらものともせず、あらゆる電子機器を破壊する。当然、ナノマシンであろうと一網打尽だ。敵の要と考えられるナノマシン。それに対抗する策として、急ピッチで開発が進められていたこの兵器こそが同盟の切り札だった。しかしヴァジュラ・ボルトはまだ試験運用すら行われておらず、どれほどの影響が起きるかわからない。これが使用されれば、恐らく同盟内の星々やコロニーも甚大な被害を被るだろう。だがもはや一刻の猶予もない。既にいくつもの星が異星人の手に落ち、網の目のように張り巡らされた同盟のネットワークはずたずたに引き裂かれていた。今すぐにでも同盟内部に入り込んだ敵異星人とナノマシンを排除しなければ、同盟は再生不可能なまでの打撃を受けることになるだろう。決断の時が迫っていた。
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