人類史上初めての、星間戦争の勃発。渦巻く銀河の腕の向こう、暗黒の断絶の彼岸から現れる、異星人の大艦隊。

 戦いは激しさを極めた。敵の攻撃は散発的なものではあったが、問題となったのはその数だ。無尽蔵かと思えるほどの敵艦隊が、同盟の治める領域へと次々と送り込まれ続けていた。幸い軍事技術に大きな差はなく、地球側の兵器は異星人の兵器にも十分な打撃を与えることができた。しかし終わりの見えない防衛戦に、人類は徐々に疲弊していった。


 情報こそが最大の武器である。古の昔からこの時代まで、それは変わらない。初めての異星人との接触時、当然人類はまず彼らとのコミュニケーションを試みた。しかし結果は徒労に終わった。彼らは何の返答もなく同盟の領域へと接近を続け、沈黙のままに戦端は開かれてしまった。

 情報が要る。相手は何者で、何を目的としているのか。生態は? 文化は? どれほどの数、どれほどの規模の集団なのか? 何もわからない状態では、戦いを続けることは困難だ。彼らがコミュニケーションを拒否する以上、手荒な手段を使ってでも情報を得る必要がある。同盟はまず、生きた捕虜を手に入れることを考えた。

 これ自体はそう難しいことではなかった。戦闘で航行不能に陥った敵艦を拿捕し、その乗組員を捕らえることに成功したのだ。


 しかし、思ったような情報は得られず、むしろわからないことばかりが増えていった。彼らは実に多様な種族で構成された集団だった。獣のような姿のもの、爬虫類のような姿のもの、昆虫のような姿のもの、果てには不定形の原形質の肉体を持ったものまで、大きさも見た目も様々だった。そこまではいい。広い宇宙、様々な種族が存在し、また手を取り合うこともあるだろう。だが不可解なことに、彼らは言語を持たなかった。単に人類の言語が通じないというだけではない。彼らは彼ら同士ですら一切のコミュニケーションを取らないのだ。一切の言葉を発さず、死んだような目で佇み続ける異形の異星人達。最初は単に敵に情報を与えないために口をつぐんでいるのかと思われた。しかし違った。彼らは何をされても何ひとつ漏らさなかった。異星人相手には倫理も何もあったものではない。ましてや今は戦争のさなか、少しでも情報を引き出そうと様々な方法で尋問、拷問が行われたが、彼らは苦痛の声すら上げなかった。感情や自我の存在すら疑問視されるその異様さに、人類は恐怖を覚えた。

 そして恐怖と共に、疑問も大きくなっていった。野生動物ならともかく、相手は星を渡る船を作れるほどの文明を持ち、高度な艦隊戦を行うほどの知性を持ち合わせているはずだ。何のコミュニケーションも取らずにそれらが成立するはずはない。だが彼らの船を調べてみても、言葉や文字など意思疎通の手段は何一つ見つからなかった。

 調査が進むにつれ、その異様さも次々に明らかになっていった。過酷な拷問をものともしない、苦痛に対する異常な耐性。また驚くべきは、どうやら彼らは単一の生物群であるらしいということ。姿形はかけ離れているというのに、その内臓や神経組織はほとんど共通のものであったのだ。遺伝子的にも誤差程度の違いしかなく、異種同士での交配すら可能だった。そして何より人類を驚かせたのは、異星人同士だけでなく、地球の生物とも多くの共通点があるということだ。何の接点もない、生まれも定かではない遠く離れた異星の生物であるにもかかわらず……。


 捕虜から情報が引き出せなかった以上、頼みの綱は彼らの船だったが、乗員の不気味なまでの自我の希薄さを表すように、その内部に文化や生活感を感じさせるようなものは存在しなかった。更に、制御用のコンピュータは高度に自動化されており、そこから情報を引き出すのもまた非常に困難だった。

 技術面からのアプローチも試みられたが、まったくの未知と言えるようなものはほとんどなく、現在同盟で使用されている技術と近縁であるように見受けられた。例外と言えば、生命維持のためのものと思しきカプセルのような装置くらいだろうか。

 何から何まで異様なはずの異星人との、奇妙な類似点。新たに得た情報と同じだけ謎も増え、そして戦いを有利に変えられるような情報は結局何一つ手に入らなかった。わかったことといえば、彼らには交渉も懐柔も通じず、こちらが滅ぶか相手を撃退しきるかしか道はないということだった……。

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